Orchardシリーズ K-BALLET Opto『踊る。遠野物語』 In association with PwC Japanグループ

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2025.08.07 UP

絵本作家・森洋子氏インタビュー
紙芝居『踊る。遠野物語』に込めた思い

福音館書店の「こどものとも」に描かれた森洋子さんの絵本世界に強く心を動かされたことが、今回のコラボの出発点となった。『遠野物語』が持つ“ありえないのに信じてしまう、嘘のないファンタジー”──それは森さんの描く世界観とも驚くほど響き合う。

日本画家としてキャリアをスタート
東京・世田谷区出身。小学校3年生で日本画の先生に学び始め、写し描きを通して技を磨きました。高校で進路を考えたとき、「絵なら自分らしく生きていける」と思い、日本画を専攻。公募展の入選を目指しましたが、岩絵具の重ね塗りが濁ってしまい、自分の色感に自信を失いました。35歳頃に日本画を諦め、好きだった鉛筆デッサンに立ち返ります。
「鉛筆だと細部まで描き込める。小さい世界の中で、気配や匂いを感じさせる絵が描けるんです。」

絵本作家への転機
鉛筆やペンで描いた絵をハガキサイズに縮小し、毎月知人50人に送り続けました。「とにかく見てほしい」という気持ちだけ。100枚ほど続けるうち、作品世界が形になり、後の絵本制作へと繋がりました。
「描くのは、1960年代の下町の風景。足踏みミシンや銭湯、井戸のある暮らし……私が子どもの頃に感じた季節の匂いを絵に込めています。」
代表作に登場する少女「あっちゃん」は、理想の少女像だといいます。「私自身より正義感や優しさを持った存在。あっちゃんと一緒に、その時代の風景に入り込んでいるような感覚があります。」

まよなかの ゆきだるま
https://www.fukuinkan.co.jp/book?id=1646(外部サイトにリンクします)

『遠野物語』に惹かれる理由
森さんが描くテーマは「見えない気配」。それは『遠野物語』に共通する魅力だといいます。
「第4話に登場する笹原の女の着物の柄や、第99話の津波で亡くなった妻の許嫁の表情。細部の描写がリアルさを生んでいます。ファンタジーでも嘘のない世界──それを私も絵で追い求めています。」
鉛筆で質感を細かく描き込むのは、リアルに迫るための手法です。「『匂ってきた』と感じられるまで、構図を修正しながら描きます。」

『踊る。遠野物語』の紙芝居への挑戦
「この舞台の主人公が特攻隊員と聞いて、とてもふさわしいと思いました。柳田國男の作品に登場する“神隠しの子”も、特攻隊員の若者も理不尽に消えてしまった存在。主人公の若者は許嫁への思いから成仏できずに彷徨います。遠野物語の中にいても不思議じゃない気がします。」
「紙芝居は119話の中から5話を抜粋して構成しました。舞台の通り特攻隊員という一本の線が通ることで、物語がばらけずにすべてが貫かれ、説得力が生まれたと思います。」
紙芝居の絵では、零戦のコックピットをリアルに再現するため、知覧から送られた写真資料などを何度も確認しました。「嘘のない絵でなければ、場面に入っていけない。赤・白・金の三色だけを使い、視線が自然と操縦桿を握る手に集まる構図を試行錯誤しました。」
そして、完成した紙芝居を麿赤兒が語る映像を見たとき、衝撃を受けたといいます。 「効果音をすべて自分の声で演じていたんです。特に零戦が墜落する場面は、腹に響くような音で迫ってきました。暗闇の中、紙芝居とランプに照らされた麿さんの姿は彫刻のようで、顔の表情や声が重なり合い、紙芝居に命を吹き込んでいるように見えました。」
「『踊る。遠野物語』という作品の重層的な世界観が、麿さんの存在によってさらに立体的になる──それを肌で感じました。」 

紙芝居の第一話はこちらから

森 洋子(もり ようこ) プロフィール

東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒業。同大学院修了。
1960年代の東京の路地裏や家を舞台に、子どもや動物の登場する絵を鉛筆で描いている。
絵本に『まよなかの ゆきだるま』『おるすばん』(福音館書店)、『かえりみち』(トランスビュー)、『ぼくらのひみつけんきゅうじょ』(PHP研究所)などがある。
2024年『さがしもの』(『TEDDY'S MIDNIGHT ADVENTURE』)で英国Queen's Knickers賞Runner-Up(銀賞)を受賞。