2022.12.23 UP
リハーサルレポート到着!
来年、1月8日(日)、9日(月・祝)に公演が予定されているK-BALLET Opto 。公演まで半月あまりとなったこの日、上演する2演目のリハーサルを見る機会を得た。
統制された様式美に見出す感情の爆発『ペットボトル迷宮』
この作品を振り付けたアレッシオ・シルヴェストリンは、リヨン・オペラ座バレエ団、フランクフルト・バレエ団などで研鑽を積んだ経験から、クラシカルで繊細なバレエのステップをベースに、それらを複合的に組み合わせ、ダイナミックで幾何学的なフォーメーションを作り上げることで知られている。リハーサル中、シルヴェストリンは、早く細かい動きを丁寧にチェックしながら進めていく。
作品の中間部分では、バッハのオルガン曲がインテンスにモティーフを繰り返す中、後方に一列に並んでいたペットボトルの精を演ずるダンサーと、前面にいるソリストたち(飯島望未、日髙世菜、堀内將平、成田紗弥)の全員が舞台全部を使って四方に散っていく。ポワントを履いた女性達は、万華鏡が複雑で幾何学的な移り変わりを見せるように、刻々とフォーメーションを変化させる。
それに呼応するよう、男性ダンサー達は連続的な一糸乱れぬ緻密なステップを披露する。彼らの動きは、よく見ると周期性を持っており、中心となる動きは形を変えながらも繰り返されていく。その周期性を目で追っているうちに、シーンはがらりと変わり、突如、意表を着くクラブミュージックが流れる。統制され緻密に計算されたダンサー達の断続的な激しい群舞は、揃えば揃うほど、異質な音楽力もあり、彼らの感情が爆発された大円団のようにも見える。ダンサーは複雑な振付を、機械的にではなくキレの良い動きで非常に伸びやかに、キビキビと踊り続けている。構築的に積み上げられた振付をこのようにナチュラルで滑らかに、そして魅力的に踊りこなすには、相当なクラシックバレエのスキルが備わっていないと実現できない。シルヴェストリンの精緻な様式美をKバレエのダンサーが魅力的に見せてくれる絶好の機会となりそうだ。
制御された抽象的な形式美の中に、情念・感情を爆発させる。それはまさにシルヴェストリンが美を見出した「能」の根底を流れる精神にも通ずるのではないか。果たしてペットボトルの供養はどう描かれるのだろう。舞台美術や衣裳、照明、演出が揃って完成する、ペットボトルの迷宮を早く見てみたい。
美しくエモーショナルな『ビニール傘小町』
渡辺レイの振付は、ストーリーがわかりやすく、物語の世界へと自然に誘ってくれる。まず黒いスーツ姿の3人の僧侶(石橋奨也、杉野慧、栗山廉)が華やかで目を引く。三者三様の表現がとても魅力的だ。やがてポリエチレン気泡緩衝材(プチプチビニール)の衣裳を着けたポリエチレンの精に囲まれ深草少尉(山本雅也)が登場し、老婆の夢の世界へ。若い頃の老婆である少女(小林美奈)も現れて繰り広げられる舞踏会シーンはとても美しい。ドヴォルザークの交響曲第8番第3楽章が流れる中、古典作品では見ることのできない優雅だけれどワイルドなワルツを楽しめる。男女のペアが、リフトを交えつつダイナミックに踊るのが新鮮で、いつまでも見ていたい気持ちになる。続く深草少尉と少女のパ・ド・ドゥはしっとりとして感傷的。美しい二人から老婆の人生における最高の瞬間であることがわかる。
おそらく、本番では舞台美術や照明を浴びてキラキラ光を反射させるビニールの衣裳は、非現実的、SFチックな世界観を生み出すことだろう。クラシックの音楽ばかりではなく、意外性のある音楽も登場する。洗練されたポップさを作り出すことはなかなか難しいものだが、この作品では存分に楽しめることだろう。さらに、この作品は夢と現を行き来する老婆の物語である。そして老婆の夢はとても甘く美しく、誰もが共感できる。現実離れしたポップな舞台で、ビニール傘と老婆とを重ね合わせる残酷さと美しい物語がダンスによって紡がれる。作品のコアである老婆の物語にも注目したい。
非常にクオリティの高いドラマティック・バレエになる予感がする。本番が待ち遠しい。
ⒸHajime Watanabe
『ペットボトル迷宮』の舞台セットの制作現場より
リハーサル映像是非ご覧ください!