昨年に引き続き、菊地成孔がオーチャードホールでの2夜公演を行う。前回の公演(南米〜欧州主義溢れる「ペペ・トルメント・アスカラール」とUAとの「CURE JAZZ」)は、音楽が持つ儀式性が前面に出た、「社交界」をコンセプトにした参加型コンテンポラリー・アートとしての側面も持つものとなった。客席は満席、アッパーユース(これは「オトナ文化とコドモ文化の境界」といった意味の造語)・カルチャーとして一般的に定着させる事を志向し成功させた。 |
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今年の第1夜は新バンド「ダブ・セクステット」。オーダーメイドスーツに身を包み、既に2枚のオリジナル・アルバムをリリース。名だたるロック・フェスティバルに出演し、圧倒的なアウェイにも関わらず、フェス・ファンのロッカーズにも絶賛を受けるという形で<境界的な離れ業>をまた実践してみせた。若手ナンバーワンの呼び声も高いトランぺッター、類家心平と菊地の2ホーンをフロントに配置したハード・バップ・オリエンテッドなスタイル。かつ得意の「ポリリズム/マルチ・ビート」をベースに、ステージ上にリアルタイム・エフェクトを担当するダブ・エンジニアがメンバーとして配されている先鋭性に注目。菊地曰く「高級ホストクラブ」の如くシンプルにクールでセクシー、「糖度ゼロに等しい」音楽にもかかわらず、女性ファンからも圧倒的な支持を得ているバンド、である。
第2夜は第一期の活動を終え、半分以上のメンバーを若手に刷新した「第二期ペペ・トルメント・アスカラール」。デビューライブがこの8月日比谷野外音楽堂での東京スカパラダイスオーケストラとのダブルビル・コンサートという、これまた<境界的な離れ業>を見せており、多くのスカパラの女性ファンのうち、どれほどが菊地の音楽に魅了され、オーチャードホールまで辿り着くのか、エレガントな化学実験。といった趣さえ感じさせる。ホールよりもクラブや夏フェスに適応が高く思える「ダブ・セクステット」と、ホールでの儀式的なコンサートが相応しい「ペペ・トルメント・アスカラール」という対称的な二つのコンサート。こうした極端なシンメトリーこそが菊地の本領である事は言うまでもない。2年目の、2夜のシンメトリーは、我々をどれほど魅了するだろう。