「舞劇 楊貴妃」を作りあげる一流スタッフにインタビュー!

日本の各分野で活躍する一流スタッフが作り上げるこの舞台。衣裳プランナーの前田文子と作曲の服部髞Vにインタビュー、製作の様子や意気込みをお聞きしました。

■前田文子(衣裳プランナー)
――日中、二つの国が一緒に喜べる作品にしたい

 
 
 中国側スタッフからは、私たち日本人から見た「大盛唐時代」を表現してほしいと言われました。伝統的なコスチュームを重視するのが、一つのコンセプトです。例えばスカートにしても短くするのではなく、長いままにしようと振付のジャオさんが言ってくださいました。踊るためにスリットを入れたりなどの工夫はしていますが、分量感たっぷりの衣裳でも、ジャオさんはかえって喜んでいるようで。衣裳で制約されることを、逆に利用して振付をしてくださっています。苦労したのは日本人の衣裳です。日本の特徴を出してと言われたのですが、その時代の日本は唐と同じ(笑)。日本独自の文化が生まれるのはその後の時代なので。ちょっと無理をして時代を少しずらしたりしてミックスしています。

 
 

『楊貴妃』は栄華を誇った唐という国が退廃していくドラマでもあります。そこも大事にしてほしいと要望があったので、シルクロードのことなども調べました。当時、唐の都は世界中から文化が集まる熱いスポットだったんです。劇中で各国からの使者が集まるシーンでは、インドや東ヨーロッパからも来ています。歴史劇の部分、国際色、さらに純然たるイメージのシーンもあるので、大変です。

 
 
でも、アジア人のアイデンティティとして、アジアに対して造詣が深くないと世界にも通用しないので、とてもいい経験になっています。気をつけたのは、『楊貴妃』は京劇などもあるので、私がやるのだったら、刺繍などでデコラティブにするのではなく、私なりのビジョンを持つこと。言葉ではうまく説明できないのですが、結局、ミニマルなほうへいってますね。主役のお二人が本当にきれいなので、飾るのではなく、彼女たちの身体が引き立つことを考えています。

文化も言葉も違う二つの国のコラボレーションなので、お互いの国が一緒に喜べる作品になってほしいと思っています。それで世界の国の人を刺激できれば理想的ですね。「アジアって、こんなに素敵なんだ」と思ってくれれば。

>> 前田文子の衣裳プラン画はこちらでご覧いただけます。

■服部髞V(作曲)
――アジアの楽器やリズムを活かした音楽

 
 
 今回は、大きくは中国と日本という側面がいろいろな場面で必ずあります。楊貴妃と謝阿美(日中のハーフ)、政治家としては李白と阿倍仲麻呂。音楽も日本と中国という大きな柱を意識して作っているのですが、「中国だから三味線を使ってはいけない」などということはないと思ったのです。で、思いついたのが「アジアン・コスモポリティック」というコンセプトです。胡弓や三味線など、アジアには伝統的な楽器がたくさんあります。厳密に言えば、中国でも北と南では音楽性が違うのですが、もっと大きくとらえたい。アジアの持っているファンタジーや、アジアの楽器独特のロマンチックな匂いを、中国と日本という括りではなく、「アジア」で、どーんとやったらどうなるか。乱暴と言えば乱暴ですが(笑)、そういうことを音楽的にはやってみようと思っています。昨年、上海で『紅楼夢』を見たのですが、伝統的な音楽が色濃く残っているのですね。日本はほとんど西洋化されていますが、中国はまだ伝統音楽がかなり一般的なんだと思いました。でも、それを僕がまねても、勝てない(笑)。それで、僕らのやり方を踏襲しつつ、伝統的なものを、どう取り入れるかということなんです。アジア・コスモポリティックには、そうした背景もあります。また、東京は本当にコスモポリタンな都市ですし、僕らが生きている現代も反映させたい。伝統と現代、西洋と東洋のコラボレーションを目指しています。

 振付のジャオ・ミンさんは、とてもよく音楽を聴いてくれます。普通、踊りに合わせて音楽を変えることがあるのですが、ジャオさんからは全くありません。僕が本当に書きたいものは、音楽的に割り切れるものが少ないのです。振付がしにくい7小節、9小節など複雑なものになってしまう。「いつもやっている音楽とは違う」とジャオさんは言っていましたが、それでも複雑な譜割りやリズムでも、きっちり振付をしてくださるのです。本当にちゃんと音楽を聴いていないと、できない振付です。それには感激しましたね。

 これからオーケストレーションにかかりますが、がんばって、いいものを作りますよ。

texts:沢美也子(2007年5月取材)
photos:宮川舞子

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