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恒松祐里俳優

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。第2回は、COCOON PRODUCTION 2023『パラサイト』に出演する恒松祐里さんをクローズアップします。

作品づくりと俳優の仕事、その喜びに気づかせてくれた映画

THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ/COCOON PRODUCTION 2023『パラサイト』に出演する恒松祐里さん。舞台はこれが3作目ですが、未就学の年齢からオーディションを受け始めて7歳でドラマデビューを果たし、俳優としては既に18年のキャリアを持っています。
「本格的な活動の前は、とにかくオーディションを受け続ける日々で月に3回、概算で200回くらい受けたように記憶しています。なかなかご縁に恵まれませんでしたが、月2回、キッズの演技レッスンは大好きで通い、それが中学3年生まで続きました。その年、今後の活動を見定めるための事務所内オーディションがあり、なんとかそれをクリアしたのと同時期に、『くちびるに歌を』(2015年公開 三木孝浩監督)という映画のオーディションにも合格できたんです。子役時代の最後にして、自分にとって最も大きな役をいただいたその映画は長崎県の五島列島にある中学校の合唱部の奮闘を描くもので、私は部員・仲村ナズナ役。事前の合唱練習から撮影、完成後のキャンペーン活動まで、映画が世に出てお客様に届くまでの過程全てを、初めて実体験することができたんです。約1年間、映画に関わらせていただく中で創作に携わるスタッフの皆さん、俳優の先輩方のカッコよさに触れ、私自身も“俳優を続けていきたい!”という明確な想いを、自分の中に確認することができました」とは、ご自身の“はじまりの頃”を振り返っての弁。当時のスタッフの方々と別の作品で再会することも多いそうで、「大きくなったね」「しっかりしてきたね」と声をかけてもらえる嬉しさを話してくれました。
子どもの頃から、物語などの世界を想像するのが好きだったという恒松さん。レッスンでも、ドラマティックな役のシチュエーションに身を置き、台詞と共に表現することがとにかく好きだったそうで、そんな豊かな想像力が今の活躍のベースになっているようです。

表現者としての成長を促してくれた出会いと教え

活動を本格化させていく恒松さんに、さらなる成長を促したのは2018年公開の映画『虹色デイズ』での飯塚健監督との出会いでした。
「高校卒業してすぐくらいの撮影でしたが、飯塚監督には現場でめちゃくちゃ怒られました(笑)。当時の私の役作りは、その場で感じたことを反射的に演技で返すような、子役時代からあまり変わらないもの。飯塚監督はそんな未熟な私に、役の背景を考え、ディテールなど自分なりに積み上げなければ辿り着くことのできない、大人としての演技や表現を教えてくださった方で、教えは今も役立っているんです。アクターズ・スタジオ(1947年に開設したアメリカの俳優養成所)のメソッドの一つで、“子ども時代の経験”や“好きな食べ物”などシンプルな100の質問に演じる役として応える、というものがあるそうで、飯塚監督はその質問に答えることで俳優の中で役が構築されていくことを教えてくださった。その学びを経たからこそ、今の私があるのだと感謝しています」。
一般的には多感な時期からプロの俳優として活動してきた恒松さんに、思春期ならではの気持ちの揺れや葛藤はなかったのかを訊くと「反抗期らしきものがなかったんです、私」との答えが。
「溜め込む前に自分の気持ちは伝えるほうですし、怒りの感情に向き合うことを面倒に感じてしまうタイプなんです。その代わり、演じる役に反抗期的な部分があると、その感情に引きずられる感覚があって。『パラサイト』で演じさせていただく永井繭子は、義母など周囲に対する反発を抱えているので、私自身遅い反抗期になるか、逆に繭子の苛立ちや怒りを通してストレス発散ができるかもしれません(笑)。映画版よりだいぶ濃く、激しいところのある女の子で、でも同時にとても純粋でもある。骨太な作品を生み出す劇作家・演出家の鄭 義信さんと、個性も実力も備えた素晴らしい先輩俳優の皆さんのもと、いろいろなことに挑戦しながら多くを学べる作品だと思いますので、稽古に入ることがとても楽しみです」との言葉が、飛び切りの笑顔と共に返ってきました。

「ものづくり」の感性を多彩な方向に伸ばすために

そんな恒松さんが見つめる、俳優として、表現者としての「未来のビジョン」を訊くと「観る方たちの心を動かせる役や作品に、出会い続けたい」という言葉が返ってきました。
「俳優業をやっていて良かったと思うのは、様々な感情や心の痛みなど、自分も体験してきたことを役を通して同じ想いを知る観客の方々に届けられた時。私はその瞬間、観客の皆さんと私自身が直接つながったような感覚になれるんです。後から届く作品の感想で、私が演じた登場人物に“共感した”、“演技が心に沁みた”などと書いてくださる言葉には、本当に励まされますし、直接会えない方々に作品が届けるもの、その大きな可能性こそが俳優として一番大切にしたい部分だと思っているんです。
もう一つ、演技だけでなくものづくり全般が好きで、子どもの頃から物語を書いたりもしていました。先日、占いの番組に出た際、占い師の方が“脚本家や監督にも向いている”と言ってくださったんです! そんな技術や感性が今の自分にあるとは思いませんが、少しずつ勉強して、いずれ自分が創作の核を担うような作品づくりができたら素敵だな、と思っています。美術セットや衣裳デザインなどにも興味があるので、まずは参加させていただく作品の細部までをきちんと自分の目で見て、演技に活かすことができるよう考えるところから始めていけたらいいですね」とのこと。
自身の「これまで」と「今」をしっかりと結び、さらなる「未来」へと覚悟を持って手を伸ばす。俳優・恒松佑里さんの歩む先には、洋々たる前途が開けています。

文:尾上そら


〈プロフィール〉

2005年に『瑠璃の島』で子役としてデビュー。映画『くちびるに歌を』(15)『散歩する侵略者』(17)、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(21)、ドラマ『リバーサルオーケストラ』(23)など数多くの作品に出演。Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督 Season2』(21)でニューヒロインを演じると多くの反響をよんだ。2022年には『きさらぎ駅』で映画初主演を果たす。 映画『凪待ち』(19)でおおさかシネマフェスティバル2020新人女優賞を獲得。

Twitter @yuri_Tsunematsu
Instagram @yuri_tune

ヘアメイク:安海督曜
スタイリスト:武久真理江
衣装協力:DIESEL、plus RECORD、Jouete


〈公演情報〉

THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ
COCOON PRODUCTION 2023
『パラサイト』

公演日:6/5(月)~7/2(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)

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