2018.04.23 UP
年間100以上の公演を鑑賞!世界のダンサーを見尽くした森さんが語るキミンの魅力とは!?
世界中のバレエ情報を即座に発信し、日本のバレエ・ファンの「お気に入り」には必ず入っているといっても過言ではないブログがある。バレエ関係者でもこのブログを情報収集に使っていると言われる情報量なのだ。
そのブログの主宰者であり、年間100公演以上の公演に足を運ぶという世界のバレエ事情を知り尽くす森菜穂美さんが、いま欧米でもっとも注目を集めるダンサーと言われるキミン・キムをインタビュー!
あらゆるダンサーを知っている森さんが「ここまでバランスが取れているダンサーはなかなかいない。改めて驚愕」と語るキミンとは!?
キミン・キム インタビュー 映像
パリ・オペラ座やABTなどトップカンパニーへのゲスト出演が続く、マリインスキー・バレエのプリンシパル、キミン・キム。世界トップクラスのテクニックで知られる彼は、このたびマニュエル・ルグリからの熱いラブコールに応えて、ウィーン国立バレエの来日公演『海賊』にゲスト出演をする。先日母国韓国のユニバーサル・バレエ『ジゼル』にゲスト出演を果たし、同じくマリインスキー・バレエのエカテリーナ・オスモルキナと共演。183cmの長身でありながら驚くばかりの高さの軽やかな跳躍。鮮やかで美しいつま先などの輝かしいテクニックと共に、愛のある見事なパートナーリング、そしてエレガントな佇まい、魂のこもった感動的な演技を見せて熱狂的な歓声を浴びた。
4月中旬のソウルで、『ジゼル』公演を終えたばかりのキミン・キムを直撃し、ウィーン国立バレエの日本公演への期待を語ってもらった。舞台の疲れも見せず、誠実な受け答えの中にユーモアも交えてインタビューに答えるキミンは、実に爽やかな好青年。憧れの存在だったというルグリのことを話す時には少年のように瞳をキラキラ輝かせていた。
ユニバーサル・バレエ「ジゼル」エカテリーナ・オスモルキナと
Q.マニュエル・ルグリがあなたを絶賛し、ぜひ今回出演してほしいとのことで実現したわけですが、ルグリとどんなお話をしましたか?
ある日突然、ルグリから「ウィーン国立バレエにゲスト出演してほしい」というメールが来たんです。ルグリは、ぼくのアイドルでした。もともと、ヌレエフが一番大好きなダンサーで、ヌレエフ世代の最後のダンサーの一人であるルグリにも憧れ、子供時代から彼が出演している映像を何回も観たものです。だから彼からのメールを読んだ時には、天にも昇るような「わお!」という気持ちでした。ウィーン国立バレエはとても素晴らしいカンパニーなので、ゲスト出演できるのが嬉しいですし、わくわくしています。3月の終わりにウィーンに行ってリハーサルをして来たばかりです。4日間でしたが、マニュエルとのリハーサルは得難い経験でした。彼の指導は、とても感情が豊かであると同時に技術的にもしっかりした、丁寧なものでした。彼の教えるバレエのクオリティは非常に高いものなので、その要求にこたえるのは大変でしたが。
Q.マニュエル・ルグリといえばフランス・バレエを代表するダンサーです。キミンさんは韓国にいた時からロシア人教師にロシアバレエを学び、今はマリンスキー・バレエのプリンシパルです。フランス流派のバレエについてはどう思っていますか?
ぼくはマリインスキー・バレエで踊っていますが、実はヨーロッパのバレエも大好きですし、特にパリ・オペラ座のスタイルには恋していると言ってもいいほどです。『ル・パルク』やラコット版の『ラ・シルフィード』は特に好きな作品で、『ル・パルク』はマリインスキー・バレエのレパートリーにも入っているので踊りました。2年前にパリ・オペラ座バレエに『ラ・バヤデール』でゲスト出演しましたが、とても名誉なことで嬉しかったです。やはりフレンチスタイルはロシアとは全くメソッドが違うので、最初は苦戦しました。マニュエルはこのスタイルを身につけさせるために、たくさんの素晴らしいアドバイスをくれたので、結果的にそれほど苦労しなくとも独特のテクニックとスタイルを習得することができたのです。今回はさらにもっと良いものをお見せできると思います。
ぼくはマリインスキー・バレエのスタイルが好きですが、このスタイルに固執するのではなく、ルグリが教えてくれるものを100%自分のものにしたいと思っています。心を大きく開いて良い部分は受け入れて自分自身を育てて行きたい。ウィーンでルグリとリハーサルをした時に、ルグリに、自分自身が自分の持っている長所を最大限に生かして踊っているので、あなたも自分の持っているものを生かしてくださいとアドバイスを受けて、そのことがとても印象に残っています。
Q.フレンチスタイルの中でも、どのような部分をご自身に取り入れたいと思っていますか?
特にバットゥリーが好きなんです。パリ・オペラ座バレエのダンサーたちは皆、とてもクリーンで美しいバットゥリーを見せてくれて、ぼくはそれに憧れているんです。またオペラ座のダンサーはピルエットが速くて美しいんですよね。回転数をたくさん回るよりも、よりクリーンで素早くきれいで音楽性のあるピルエットを見せることが大事だとぼくは思っています。
Q.今回はルグリ版「海賊」でコンラッドを踊られます。マリインスキー・バレエではアリ役を踊っておられますが、今回のプロダクションについてはどう思われますか?
ヒーロー的な役柄を踊るのがぼくは好きです。コンラッドはとても男性的な役なので楽しみです。日本で初めてこの役を踊るのですが、ぼくは日本の観客が大好きです。日本の観客はとても知的なのを感じているんですよ。ぼくだけではなく、マリインスキー・バレエのダンサーたちは、日本の公演では特にしっかりと踊らなくてはいけないと気合を入れています。日本では特に芸術は大切にされていると感じています。それだけに、日本で踊ることそのものがぼくにとっては挑戦です。
テクニックや踊りのスタイルは、マリインスキー・バレエとは違いますが、作品としては大きな違いは感じていません。このプロダクションはアリがいなくて、コンラッドがアリが踊っている部分までも踊るため、体力勝負の部分はあります。リハーサルでは、振付のコンビネーションのお手本をルグリがすべて踊って見せてくれたのですが、複雑な振付のときに、「この作品の振付家って誰だっけ?」ととぼけてみせていました(笑)。ルグリから学ぶことができて、とても幸せです。
Q.あなたは素晴らしいテクニックの持ち主だと幅広く知られていますが、今回韓国で踊った『ジゼル』でも現れているように、技術だけでなく表現力も優れていて人を感動させ、踊る喜びやドラマ性を感じます。その高い芸術性の秘訣はどこにありますか?
テクニックについては、持って生まれたものに恵まれたという点はあります。しかしアカデミックな技術を身につけていなければ、身体能力を生かすことはできません。ウラジーミル・キム、マルガリータ・クリークというマリインスキー・バレエ出身の優れた教師に出会えたことが大きかったと思います。彼らについて13年間学び、クラシックバレエの形を習得しました。そして作品と役に合うアプローチを考えるようにしています。『ジゼル』ならジゼルの物語の中に没頭し、音楽と感情、スタイルに合わせて、そしてパートナーに合わせて、相手がどのように呼吸しているのかを考えながら、作品に合わせた踊りにするように努力しています。公演が終わった時にだけ拍手されるのではなくて、3日経っても忘れられないようなパフォーマンスをすることができるダンサーになりたい。その場で凄い!と思われるよりも、お客さんが家に帰って作品を通して心に残っているようなダンサーになるために、舞台の上で心を込めて踊っています。
Q.『ジゼル』では、女性ダンサーを美しく見せるパートナーリングも素晴らしかったですね。
そう言っていただけるのが、一番嬉しいことです。教師からは、パートナーリングが一番ダンサーとしては大事なことだと言われていたからです。『ジゼル』ではテクニックだけでも拍手をもらうことはできます。でももっと重要なことがバレエにはたくさんあり、それがパートナーシップなのです。
Q.今回は2015年のマリインスキー・バレエの来日公演に続いての日本での舞台ですが、日本のファンへのメッセージをお願いします。
2015年に来日した時には、その前の中国公演で怪我をしてしまって、怪我が治っておらず不本意なパフォーマンスになってしまって、せっかく皆さんが楽しみにしてくれていたのに悲しかったのです。今回は、ベストの踊りを見せたいという強い意気込みを持っています。そしてもちろん、お寿司が1番好きな食べ物なので日本で食べられるのを楽しみにしています。あ、1番はキムチで、お寿司は2番目か(笑)。日本に来るのは本当に楽しみです。日本も、バレエを愛する日本のファンも大好きですし、東京も大阪もお気に入りの街です。大好きなダンサーである、尊敬するマニュエル・ルグリと共に日本に来て踊ることは大きな名誉だし、とても幸せなことです。
『ジゼル』の2幕のヴァリエーションでは、まったく重力を感じさせず、これほどまでに技術的に高度で、しかもそのテクニックの中に感情が深く込められてドラマティックなものを観たことがない、驚きのパフォーマンスを見せてくれて会場を熱狂のるつぼにさせたキミン・キム。公演全体を通して、マニュエル・ルグリが惚れこんだのも納得できる、若い頃のルグリを彷彿させるような正統派の美しいクラシック・バレエで観客を魅了した。世界中のトップカンパニーから引っ張りだこでありながら、地に足の着いた謙虚な姿勢で、真摯に、誠実に芸術に取り組み、一度見たら忘れられない衝撃を与えてくれる彼を、決して見逃してはならない。
(取材・文 森 菜穂美)
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キミンの実力をまずは動画で… (※すべて外部サイトへリンクします)
◇空中姿勢が見事!「ダイアナとアクテオン」
https://youtu.be/jBvHkplDUzY?t=4m26s
◇美しい高速回転に注目!「タリスマン」
https://youtu.be/931QpgGA5Z4?t=6m23s