小山実稚恵ピアノ・リサイタル ~親愛なるシューベルト~

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Introductionイントロダクション

小山実稚恵がおくるオール・シューベルト・プログラム

オーチャードホールで長年にわたり印象的なシリーズを続けてきたピアニスト、小山実稚恵が今秋シューベルト・リサイタルを開催します。
最後のピアノ・ソナタ第21番のほか、楽興の時、即興曲から数曲を演奏予定。
シューベルトには近しい想いを感じると以前より語っていた小山が紡ぐ名曲の響きをお楽しみに。

繊細な手によって編まれた
シューベルトのきらめき

音楽ライター 片桐卓也

歌曲の数も膨大だが、ピアノ曲の数も想像以上に多い。しかも珠玉の作品が隠されている。わずか31歳で亡くなったフランツ・シューベルトの世界が限りなく広く感じられるのは、ひとつひとつの作品に彼が閉じ込めたイメージが溢れるほどに豊かだからだろう。それを最も直接に感じられるのが彼のピアノ曲の世界だ。
小山実稚恵はこのリサイタルで、前半はそのシューベルトのピアノ曲から「楽興の時」と2集ある「即興曲」のセレクションとした。まるで違った色の透明な石を並べてひとつのブレスレットを作るように、繊細な感覚で編まれたこのセレクションは、ハッとする瞬間に満ちている。シューベルトの独白、あるいは彼の心の内を覗いてしまうような感覚に導かれるだろう。
そして、後半は人生最後の大作「ピアノ・ソナタ第21番」。古今東西のどんな作曲家のソナタよりも、永遠という感覚を教えてくれる音楽である。ある部分では、有名な「冬の旅」より孤独と絶望を感じさせ、他の部分では子供の夢のような無邪気さを思い出させてくれる。ひとつのピアノ・ソナタの中で、これほどの感情の揺れ動きを体験させてくれる作曲家を他に知らない。
いま小山実稚恵の手によってシューベルトの未知なる扉が開かれるのを、オーチャードホールで共に体験したい。

小山実稚恵さんの紡ぐ
シューベルトの歌と願いと言葉

音楽評論家 萩谷由喜子

日本ではかつて、シューベルトのピアノ・ソナタはあまり演奏されなかった。ベートーヴェンほど堅牢な構築性や野心的な革新性を持つわけでも、ショパンほどロマンの宝石が零れ落ちるわけでもないからだ。だがある時期から、彼のピアノ・ソナタや即興曲に光が当たり始め、今ではこれらをベートーヴェンやショパンの格下に見る人はいなくなった。つまり、近年の日本にはあきらかにシューベルト・ルネサンスがあった。その旗手の一人こそ、小山実稚恵さんなのだ。あの伝説的な「12年間・24回リサイタルシリーズ」でも最後の3つのソナタ他を採り上げ、シリーズ継続中に『即興曲全8曲』CDもリリースした。おかげでシューベルトはぐっと我々の身近になった。小山さんが紡ぐのは、シューベルトの心に湧き出でてやまない歌であり、ひそかな憧憬であり、ため息と涙、そしてやさしい言葉である。そこに彼の真髄があることを、小山さんは「親愛なるシューベルト」でも伝えてくれるはずだ。

Programプログラム

  • <オール・シューベルト・プログラム>
  • 楽興の時 D780 作品94/即興曲 D899 作品90/即興曲 D935 作品142 より
  • 楽興の時 作品94-6 変イ長調
    〈トルバドゥールの嘆き声 Plaintes d'un Troubadour〉
  • 即興曲 作品90-4 変イ短調
  • 即興曲 作品142-1 ヘ短調
  • 楽興の時 作品94-3 ヘ短調
    〈ロシア風旋律 Air russe〉
  • 即興曲 作品142-2 変イ長調
  • 楽興の時 作品94-5 ヘ短調
  • 即興曲 作品90-3 変ト長調
  • ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D960

Messageメッセージ

ひそやかなシューベルトのため息が近づいてくる…
叶わぬ願いと知りつつ、音に願いを込め続けるシューベルト。
あまりにも美しい歌はそっと心に寄り添いながら、閉じた心の奥深くにやさしい言葉をかけてくれる。
弾けば弾くほど好きになってしまうシューベルト。
その、シューベルトの歌に身を任せていると、こんな幸せがあるのだと胸がいっぱいになります。
楽興の時と即興曲、そして最後のソナタ
今思う、感じる、シューベルトプログラムです。

Profileプロフィール

©Hideki Otsuka

小山実稚恵Michie Koyama

圧倒的存在感をもつ日本を代表するピアニスト。チャイコフスキー国際コンクール、ショパン国際ピアノコンクール入賞以来、常に第一線で活躍し続けている。協奏曲のレパートリーは60曲を超え、国内外の主要オーケストラや指揮者からの信頼も厚く、多くの演奏会にソリストとして指名される。Bunkamuraオーチャードホールにおいては、『12年間・24回リサイタルシリーズ』(2006年~17年・芸術選奨文部科学大臣賞受賞)や『ベートーヴェン、そして...』(2019年~21年)が、その演奏と企画性で高く評価されたことが記憶に新しい。22年からはサントリーホール・シリーズ Concerto<以心伝心>を開催。東日本大震災以降、被災地でも演奏を行い、仙台では被災地活動の一環として自ら企画立案した「こどもの夢ひろば“ボレロ”」を毎年開催。CDは、ソニーと専属契約を結び、32枚をリリース。近作の2つのベートーヴェン・アルバムは、深化するピアニズムが大きな話題を集め、ともに「レコード芸術」特選盤に選ばれた。著書に『点と魂と』。平野 昭氏との共著に『ベートーヴェンとピアノ』(全2巻)がある。17年には紫綬褒章受章。

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