マリア・パヘス&シディ・ラルビ・シェルカウイ DUNAS-ドゥナス-

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2017.12.15 UP

『DUNAS-ドゥナス-』合同取材レポート


去る12月上旬、『DUNAS-ドゥナス-』振付・出演のマリア・パヘスとシディ・ラルビ・シェルカウイがPR来日し、Bunkamuraにて合同取材会を行いました。
シェルカウイは来月にシアターコクーン公演『プルートゥ PLUTO』を控え稽古中、またパヘスは南米ツアーののち、マドリッドで新作公演を終えたばかりという、双方とも多忙なスケジュールの合間を縫ってのインタビューでしたが、『DUNAS』を創作するきっかけや創作過程、本作に込められた想いなどを熱く語ってくれました。


―2人の出会いは?

シェルカウイ:2004年のことです。私は、モンテカルロ王立バレエ団に振付した作品『In Memoriam』の為にとある賞の授賞式に出席したのですが、そこでマリアと初めて出会いました。もともと、彼女の作品を何度も繰り返し見て研究していたほど大ファンだったので、彼女と振付やダンス、人生など色々なことを話すうちに非常に気が合い、話が盛り上がったんです。その後、中国やメキシコなどそれぞれの公演先が偶然重なり、何度も彼女と再会したので、「これは運命だから、一緒に何か作品を創ろう!」ということに(笑)。そうして出来上がったのが、『DUNAS』です。マドリッド、アントワープなど、色々な所でリハーサルを重ねて、2009年のシンガポールでの初演まで3年という月日をかけて創りあげました。

パヘス:あのモンテカルロでの出会いが、この作品を創る“旅”の始まりでしたね。ラルビの『In Memoriam』を見て、共感する部分が沢山あったんです。彼は非常にオープンな人で、作品創りのプロセスはとても均衡の取れて穏やかなものでした。お互いを尊敬し、何かを学びたい、吸収したいという気持ちが2人とも強かったんです。この作品創りで一番大きかったのは、誰かからの勧めではなく、自分たちの中から「何かを2人で一緒に創ろう」という気持ちが自然とこみ上げてきた、ということでしょう。これは、ほかの創作現場ではなかなか起こらないことなんですよ(笑)


―『DUNAS』というタイトルに込められた想いとは?

パヘス:“砂漠”というと、大きな空間で、何も無い。けれど、そこから様々なものが生まれ、始まる可能性があるし、風を受けて常に変化している…というイメージがありました。そこで、“砂漠=何かがはじまる場所”と捉えて作品のコンセプトにしてみよう、という事になったんです。次にタイトルをどうしようか考えていたところ、私の息子が「DUNAS(スペイン語で砂漠、砂丘の意)はどう?」と提案してくれて。ベルギー出身のラルビと2人で創っている作品に、スペイン語のタイトルをつけるのは少し気がひけましたが、ラルビが「音の響きもいいし、いいんじゃない?」と言ってくれました(笑)。

シェルカウイ:2人とも“地球”に魅力を感じているんですよ。この作品のすべての要素は“地球”や“自然”から取り入れています。木や根、土、そして砂…と連想していく中で、“砂漠”というコンセプトが浮かんできました。『DUNAS』という言葉の響きは詩のようだし、マリアが言うように色々なイメージがある―メランコリックだし、希望、そして癒しでもあり、常に変化しているもの。そんな言葉だからこそ、我々に訴えかけるものがあったのです。


―動く絵画のような美しい作品ですが、中には暴力を連想させるようなシーンもありますね。何を意味しているのでしょうか?

シェルカウイ:実はあのシーン、アラブとスペインの関係を表しているんですよ。かつてスペインのアンダルシア地方では、アラブとスペインの文化が融合されていたけれど、宗教的な理由で分離されたという歴史があります。ひとつだったものが、暴力によって引き離されてしまう、ということを表現したかったのです。
もう一つ、あのシーンを入れた理由としては、表現方法として暴力を描くことで、その反対の繊細さを際立たせるためでもありました。例えば、僕とマリアはこの作品の中で、暴力を振るうものと服従するもの、という役割をそれぞれ演じていますが、その対比は徐々にやわらかくなり、最終的にはひとつになっていきます。(『DUNAS』のポスターを指しながら)この写真のように、僕たちは最初は左右対称に分かれて、男女という役割を担っていますが、少しずつ2人の違いというものが顕著になり、そこにさまざまな物語が発生していく。やがてゆっくりと対立が無くなってゆき、最終的にはひとつになって死を迎える―というストーリーの流れになります。
ある意味、奇妙なラブストーリーのような作品だといえるのではないでしょうか(笑)。

パヘス: 『DUNAS』には、私たちが直面する人間関係についての多くのメッセージを込めました。それは、ダンス、動き、音楽という糸で紡ぎだされます―私たちは、対立よりも“出会い”というものに、重きを置いているのです。


―音楽について教えてください。

パヘス:私のカンパニーのミュージシャン、シェルカウイの作品を作曲しているミュージシャンの両方が参加し、一緒に『DUNAS』のオリジナルの音楽を作り上げました。彼らはスタイルも曲の作り方も違いますが、私たちも一緒にアイデアを出しあい、色々な音楽の要素を取り入れていきました。アラブ音楽の歌手もいれば、フラメンコのカンタオール(歌い手)もいますし、ポーランド人のピアニスト、ヴァイオリニスト、パーカッショニストといろいろな文化の音楽の要素が入っています。非常に美しい、何度聴いても飽きない音楽ができあがったと思っています。

シェルカウイ:アラブ音楽とフラメンコは、どちらの歌も大きな声で感情をこめて歌う、という共通点があります。けれども歌い方や音楽の捉え方といったものは、アラブ音楽は精神的なところからきており、フラメンコは民衆から発生した音楽なので、根っこは別のもの。このように、異なる2つの音楽の共通点や差異を、音楽の対話を通して見ることができたのは興味深かったです。


―パヘスはフラメンコで、シェルカウイはコンテンポラリーダンス。
 異なるジャンルで活躍するダンサーですが、踊る上で共通することや相違点は?


シェルカウイ:はじめてマリアの踊りを見たとき、とてもエレガントで、動きが正確で、そして感情がこちらに伝わってくる、という印象を受けました。「フラメンコ」というラベルを貼る以前に、一人の女性が動いているという感覚で、そこはピナ・バウシュと共通するな、と思ったんです。僕はジャンルで区別をつけず、どこが似ているか?という共通点に重きを置いています。リズム、流れ、動き、といったことの方が大事で、「フラメンコ」や「コンテンポラリーダンス」といったラベルは重要ではありません。違いを探すのも興味深いですが、共通点を見出だすほうが面白いのでは?と思います。

パヘス:この作品においては、お互いのルーツや仕事のやり方が違っても、それを理解するということが大切でした。私たちは、踊りのジャンルは違いますが、同じようなプロセス、踊りの言語を持っていたので、共同創作はとてもやりやすかったです。ラルビは、舞台装置を振付に組み込む才能がありますし、舞台セットや音楽・照明といったもの全てが振付の一部である、という考え方は私も同じ。2人とも同じ土俵の上で、踊りのジャンルやスタイルのことは考えずに共同作業ができました。 素晴らしい作品に仕上がったと思いますので、日本の皆さんに観て頂くのが楽しみです。

『DUNAS』のことを熱く語ってくれたパヘスとシェルカウイ。笑いの絶えない会話から2人の仲の良さと信頼関係が伝わってきました。

撮影:小林由恵