Orchardシリーズ K-BALLET Opto『踊る。遠野物語』 In association with PwC Japanグループ

制作ノート

2025.08.01 UP

ワークショップ見学レポート

この日は、Kバレエ トウキョウ以外のゲストダンサーを対象にしたワークショップ。尾上眞秀、大駱駝艦の村松卓矢、松田篤史、小田直哉と、奥山ばらば、水島晃太郎、小川莉伯が参加しました。演出・振付を務める森山開次とは、この日が初顔合わせ。見学席には音楽監督・作曲を手がける尺八奏者の中村明一、箏奏者の磯貝真紀、本作に出演する田中睦奥子、そして後半には麿赤兒も姿を見せ、稽古場の空気が一気に引き締まりました。

©Hajime Watanabe

経立(ふったち)払いのシーン

©Hajime Watanabe
稽古の冒頭で取り組んだのは、少年K(尾上眞秀)が妖怪・『経立』を祓うシーン。 舞台中央に立つ眞秀は、布で作られた長いお札の面で顔を覆い、祈るように構えたかと思うと、左右に鋭くステップを踏み出します。その動きは、歌舞伎のとび六法を思わせるダイナミックな跳躍と沈み込みを融合させた独特の所作。足裏で床をしっかりと押さえながら、肩と腰のひねりを効かせる動きは、舞踏的な重さと歌舞伎的な張りを併せ持ち、彼ならではの存在感を放ちます。

森山による少年Kのスケッチ©森山開次
少年Kの両脇には、6体の経立が腰を低く構え、唸り声を上げながら取り囲むように迫り来る。森山は、一つひとつの角度や呼吸を穏やかに修正し、12小節分の舞を何度も繰り返すたび、眞秀の動きがどんどん研ぎ澄まされていきます。

経立たちのスケッチ©森山開次
無垢な少年Kと、禍々しい経立たち──決して交わらない両者のコントラストが鮮烈で、稽古場であることを忘れるほどの迫力。尺八の鋭い音色が空間を切り裂くたび、空気がピンと張りつめました。
©Hajime Watanabe

『遠野物語』の断片を次々と試作

©Hajime Watanabe
休憩を挟むと、少年Kを除く6名が、『遠野物語』のエピソードを次々と舞台化していきます。第3話「髪の長い山女」、第60話~62話に登場する鹿や大天狗の逸話──。鹿の角を狙った鉄砲が石に変わる場面や、大天狗が羽を広げて襲いかかる瞬間など、短いエピソードを小道具と動きだけで鮮烈に描きます。

大天狗のスケッチ©森山開次
森山は簡潔に指示を出し、ダンサーたちは瞬時に身体で応答。低い重心で滑るように動き、唸り声を響かせて異形の存在になる様は、見学席からでも迫力が伝わり、思わず息を飲むほどでした。

©Hajime Watanabe
森山が笛をピュッと吹くと、場の空気が一変し、瞬時にシーンが立ち上がる。その瞬発力と完成度は、ジャンルを超えた実力者たちならでは。

小道具が描く異界
少年Kが顔を覆う札布の面、鹿の角、天狗の面や翼、黒い長髪、赤いロープで作られた赤子人形……。これらの小道具が舞台に持ち込まれるたび、異界のリアリティが増していきます。これからさらにどんな仕掛けが登場するのか、期待が膨らむばかりです。

©Hajime Watanabe


文:結城美穂子