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Bunkamura20周年記念企画
菊地成孔コンサート2009
第一夜 2009年12月4日(金)19:00 菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール
第二夜 2009年12月5日(土)18:00 菊地成孔 ダブ・セクステット special guest:UA
Bunkamuraオーチャードホール

江戸のエレガンスのはじまり

私が知る限り、「現代」というものは、それがいつであろうと、常に混乱を極め、人類には解決が不可能ではないかと思うばかりの、空前絶後の問題を孕んだ未曾有の状態であり、しかしそれは、毎年毎年、無限に反復する訳です。この、シンプルな錯誤の構造こそが、人類史の本質の一角であり、我々は、結局、ずっと変わらぬ「現代」 に、毎年毎年大騒ぎしているのである。と賢者は言うでしょう。
しかし、バラク・オバマがアメリカ合衆国の大統領に就任し、彼より3つ年上のマイケル・ジャクソンが亡くなった今年、リーマン・ショック後にやって来た世界の見晴らしは、誰もが、賢者の言葉などかなぐり捨てる様にして「いや、そうは言うけど、今度こそ久しぶりで本物の混迷が来たでしょ。」と、嘯かざるを得ないのではないかと思います。
今、「いつだって変わらねえよ、どの年も一緒だよ。終わっちゃえば懐かしく牧歌的な過去よ。何ともないよ。」という、実に頼もしい台詞を吐く御仁がいたら、それは、バカとか鈍感とか、或いは天才であるとか悟っているであるとかいう以前に、私はその御仁を、楽しく無い人物だな。と思い、あまつさえ「気の毒になぁ。」等と、余計な憐憫までかけてしまうでしょう。これほどワクワクして、面白い時代はないです。
火事と喧嘩は江戸の華。という言葉があります。私は江戸っ子でこそありませんが、ここで言う「江戸」は、東京都の旧名を指すだけではないし、この言葉は、都市民の、中でも騒ぎが大好きで、鉄火場が性に合っている総ての民のマニフェストであると思っています。しかし、我が国は、いつの間にか徹底されたインターネット・エシックによって雁字搦めになり、火事はダメだよ。トラウマになるよ。ケンカなんてしないでしょ。無駄に傷つくなんてバカだよね。でも(とても「華」とは言えない様な)放火や無差別殺人はしますよ。やるときゃやるんだよオレは。関係ねえよ。といった。つまり、すっかり、この国は「江戸」ではなくなってしまった様に見えます。
しかし、私は信じています。私の音楽を贔屓にして下さる人々、それはつまり江戸の民であり、歌舞伎やオペラが大好きな、粋で、少々狂った、そして、だからこそのエレガンスを身につけた人々が、こういった年だからこそどんどん増え、御陰さまで私の商売が繁盛するのだと。

3年連続でやらせて頂きました、オーチャードホールを使った、私がオーガナイズするパーティーも、今年で一旦終了となります。最後のオーチャードということで、景気付けにUAが駆けつけてくれる事になりまして(2日目、ダブ・セクステットの日)、初日にも、何とクラシック界から酔狂にも私のストレンジ・ラウンジ・オーケストラ、ペペ・トルメント・アスカラールに参加して下さるソプラノ歌手の方がいらっしゃいまして(私の御贔屓筋には、当然無名ということになりますので、せっかくなので、「来てのお楽しみ」という事にさせて頂きます)、こんなもう、年末なのにお正月の様な華やかさであります。
この文章は、本当にもう、どうなってるんだよ。としか言い様がなかった、今年の夏の終わりに書いています。しかし、世界の混迷は更に高まるでしょう。終わりは始まり、とは言ったものです。四の五の申しません。混迷する現代都市民の皆様、お越しをお待ちしております。共に闘いましょう。派手に、そしてシックに行く事で、火事と喧嘩を華に見立てる、都市の切り裂く様なエレガンスによって。

菊地成孔

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