2018.12.07 UP
ヤン・リーピン 特別インタビュー ~前半~
世界的ダンサーでありながら、数々の名作を世に送り出す稀有な演出の才覚を持つヤン・リーピン。3年ぶりの来日公演では、日本初披露となる『覇王別姫~十面埋伏~』を上演。今回は、芸術監督に専念して、中国史上最も壮大でドラマティックな戦いといわれる楚漢戦争、項羽と最愛の虞美人の悲恋の物語を描きました。ダンスの殿堂ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場での初演では、スタンディングオベーション、各新聞社からも高評価を得た話題作が、いよいよ来年2月に日本初上陸。
公演に先駆け、ツアーで多忙を極めるヤンが、特別に本作の見どころや日本公演に向けての思いを語ってくれました。
―今回、出演はせず、演出・振付に専念していますね。
演出家として作品を創作することは、長年の夢でした。今までは、ダンサーとして踊っていたので、視点が現実的にステージの上にありました。常に観客の目線で作品の出来を見ることができるのは、望んだことでもあり、とても楽しいと感じています。
―これまでの作品とは印象が変わって、武術、アクロバット、バレエ、ヒップホップなど様々な要素があるようですが。
これまで、雲南やチベットの文化など、民族色を濃く打ち出してきたようにも見えているかもしれませんが、そもそもすべてのことに興味はあります。また、少数民族の題材だけだと外国人には少しわかりにくい部分もあったようです。ですから、様々な東洋文化や現代舞踊の要素を織り交ぜた汎中国的・アジア的な物にしました。現代的な舞踊という形で見せることができて、よりわかりやすくなったのではないかと思います。
―『覇王別姫~十面埋伏~』は、映画や京劇として有名な『覇王別姫』に基づくものですね。なぜ、この物語を作品にしようと思ったのでしょうか?
中国では誰もが知る『覇王別姫』の美しい愛の物語を、語り継ぎたい、現代に蘇らせたいという思いから創作することに決めました。2000年前の物語ですが、描かれていることは、古代の物語とは思えないほど、とても現代に通じていると思います。考えてみれば、それぞれの人物も現代社会によくいる人物です。時は変わっても、人は変わらない。歴史上の人物の愛や欲望、その心は現代の人にも宿っていると思います。創作の過程では、それがとても興味深かったですね。
また『覇王別姫』のストーリーを忠実に描くのではなく、主要人物を2000年前から呼び起こし感情移入しやすくすること、十面埋伏という異常な状況下に置かれた人物の内面を描くことに、焦点をあてて作品を創りました。
―では、登場人物とそれぞれの役について教えてください。
楚漢戦争では多くの名将がいますが、項羽、劉邦、韓信、簫何、虞美人の5人を登場させました。特に、貴族出身で情熱的で個性の強い西楚の覇王・項羽、庶民出身で人を扱うのがうまい策士である漢王・劉邦の2人をとても対照的な人物として描き、2人の違いを浮き立たせることで、ストーリーをダイナミックにしました。
もともと仕えていた項羽軍を抜け出し、劉邦軍の将軍となり勝利をもたらした韓信。彼は、善良な部分はとても善良なのに、冷酷な部分は人一倍冷酷な人物です。その二面性をはっきり演じ分けたいと考えました。人が持つ善と悪、欲望と知恵は常に相反し、影のようにつきまとっているので、2人のダンサーに演じさせ、黒と白に色分けをしました。一人は表の顔、もう一人は心の闇を表現し、人間が持つ二面性を強調しています。
また「韓信の股くぐり」の故事にも残っているように、韓信が人の股を潜る動作を作品に入れています。あれは韓信ならではの動きだと思います。故事を振付に取り入れるのは珍しいことだと思うので、そこも見ていただきたいと思います。
そして、劉邦軍の名参謀・蕭何。彼は、冷静で頭がよく、終わることのない戦に溜息をもらしながら、歴史をみつめている人物で、物語を進行する語り部の役割を担っています。若手の京劇俳優が演じますので、独特の発声法や体の動きに注目してみてください。
さらに、項羽が生涯を通じて愛した虞美人が登場します。かつて梅蘭芳など京劇の素晴らしい女形の役者たちが虞美人を演じていましたね。京劇の影響もあって参考にしているのですが、その伝統的な手法を借りて男性に虞美人を演じてもらっています。こちらも素晴らしい若手ダンサーが演じています。
―なかでも、虞美人が注目のようですが。
もともと、私は虞美人という女性にとても惹かれていました。このストーリーの中での虞美人の気持ちには、演出している私ですら、とても感動させられるのです。普遍的で美しいですね。愛のために自分を犠牲にする気持ちに本当に心を動かされます。
―稽古中に、ヤンさんが虞美人と項羽のデュエットを観て思わず涙ぐんだと聞きました。
はい。稽古場で涙したのは、私だけではありません。その場にいたダンサー、スタッフ全員が2人の踊りを観て泣きました。2000年の時を超え、今まさに目の前で美しい愛が蘇ったと感じました。観てもらうしかないのですが、長い稽古を通して踊りは完成していても最後に「愛」を込めないと観客に感動は伝わらないものだと思います。虞美人が愛のために命を犠牲にする様子、その感情は、1000年の時を越えても2000年の時を超えても伝える事ができる。この愛の普遍さと悲しさに私たちは感動を覚えるのだと思います。そこに、私は感動して何度も涙を流してしまいます。ダンサーの演技・踊りを是非見てください。
ヤン・リーピンのメッセージ動画はこちら!一番の見どころとは?