「−フォト・アートの誕生− マン・レイ写真展」

展示概要


今時のファッション写真の原点がここにある

 今回の写真展は、マン・レイに惚れたある日本の個人コレクションがベースになっている。それを展覧会という形にまとめる作業の中で、実はちょっと厄介な問題があったのだが、そのことがマン・レイの「写真芸術」を考えるうえでの新たな切り口を得ることにつながった。
 それは人物を撮った写真の分類の中で気付いたことだった。そもそもマン・レイの写真全体の8割以上が人物像といっていいほど、彼は人を撮り続けた。マルセル・デュシャンをはじめとする友人や仲間のポートレート、キキやメレット・オッペンハイム、リー・ミラーといったお気に入りの女性を被写体に使ったヌードを中心とする芸術写真、妻ジュリエットのいろいろなアングル、そしていわゆるファッション写真。
 問題はこのファッション写真である。いかにも雑誌のグラビアになりそうな「わかりやすい」写真も確かに多いのだが、なかにはどうみても友人の女流画家や小説家、あるいはパトロンとして彼を支えた大金持ちの夫人を撮ったのかと思わせるファッション写真がある。特定の人物かと思って念の為リストで確認したら、ただのファッション写真となっているのである。
 このことはある重要な事実を物語っている。つまり極めて今日的な意味でのファッション写真が誕生していたということである。ただ服を見せるだけではない写真。たとえば何気ない静かなポーズの女性から滲み出る気品。服のデザイナーは彼女の着ている服を通じて、究極的にはそんなことを求めていたのだとすれば、マン・レイの写真はそれを見事に伝えているのである。
 『ヴオーグ』や『ハーパースバザー』といったファッション誌の仕事は彼に多くの富をもたらした。しかしビジネスと割り切っていたかにみえるこの分野にも、彼の芸術志向は確実に浸透していた。マン・レイを「ファッション写真の草分け」として捉えるとき、それは今まで気付かなかったさまざまな発見があるに違いない。


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