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「三文オペラ」初版の魅力
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Bunkamura 20周年記念企画
音楽劇「三文オペラ」
作:ベルトルト・ブレヒト 音楽:クルト・ヴァイル
演出:宮本亜門
2009年4月5日(日)〜29日(水・祝)
Bunkamuraシアターコクーン

「三文オペラ」初版の魅力

〜愛すべき悪党たちに捧ぐ〜

 一度聞いたら耳から離れないヴァイルの名曲、皮肉と諧謔がまじりあうブレヒトの台詞回し。20世紀を代表する戯曲のひとつ、「オペラ」とは名ばかりの『三文オペラ』。その新訳に挑戦したのは2年前。それを今回、宮本亜門の世界観を踏まえて全面的に訳し直した。
 下敷きにしたのは1928年の初版。訳文に大きな違いがでたのは、この台本の性ともいえる。初演の成功以来、ブレヒトは何度も台本を改稿し、ナチの台頭でドイツから亡命する前年1932年に完成させた改稿台本がこれまで上演台本の基本だった。改稿箇所にはいくつかの特徴がある。人物設定の甘さや説明不足の修正、それからナチの台頭や持てる者の欺瞞など、世界大恐慌のときには漠としていた社会悪が鮮明に見えはじめたがゆえの大幅な加筆。あきらかに欲がでている。‘28年版の魅力は、ブレヒト自身の中にあるゆらぎを無欲にさらけだしたところにある。登場人物たちの本音と建前のブレ。愛する人を裏切る気持ち、裏切られてもなお愛してしまう心理。フレームが固定していない分、解釈の幅は自在に変わる。言外の意味をどう捉えるかで、訳文も演出もさまざまに変貌する。本家本元のベルリナー・アンサンブルが2007年から‘28年版を採用したのもそういうところにある
のだろう。今回の新・新訳では、人間の本質をわしづかみにすることをめざした。さて、悪人ははたして本当に悪人なのか?善人は掛け値無しに善人といえるのか?

文:酒寄進一(翻訳家)

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