2011年、伝説のダンサーであり、自らの師であるルドルフ・ヌレエフの芸術性と偉大な功績を継承すべく、ルグリはウィーン国立バレエ団で「ヌレエフ・ガラ」をスタートさせました。それ以降、このガラは毎年、バレエ団のシーズン最後を飾る公演として行われています。
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ヌレエフは、古典バレエの改訂にも熱心で多くの“ヌレエフ版”と呼ばれる改訂版を生み出しました。そんな彼が初めて古典改訂作品を発表したのが、ウィーン国立バレエ団。1964年に『白鳥の湖』を創作し自ら主演して以来、ウィーンは彼の活動拠点であり、1982年にはオーストリアの市民権を取得しています。
そんなヌレエフを語るのにマニュエル・ルグリほど適切な人物はいません。1986年のニューヨーク公演でルグリを、パリ・オペラ座バレエ団のエトワールに任命したのはヌレエフであり、彼は世界中の公演にルグリを連れ自分の芸術性を惜しみなく伝えました。「ヌレエフ・ガラ」ではヌレエフの魂を継承したルグリが、彼の芸術性を再現するのです。
このガラのためにウィーンを訪れる人がいる理由は、演目の多様性。世界中の巨匠振付家による作品が万遍なく並ぶだけでも豪華ですが、ルグリがいまもっとも関心を寄せる若手振付家の作品を見られるのです。今年はとくにヌレエフ生誕80周年という記念年ということもあり、これまで以上に豪華なラインナップが実現。21世紀版『瀕死の白鳥』と言えるプロイエット振付の『ル・シーニュ白鳥』や、バレエ団のダンサーであり豊かな振付の才能に恵まれたペシやルカーチの作品は世界のバレエ界が注目する話題作です。
そして公演のハイライトはすべてのヌレエフ版を踊り熟知しているルグリが、ヌレエフの古典作品から見どころだけを集め構成する夢のようなプログラム「ヌレエフ・セレブレーション」。「私のバレエが上演され続ける限り、私は生きている」というヌレエフの言葉を実感し、時空を超えバレエの歴史を旅していただけるでしょう。
バレリーナとしての成功のうち精神を病み波乱に満ちた一生をおくったロシアのバレリーナ スペシフツェワの生涯に基づく作品。スタイリッシュかつ心理描写巧みなエイフマンの代表作。
イプセンとグリーグ、2つの『ペール・ギュント』を、新進気鋭の振付家クルーグが独自の視点で再構成した意欲作。
男性ダンサーの動きの多様性と無限の可能性を再認識できるオランダの巨匠マーネンによるソロ。
振付家としても活躍するバレエ団のダンサー ペチによる美しいデュエット。
鳥が突然群れをなすような現象を指すマーマレーション、舞台ではいかに表現されるのか。
まさに今世紀版の『瀕死の白鳥』と言える超注目作。舞台には白鳥と少年が登場。美と愛と自由を象徴する白鳥と、死にゆく白鳥が子に見せる人生の終末。強く美しく優しく悲しいバレエがここに。
グリンカの音楽を視覚化するバランシンの至芸をウィーンの精鋭たちが踊る。
バレエ団のダンサー ルカーチが同僚たちの個性を最大限に生かすべく創った現代的な美しさあふれるバレエ。
ディアギレフの依頼で作曲されたシュトラウスの貴重なバレエ音楽に、ノイマイヤーの美的世界が広がる。
ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番に英国バレエの巨匠マクミランが振り付けた抽象バレエの秀作。
振付:ルドルフ・ヌレエフ (マリウス・プティパとレフ・イワーノフに基づく)/構成:マニュエル・ルグリ/音楽:P.I.チャイコフスキー、A.グラズノフ
ヌレエフ作品におけるルグリの舞は手本として語り継がれている。その教えを受けるウィーン国立バレエ団は、超絶技巧が散りばめられたヌレエフの振付を、いまもっとも正しく美しく継承しているバレエ団と言えるだろう。作品の魅力を知り尽くしたルグリが見どころだけを集めた夢のひと時を叶える。
日本初の「ヌレエフ・ガラ」には、ルグリ自らも出演する。作品は、21世紀を代表する巨匠による2つのマスターピース。昨年9月、レティシア・プジョルの引退公演で久々にパリ・オペラ座の舞台に登場し、変わらぬエトワールの舞でパリの観客を魅了したノイマイヤー振付の『シルヴィア』。歳を重ねたシルヴィアとアミンタが再会するこのシーンは切ない愛にあふれている。ノイマイヤーがもっとも得意とする繊細な心情描写をいまのルグリがどう演じるのか、見逃すわけにはいかない。
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そして、フランスが誇るプティ振付の『ランデヴー』。パリの下町で死を告げられた若者は、世界最高の美女とのランデヴーがあると嘘をつき逃げようとする。若者を待ち受けていた運命とは…? ルグリは昨年初めてこの作品を踊り、尽きることのない探究心で我々を驚かせた。「枯葉」のメロディと一体となったルグリの名演を再び観られるとは幸せだ。
ダンサーとしてもいまだ新たなる境地を切り開き続けるルグリ。とどまるところを知らないこの天才ダンサーは、いま再び、我々をまだ知らぬ新たな感動世界に誘うだろう。
《ランデヴー》
振付:ローラン・プティ/音楽:J.コスマ
《シルヴィア》
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:L.ドリーブ
ルグリの芸術監督就任後、バレエ団の活動でもっとも注目を浴びたのは、2016年3月。彼が初めて手掛けた全幕作品である『海賊』世界初演のことでした。世界各国のバレエ界の重鎮が集ったプレミアは、全公演ソールドアウト。最終日には、“チケット求む”の紙をもった行列ができたほどでした。
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バレエ界が手放しの賞賛を贈ったこの版の驚くべき特徴は、アリが登場しないということ。ルグリは台本を徹底的に研究し、首領コンラッドとメドーラの恋物語に焦点をおきました。さらには、埋もれていたアダンの楽曲で構成された第3幕のオダリスクや、『シルヴィア』の音楽を使用したメドーラとコンラッドの美しいパ・ド・ドゥなど、ルグリ版だけで見ることのできる踊りを追加。ビルバントの恋人として登場するズルメアや、これまで好色な老人として描かれてきたサイード・パシャがハンサムで魅力的な男性として登場し、グルナーラとの間に恋愛感情が芽生えるなど、ルグリ版ならではの人物設定も作品に新たな魅力を吹き込んでいます。新たに追加された踊りでは、古典を尊重しつつ、限界まで装飾を加え技巧性を高めた、ルグリの舞を髣髴とさせる振付が楽しめます。まさに、世界の頂点を極めた彼の感性を余すことなく堪能できる作品と言えるのです。
ルグリが「超絶技巧が次々と繰りひろげられる僕の『海賊』ですが、ウィーンのダンサーはどんな複雑な技術もエレガントにスマートに見せる実力を持っています」と語る通り、主要キャストには彼が絶大な信頼を寄せるバレエ団の看板ダンサーが勢揃い。コール・ド・バレエの隅々にまで完璧主義が貫かれているダンサーたちが、『海賊』にこれまで見たことのない輝きをもたらすのです。
さらにはロシアを代表するマリインスキー・バレエ団で、アジア人初のプリンシパル昇格という快挙を成し遂げたキミン・キムがゲストとして登場。すでにパリ・オペラ座バレエ団やアメリカン・バレエ・シアターなど世界中でその実力を証明しているキムですが、ルグリが「ぜひ自分の作品を踊ってほしい」とラヴコールを送ったというからますます期待が高まります。
5.12 昼
プロフィール&動画
スロヴァキア出身のポラコワは、エネルギッシュな技術とほとばしる情熱的な演技で我々を物語へ誘ってくれる。その表現力が『海賊』にこれまでにないドラマを与えることは間違いない。ルグリのパートナーとしても度々一緒に踊っており、その絶大な信頼がうかがえる。
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5.12 夜
プロフィール&動画
ロシア生まれのヤコヴレワは、ルグリ版『海賊』の初演キャスト。ルグリが「自然な美しさをもち、僕がメドーラ役に求める女性らしさをもっている」と語る通り、市販の映像でも極上の美を見せている。今年の「ウィーンフィル ニューイヤー・コンサート」でも美しい古城に相応しい華やかな存在感を見せたのが記憶に新しい。
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5.13
プロフィール&動画
絵本から抜け出したプリンセスのような華やかな容姿と安定感のある技術を持つエシナは、マリインスキー・バレエ団でも主演を任されていた実力の持ち主。ウィーンで幅広いレパートリーに出会い、いままさに充実のときを迎えているダンサー。
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5.12 昼
プロフィール&動画
ウクライナ出身のチェリェヴィチコは、現代的な高い技術と柔らかなエレガンスを持ち合わせる稀有なダンサー。ウィーンでも多くのヌレエフ版古典作品の主役を踊り高い評価を得ている。「成熟した男性らしさ」が求められるコンラッド役で新たな魅力を発見できるだろう。
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5.12 夜
プロフィール
キムはロシアの名門、マリインスキー・バレエ団でアジア人初のプリンシパル昇格という快挙を成し遂げた驚異のダンサーだ。韓国芸術総合学校の在学中にマリインスキー・バレエ団の研修生となり、なんと『海賊』のアリ役でバレエ団にデビューしたというから尋常ではない。15年にプリンシパルに昇格してからは、ほとんどのレパートリーに主演。パリ・オペラ座バレエ団やアメリカン・バレエ・シアターで全幕主演するなど世界中でもその実力を証明しており、ルグリが注目するのも納得の存在。現在、世界トップの実力を誇るキムが、ルグリと出会いどんな高みを見せるのか、見逃すわけにはいかない。
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5.13
プロフィール&動画
ワガノワで学び、マリインスキー・バレエ団でも多くの主役を演じたのちにウィーンへ。甘いマスクに反してその踊りはダイナミックで野性的。ルグリがコンラッド役に必要と考える「男のエレガンス」を体現するダンサーだ。
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5.12 昼
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美しい容姿と理想的な甲のラインを持つウィーン出身のマイヤーは、学生時代からバレエ界の注目を集めていた。とくに伸びやかなア・ラ・スゴンドは一度みたら忘れられない。入団後はルグリのもと、表現力を伸ばし次々と主演を任されているまさに“ルグリ・チルドレン”を代表する存在だ。
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5.12 夜
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初演キャストであり、映像でもグルナーラ役を演じている彼女は、ロシアでのキャリアを経てウィーンに来たダンサー。どんなに複雑な技術も繊細に、そしてチャーミングに舞う姿が印象的。ロシア流の強靭な技術とフランス的エレガンスが融合した現代における理想のバレリーナ像を体現している。
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5.13
プロフィール&動画
精密な技術と天性の華を持つ彼女が、バレエ団の最高位に昇格したのはこの『海賊』の初演時。なんと難役メドーラとグルナーラを中1日で両方務め、終演後ルグリより最高位に任命された。神聖な山に吹く風のような爽やかさと清らかさをもつ彼女は、日本が世界に誇るダンサーだ。
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5.12 昼
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兵庫県出身の木本を初めて見た方は、まず日本人離れした美しい脚のラインに驚くだろう。そして決して押しつけがましくないクリーンな技術を持つことに再び目を見張るのだ。昨年、最高位に昇進して以来レパートリーをさらに広げ躍進を続けている。
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5.12 夜 / 5.13
プロフィール&動画
イタリア出身のダトは、南欧らしいエネルギーと色気を持つ今もっとも勢いのあるダンサー。映像でもビルバントを演じているが、身体にバネが入っているのかと思うほどのしなやかなジャンプに魅了されない者はいないだろう。その美しいマスクでネスプレッソのPRビデオにも抜擢されている。
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©Ayumu Gombi
プロフィール
鳥取県生まれ。東京学芸大学音楽科卒業、同大学院修了。2003年から来日オペラ団体の公演に制作助手として携わり、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、東京のオペラの森などで小澤征爾、ズービン・メータのアシスタントを務める。
07年、東京バレエ団『ドナウの娘』日本初演にあたり指揮者アシスタントとして楽譜の修正を含め大きな役割を果たす。同年11月、Kバレエ カンパニー『白鳥の湖』公演でのデビュー以降、Kバレエの多くの公演を指揮。世界初演となる Kバレエ ユース『トム・ソーヤの冒険』、Kバレエ カンパニー『クレオパトラ』では音楽制作を担当する。
東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団等の指揮を務めるほか、東京バレエ団、新国立劇場バレエ団等とも共演。シアター オーケストラ トーキョー指揮者。エリザベト音楽大学講師、桐朋学園大学特任講師。
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©Jin Kimoto
プロフィール
2005年、バレエを中心とした“劇場”を主な活動の場とする管弦楽団として結成された。同年、Kバレエカンパニー『くるみ割り人形』公演での演奏が各方面より高く評価され、06年よりすべての公演の演奏を務めている。07年1月、福田一雄が音楽監督に就任。09年4月には初のCD 「熊川哲也のくるみ割り人形」をリリース。
劇場音楽への深い理解と意欲的な取り組みは常に注目を集め、パリ・オペラ座バレエ団、サンクトペテルブルグバレエ、モスクワ・クラシックバレエ来日公演をはじめ、日本バレエ協会など国内外のバレエ公演のほか、三枝成彰『悲嘆』『Jr.バタフライ』、「モーツァルト交響曲全45曲演奏会」、テレビ朝日「なんでも!クラシック」「世界まるごとクラシック」、熊川哲也プロデュース「舞曲」「青島広志のバレエ音楽ってステキ!」などオペラ公演やコンサート、室内楽等でも広く演奏活動を行っている。
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