「−フォト・アートの誕生− マン・レイ写真展」

展示概要 展示詳細


「写真は芸術ではない」

 いかにもマン・レイらしいダダイスト的なこの逆説的な発言。しかし、写真術を絵画の強い影響から解放し、その独自性に目をやることで、それを「芸術」の域に高めたのはほかならぬ彼の業績であった。そしてそれはダダイスムからシュルレアリスムという20世紀美術の流れの中で起こった出来事である。好奇心旺盛にして、遊び感覚を持ったアメリカ人であった彼は、パリという刺激的な都市で前衛芸術活動を実践するなかで、写真の可能性を開花させた。
 彼が祖となった写真芸術の作品は、マン・レイという才能豊かな芸術家の何重もの選択行為の賜物である。彼はまず被写体を決める。そしてフォト(光)・グラフ(描)であるがゆえ光のあたり具合や露光を決め、アングルも決める。意図的に極端な露出による画像の明暗の反転現象を巧みに利用した「ソラリゼーション」や、日光写真のような「レイヨグラフ」はマン・レイが発明したものだが、このようなテクニックが独自の芸術としての写真の方向付けに、大きく寄与したことはいうまでもない。そしてここまでの全ての工夫を実らせるのが、暗室の作業である。マン・レイのアトリエには、ピエール・ガスマンら彼が育てた有能な焼付師がいたが、マン・レイにとって、彼らは現像という重要な工程におけるよき伴侶であった。そしてマン・レイは、ときには像を切りぬき、あるいは合成し最終的な「作品」を創っていった。
 本展は、マン・レイの写真作品だけからなる500点を越える個人コレクションを公開するものである。そこに含まれる多数のヴィンテージ写真はファンには見逃せないアイテムである。またこれまであまり展覧会には出品されなかったが、この膨大な数の写真の中には、マン・レイが「作品」として提示する以前の写真も含まれ、写真芸術家マン・レイの思考の足跡をたどる上で、非常に興味深いものとなっている。


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