ギリシャ悲劇「メディア」、明石家さんま主演の「小鹿物語」と、シアターコクーンへの登場作品だけでも、その演技力の幅、舞台への貪欲さがわかる生瀬勝久。俳優としてはすでに折紙付きだが、今回、演出家として６年ぶりに舞台を立ち上げることに。作品は、京都の劇団ＭＯＮＯの作・演出家として、また、テレビドラマ「東京タワー」などの脚本家として活躍する土田英生の「橋を渡ったら泣け」。人間のもろさ、おかしさ、切なさを描いた偶像劇に、多彩なキャストが集結した。

大倉孝二 「土田さんの脚本は、独特の温度、肌触りがありますね。どこか演劇らしくないというか、ドラマチックになる一歩手前でスッと力を抜くという印象を受けましたね。生瀬さんとはプライベートでもよく遊んでいただいてます。その分、コミュニケーションは取れているんですが、とても真面目だし、何より俳優としてどんな役も自分でできてしまう方だから、稽古場の俺を見たらもどかしく思うんじゃないでしょうか。それが一番心配です(笑)」

奥菜恵 「以前、極限の状況に置かれた人間を描いた『胎内』(05年)というお芝居に出演させていただきました。この『橋を──』は、それとは雰囲気がまったく違う、会話ものんびりしたものですけど、人が追い詰められた時にふと本性が出る点では同じ。脚本を読みながら、素直に物語の世界に近づけました。共演の皆さんは、普段から“素敵な役者さんだな”と思っていた方ばかりなので、この作品でご一緒させていただけることがとてもうれしいです」

八嶋智人 「『バッド・ニュース☆グッド・タイミング』(01年)という舞台で共演させていただいて以来、生瀬さんにはとてもお世話になってます。仕事のアドバイスをもらったり、大倉もそうですけど、よく食事に呼んでいただり。生瀬さんの奥さんには、僕と生瀬さんは性格がそっくりだと言われたこともあります。それが稽古場でどんな形で出るか……。でも演者の気持ちをわかってくれる演出家さんなので、きっとやりやすいだろうと思ってます」

小松和重 「この作品はもともと、土田さんがＭＯＮＯで上演したものがベースですよね。その舞台(02年)は観ていないのですが、当時、『せりふの時代』に掲載された脚本は読んでいて、おもしろい話だと思っていました。その作品に自分が出演する、しかも生瀬さんの演出で、このすごいメンバーに混じってですよ。“ホントにいいのかな”と思ってしまいます。それに戸田さんと夫婦役なので、戸田さんの足を引っ張らないようにと今から緊張してます」

鈴木浩介 「生瀬さんが演出されると聞いて、僕は驚きはなかったです。優れた役者さんが演出もするのは、それほど珍しいことではないと思ったんです。脚本にはすごくリアリティを感じました。くだらないことを言ったり、人を裏切ったり、“追い詰められると人間なんてこんなもんだな”と思いながら怖かったです。それと個人的に、戸田さんと小松さんが演じる夫婦の会話がかなりツボでした。早く稽古場で聞きたいです」

岩佐真悠子 「脚本を読んでつくづく“人間って怖いなぁ”と思いました。読むにつれて、どんどん人間の顔が崩れていくような、そんな感覚を味わいました。舞台は初めてですから、わからないことだらけで不安はあります。１年前に同じお話をいただいても、絶対に受けなかったとも思います。でもドラマの経験を積むにつれ、自然と舞台への興味も湧いてきました。予想よりかなり早い初舞台ですけど、不思議と緊張より楽しみの方が大きいんです」

六角精児 「究極の状況で、限られた人数で起きる人間ドラマ。脚本としてすでにおもしろいですよね。それをこのメンバーがどんな舞台にするのか。出演者のひとりでありながら、楽しみで仕方ありません。僕が演じるのはハタ迷惑な男ですが、嫌われ役を演じるのは好きなんです。嫌われてナンボというか、それくらい強い印象を残すのが役者だと思っているフシが僕にはあるので、せっかくのこの役を自分がどこまでできるか、ワクワクしてます」

戸田恵子 「自分がやれる種類の作品がいくつかあるとして、そこから“これはやった”というものを消していって、残った中のひとつがこれかな。フワリとしているけどズシンとした重さが残る、私にとっては初めてのテイストの作品です。でも、不安がっていても前には進めませんし、何しろ演出が生瀬さんですから安心してます。だって生瀬さんが教え上手なのは、マージャンと『なにわバタフライ』(04〜05)の関西弁のご指導で知っていますから」

Texts：徳永京子（演劇ライター）