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菊地成孔コンサート2007
12.7
PEPE TORMENTO
AZUCARAR×菊地成孔
12.8
UA×菊地成孔
Bunkamuraオーチャードホール
 

聴きどころ

ゴージャズで切ない菊地成孔の(無/多)国籍

 キメながらハズす。ハズすところでカッコをつける。あたりまえのような顔で嘘を言い、誰も気づかなければ素通り。菊地成孔は、ウチとソト、見てくれと仕草、言葉と音楽、埃をかぶった二元論をわざと引っ張りだし、ちょっとずらして、戯れる。右か左か、上か下かの二元論さえすでに眼中にない人びとは、これでしっかり煙に巻かれる。煙?いやいや、ほんとはパルファンの香りだ。

 菊地は場所を選ぶ。特に「コンサート」では、だ。何もいわくがなければ、嘘でも、たったいまの想いつきでも、使う。言葉は魔力を持っている。音楽とおなじように。オーチャードホールで、何を言うだろう。オーチャード、果樹園?まるでタゴールの詩みたいですねえ、くらいは言うかもしれない。いずれにしても、ひとつの場所から有形無形の何かを吸いあげ、菊地は音楽というアウトプットをホールに充満させる。それはまずまちがいない。

 8日はゴージャスなヴォーカリスト、UAとの一夜。声となる息、楽器に変換される息とで、「ジャズ」と呼ばれた100年前のいかがわしさと「粋」とを甦らせる。スタンダードにはちょっと毒がはいっているかのような甘みが、オリジナルにはより渇きがおこる残酷さが、期待だ。

 7日は、音楽のつくりが、ひびきが、そのままオリジナル。ペペ・トルメント・アスカラール。さあ、ゆっくりと、小声で口にだしてみよう。上下の唇がちょっとはなれ、またくっつき、tの音ではじけ、さいごをやわらかくのばす。南米だろうか、しかし、けっしてどこにも属すことのない場所、さまざまな場所が音楽のなかで混淆する場所。倦怠するストリングス、冷たい水のようなピアノ、遠くから届けられるバンドネオン、あちこちから飛来して、淡い余韻をのこしながら消えてゆくパーカッションの数々。菊地のサックスはときに融通無碍にインプロし、ときにタンゴやフラメンコのダンサーのようにフレーズの終わりを定型でシメる。無国籍、多国籍なるものがけっしてプレーンにはならないように、どこかは何かに似、かつて微かに触れたものを想いおこさせる。だから、菊地がペペで奏でる音楽は、新しくありつつもどこかしら記憶をかすめ、耳にするそばからはらりとくずれて、妙に切ない。

 ああ、しかしこれも、まだおこなわれていないコンサートの予想にすぎない。あらゆる裏切りがこの12月には待ち受けているかもしれないのだ。コンサートも株ではないのだ・・・だからこそ、その場に足をはこばなければ。

text:小沼 純一(早稲田大学教授)

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