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2015.07.17 UP

【レポート到着!】熊川芸術監督 合同取材会

外国人ダンサーによるもの、仲間が集まって行われるもの…日本では多くのバレエ・ガラ(コンサート形式の公演)が開催され、年間を通して多くのガラが行われる。世界中で一番バレエ・ガラ公演が多いとまで言われるのが、ここ東京。
しかし、そのなかでもオーチャードホール芸術監督がお贈りする「オーチャード・バレエ・ガラ」は異色を放っている。副題に “JAPANESE DANCERS”とある通り、出演者を日本のダンサーに特化しているのだ。

「日本人はどうしても外国のものに憧れを抱く傾向がありますよね。固定観念に近いものがあるかもしれませんが、いまや日本人とか外国人というボーダーがない時代になっていると思いませんか?」
7月8日、大手新聞社の記者らが集まる合同取材会の場で、熊川の口から開口一番に飛び出したのはこの語りかけであった。

確かに世界各地の名門バレエ団で主役級の活躍をする日本のダンサーは増え続けるばかり。
だが、まだまだ劇場で行われる公演自体は海外のダンサーによるものも多く、彼らが日本で踊る機会といえば出身校の発表会のゲスト出演くらい…というケースも少なくない。

「バレエの世界でも、日本出身の素晴らしいダンサー、グローバルスタンダード以上のダンサーがたくさんいるけれど、それを披露する場が限られてしまっている。それをブレイクスルーしたいという想いがあります。」
と熊川は語る。 

まさに熊川こそ“日本出身の素晴らしいダンサー”の先駆者のような存在だと思いながら聞いていたが、そこには意外な言葉が付け加えられた。
「“日本出身の素晴らしいダンサー”は、昔からいて、森下洋子さん、深川秀夫さん… みな世界レベルのダンサーです。ただ、昔はもっと海外と日本の間にボーダーがあったかもしれない。たとえば受け入れる側の外国の体制が、いまはずっとオープンになりましたよね。そのボーダーが薄れた分、国内ではコンクール受賞などのニュースで一時注目されることはあっても、長期的な目線ではフューチャーされない。彼らの実力をいかにここ日本で見せてあげるのか、お膳立てが必要だとは思いますね。」


 

「僕が手掛けるからには、一ひねりも二ひねりもしないとみなさん納得しないでしょう」
と語るように演目にも熊川のこだわりが光る。

 


通常のガラ公演というと出演者がそれぞれ得意な作品を披露することが多く、どうしても古典の作品が多く並ぶ傾向があるが、今回はロイヤル・バレエのダンサーはマクミラン、スカーレットといった新旧英国を代表する振付家の作品を、ルーマニア国立バレエのダンサーは同団の芸術監督コボーの作品をといった具合に、所属しているバレエ団や国のカラーが反映される作品がラインナップされている。

さらにガラ形式の公演の場合、準備などの問題であまり実現しないガラ公演のために創られる新作が設けられているのも熊川のこだわりだ。

「振付家もできるだけ日本人の若手を登用して、彼らのチャンスにもなれば」
と語る通り、バーミンガム・ロイヤル・バレエのソリストとして長らく活躍した山本康介がローザンヌ国際バレエコンクール5位受賞の金原里奈らに振付ける新作や、Kバレエ カンパニーを代表するプリンシパル遅沢佑介が振付ける全員出演のグランド・フィナーレ作品が上演されるという。

さらに、準備の問題から同じバレエ団同士での共演となることが多いガラ公演で、“所属が異なるダンサー同志の共演”が多いのも本公演の魅力のひとつ。

例えばフォーサイス振付の「精密の不安定なスリル」では、アメリカ、オーストリア、カナダで活躍する日本人ダンサーが共演する。世界初のオール日本人キャストでの上演が実現するのだ。
熊川も「フォーサイスは上演許可をあまり簡単に出さないことで有名ですが、今回はこの試みを逆におもしろいと感じてくれた。」
とこの挑戦に世界的振付家も大いに関心を抱いてくれたことを垣間見せるエピソードを披露。

本公演は、日本のダンサーが実力を披露する場を設け、その素晴らしさを紹介するという側面に教育的な意義も強く感じられるが、その点に質問が及ぶと
「この公演だけで何かを変えられるというような大げさなことは思っていません。だた、もちろんダンサーを目指す少年少女にはとても意味があると思う。同じ国で育った先輩がどのように活躍しているのか、ある意味それは彼らの目指す延長線上の1つの成功例ですから。僕をケーススタディにしてローザンヌや海外のバレエ団を目指した方も多いとおもいますが、今や日本のカンパニーでも土壌ができ選択肢がある。そういうケーススタディは必要だとは思います」
と、自らを例にいまバレエを習う方たちへぜひ観てほしいと熱弁。

ロイヤル・バレエのプリンシパルという座をなげうって、15年前にK-BALLET COMPANYを創立した熊川。公演は年間約50公演、10万人の観客を動員してきた。日本のバレエ界を次のステップに押し出した功労者であることは疑いの余地がない。

その熊川が、会後半、一層語気を強めて記者に語りかけた。
「野球やサッカーで日本代表を応援するように、バレエでも日本のダンサーを応援してほしい。」 

その熊川の熱いまなざしに、これまでにないガラ公演を見られることを確信し、取材会場を後にした。

(撮影:野澤敏昭)