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2025.07.03 UP
<あらすじ解説>『踊る。遠野物語』
「この世とあの世のあいだで、もう一度君とあえたなら。」別れし許嫁の面影を追う青年の、悲しくも切ないもう一つの遠野物語。

1945年8月。特攻隊員の青年(石橋奨也)は、許嫁・響子(大久保沙耶)に宛てた遺書を胸に、戦地へと飛び立つ。けれどその途中、彼はまるでこの世から滑り落ちるように、“遠野”の地へと吸い寄せられていく。そこは、生と死、現実と幻想が交わる“あわいの世界”だった。

風が揺らす赤いすだれ。苔むした石。舞台を漂う雪。空間にしんしんと沁み込むのは、尺八(中村明一)や祈りの声。観客の五感を包みこむような音と光のなかで、青年はひとり目覚める。
そこに現れたのは、あの世とこの世を自由に行き来する、不思議な「少年K」(尾上眞秀)。彼に導かれながら、青年は遠野の山や川に宿る異形の存在たちと出会っていく――
河童(森山開次)、大天狗、山姥、座敷わらし、サムトの婆、そして死者(麿赤兒)の気配。その道中、青年は雪女、オシラサマ、馬を引く娘(大久保沙耶)と現れる女性に響子の面影を重ねながら、記憶と未練の際をさまよう。


やがて舞台には、獣のような山人たち(大駱駝艦)が現れ、荒々しくも繊細に身体が語り出す。遠野に伝わる119の異聞が、ひとつの「鎮魂の旅路」として交差し、青年の魂を包み込んでいく。
突如、赤い津波が舞台と観客席をのみこむ刹那、物語はクライマックスを迎える。青年はついに響子と海辺で再会するも、彼女は彼の死を受け入れ、静かに新しい人生を歩み始めていた。
変わらぬ想いと、変わってしまった現実。
青年の魂が最後にたどりつくのは、遠野に古くから伝わる祈りの舞「シシ踊り」。シシたち(Kバレエ・大駱駝艦ほか)の咆哮、響く太鼓、たちのぼる白煙――
音と身体が渾然一体となる祝祭のなか、青年が静かに舞い始める。
絵・森 洋子