Pianos’ Conversation 2022 鈴木優人 plays Bach to Piazzolla

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2022.05.10 UP

鈴木優人インタビュー到着!

ピアニスト・鍵盤楽器を中心とした様々なコラボレーションをお楽しみいただく、ピアノ’s・カンバセーション・シリーズ待望の第2弾! 今回は指揮者・作曲家としても活躍する鍵盤楽器奏者、鈴木優人さんを迎え、オルガン、チェンバロ、ピアノを中心に、バッハからピアソラまで、多彩な音楽の世界をお届けします。7月3日(日)の公演を前に、鈴木優人さんにお話を伺いました。

聞き手:大橋悦子

 

鍵盤楽器でタイム・トラベル!

――今回の公演には様々な鍵盤楽器が登場するそうですね。

「ピアノ」’s・カンバセーションというシリーズですが、ピアノだけでなく、いろいろな鍵盤楽器のカンバセーション(会話)というコンセプトで進めていこうと思います。2部構成の第1部は、オルガンとチェンバロを中心としたソロ・コンサート。J. S. バッハから20世紀以降の武満徹やポップスの名曲まで、様々な時代、様々な音楽ジャンルの鍵盤音楽を楽しんでいただこうというもの。第2部では、スズキトレスというタンゴ・トリオに登場してもらい、ピアノといっしょにバッハの『フーガの技法』とピアソラのタンゴの名曲を演奏します。バッハとタンゴという異色の組み合わせですね。

第2部ではピアノを弾く予定ですが、タンゴのはっきりとしたビートには、実はチェンバロの音がよく合うので、ひょっとしたらチェンバロを弾く可能性もあります。よくチェンバロは優雅な音だとか、優しい音ですね、なんていわれますが、発音のタイミングでいうと、むしろピアノよりもずっと容赦ないというか、パーンと音が出るので、タンゴにはピッタリかなと。
逆に第1部でも、オルガンやチェンバロとの弾き比べ、聴き比べのような感じで、ピアノも弾くかもしれません。即興演奏も含め、その場でいろいろな鍵盤楽器のカンバセーションを楽しめたらいいなと思っています。 

 

  鈴木優人 ©Marco Borggreve



組み立て式オルガンに注目!

――今回、組み立て式のパイプオルガンがオーチャードホールに初登場するということですが。
 

これは画期的なオルガンで、楽器の仕組みは教会やコンサートホールなどに備え付けの大規模オルガンとまったく同じですが、ステージ上で組み立てて演奏できるように作られています。楽器を6つの部分に分けて運搬できるので、オーチャードホールのように、ホールにもともとオルガンがない場所にも持ってくることができる。3時間くらいで調律までできてしまうんです。

もともとこのオルガンは、2019年4月にバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)でバッハの『マタイ受難曲』を弾くために作ったものです。『マタイ受難曲』は特に通奏低音が重要で、この作品ではオルガンがコラールの旋律も弾くことになっています。それが譜面に書いてあり、音色まで指示されている。バッハ・コレギウム・ジャパンはオリジナル楽器で演奏していますし、ピッチも現代より低いピッチを使います。コンサートホールのオルガンのピッチは、通常は現在一般的な442Hz(ヘルツ)で、調律法も平均律なので、BCJの他の楽器と合わないので使えない。その日だけオルガンの調律を全て変えて、コンサートの後にまた戻すというのはまず不可能なのです。小型のポジティフオルガンを使ってもいいのですが、バッハは本当はホールにあるようなサイズの楽器で演奏していたわけですし、大きなオルガンを使いたいという想いがずっとあって、それで作ったのがこの楽器なんです。

2段鍵盤にペダルがついていて、音色を選ぶストップは全部で11。1段目に4ストップ、2段目に5ストップ、そしてペダルに2ストップ。ほかにもより多くの音色が作れる装置や機能が備わっています。生まれたきっかけは『マタイ受難曲』のコラールや通奏低音を弾くためでしたが、もちろんオルガンのリサイタルにも使えるように設計されています。これまでも大きなホールで何回もこの楽器で通奏低音を弾いてきましたが、ホールでソロ演奏をするのは、実は今回が初になります!

 

  バッハ・コレギウム・ジャパン 2019年「マタイ受難曲」公演

 

――それは楽しみですね。オーチャードホール初登場にして、初のソロ演奏披露! これは貴重なコンサートになりますね。

私もすごく楽しみです。ソロではバッハの名曲「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」や「小フーガ ト短調 BWV578」のほか、クープランの『教区のためのミサ曲』から抜粋で何曲か弾く予定です。
クープランというと、装飾的で華やかなクラヴサン(フランス語でチェンバロと同語)曲をイメージする人が多いと思いますが、実はクープランは長い間オルガニストを務めていたのです。彼の礼拝のための音楽とクラヴサン曲とでは曲調がだいぶ違うので、そのあたりもぜひ聴き比べていただきたいですね。

 

チェンバロで現代曲やJポップも?

――クープランのクラヴサン曲をはじめ、チェンバロのために書かれた作品だけでなく、時代もジャンルも様々な楽曲をチェンバロ1台で演奏されるそうですね。

オルガンとともにチェンバロが鍵盤楽器の主役だったバロック時代のバッハやクープランの作品には、もちろんチェンバロ音楽の魅力がたくさんつまっていますが、クープランと同時代のフランスの作曲家、ラモーの「めんどり」などはかなりユニークな作品。和声など度外視で、めんどりの鳴き声を模した曲は、当時かなり前衛的だったのではないかな?

武満徹のハープシコード(英語でチェンバロと同語)のための「夢見る雨」は、2010年の私のデビュー・アルバムにも収録した作品ですが、昔の作曲家の作品に比べて、楽譜には鍵盤交代やレジスターの指示など、より具体的な指示がたくさん書かれています。それでうまく音色の変化が生まれるように作曲されているんですね。こうした現代曲で初めて出会うチェンバロの音があるかもしれませんね。

現代のポップスを弾くとしたら、自分で音色を選んでアレンジしていく楽しさがあります。何を弾くかは当日のお楽しみ!
あとバッハなどで、みんながピアノの練習でよく弾く曲を、チェンバロで弾き比べるというのもいいですね。
 

  鈴木優人 ©林喜代種

 

タンゴ好きの4人目の鈴木が、念願かなってトリオと共演!

――第2部のスズキトレスとの共演のきっかけは?

実は、ぼくはタンゴが大好きなんです。バンドネオンの鈴木崇朗さんと知り合って、「鈴木3人でスズキトレスというタンゴ・トリオをやっている」と聞いたとき、思わず「ぼく、それに入れるの?」って。それがきっかけですね。タンゴのコンサートができるなんて、本当に幸せです!


こんなに遊ばせてもらえるのは、すごく嬉しくて楽しい!

――お話を伺っていると、ご自身が今回の公演を誰よりも楽しみにされているのが伝わってきます。

今回オーチャードホールで、大好きな音楽でこんなに遊ばせてもらえるのが嬉しくて。それぞれの作品の持っているシリアスさというのは常にあるんですけど、自分が鍵盤を弾いて音を出して、それをお客さまと共有することがすごく楽しい。その楽しさは、特に第2部のタンゴ・トリオとのコラボレーションで前面に出るんじゃないかなと思います。
オーチャードホールをプレイグラウンドにして遊んでいるような感じになりそうですが、そうやっていいよっておっしゃってくださるから、本当に楽しみです。

 

鈴木優人からのコメント動画はこちら