オーチャードホール×假屋崎省吾
ヴェルディ:オペラ《椿姫》
~Bunkamuraシアター・オペラ・コンチェルタンテ2022~

Interviewインタビュー

サッシャ・ゲッツェル インタビュー

本公演で指揮を務めるサッシャ・ゲッツェルさんにメールインタビューしました。

©Özge Balkan

ゲッツェルさんは、ウィーン国立歌劇場など、世界のオペラハウスで活躍されていますが、オペラのどういうところに魅力を感じられますか?

オペラは、クラシックのなかでも、最も強くストーリーを語る形態の音楽です。オペラは、音楽、文学、建築、演技、そして多くの場合、舞踊の5つが結びついて成立しています。そのことで、オペラが、すべての芸術の形式のなかで最も洗練されたマルチな芸術体験となっています。

私たち指揮者にとって、このストーリーを語る芸術の増幅は、リハーサルの過程や本番で、最もかわいらしいものや愉快なものから圧倒的なスリルや魅惑まで、すべてを可能にしてくれます。そして私たち指揮者の務めは、オペラのストーリーを語るために、(建築を除く)これら全部の芸術を考慮し、それらを完璧に一体として機能させることなのです。

オペラにとても魅了されている私は、先頃、メタバースのために将来創り出される、脳内オペラというコンセプトで、「OrpheusDAO.com」という名前のWeb3.0マルチ・アート・プラットフォームによるブロックチェーンを立ち上げました。私たちは未来の若い世代の聴衆を大切にしなければならないし、クラシック音楽とオペラのマルチ・アート・フォームが、既に存在しているアナログのフォーマットと並んでWeb3.0スペースのなかでも体験できると私は信じています。オペラに、タイムラインや厳格な「パフォーマンスの空間」はありません。古代ギリシャから、人類の歴史のある時点以来、オペラは無限の芸術形式として存在しています。次の何千年のために、私たちは、すべての起こり得るテクノロジーの進化とともにオペラが体験されることを明確にしておかなければなりません。

今回、《椿姫》を指揮されますが、この作品をどのように解釈されていますか?聴きどころはどこでしょうか?

ヴェルディの《椿姫》は最初の音から最後の音まで傑作です。私のヴェルディへのアプローチは、「よく生きるための能力」(それは第1幕やそのほか主要部分のヴィオレッタのライフスタイルに表れています)というイタリアのライフスタイルの一つから来ています。私の解釈は、テキストに沿った音楽に基づいています。オペラにおいては、音楽は、ストーリーに沿った主人公の感情の動きやドラマの感情の展開に従わなければなりません。それぞれの登場人物が我々と舞台で音楽を作り上げていくときに感じる心の動きを我々が描くときだけ、それぞれの登場人物の個性を理解することができます。

《椿姫》の台本に《ファルスタッフ》や《アイーダ》などの音楽を組み合わせることを想像してみてください。不可能です。ヴェルディは、モーツァルト、リヒャルト・シュトラウス、プッチーニらと同様に、音楽と台本の関係を通して、舞台上の主人公たちの感情を描く名人でした。私は、まず、歌手たちとともに、彼らの役柄を通して彼らが表現したい感情を探求し、それから、総合芸術の最上質の感覚に向けて歌手たちをサポートするために、それらの感情をオーケストラとともに発展させます。それは非常に濃密で、最高に美しい過程であります。

今回、ヴィオレッタを歌う森麻季さんとは2018年1月の「N響オーチャード定期」第97回でも共演されていますね。森麻季さんにはどういう印象をお持ちですか?

森麻季さんは、美しい歌唱と独自の演技が結びついた素晴らしいアーティストです。しかし、それ以上に、彼女の音楽への誠実さを通して、異なる様々な役を演じることができる対応力が非常に優れているのです。彼女は日本の新しい若い世代の歌手たちのロール・モデルになっているように私には思えます。彼女と再び共演できるのは大きな喜びですし、すべての濃淡や層、無限の色彩とともに、彼女とヴェルディの音楽そしてヴィオレッタという役柄を探求したいと思います。

インタビュー:山田治生(音楽評論家)