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瀬戸優(彫刻家)

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、野生動物を主題とした実物大の彫刻作品を制作している彫刻家の瀬戸優さんにインタビュー。テラコッタを素材にした独特の創作スタイルや、野生動物をテーマとして追求する思いなどについて語っていただきました。

初めて売れた芸術作品は彫刻ではなく絵だった

今にも動き出しそうなほど生き生きとした野生動物の彫刻作品を生み出す瀬戸さん。その原点は、幼い頃に自然や動物の魅力に触れたことにあります。
「小さい頃から自然科学全般が大好きで、犬や猫を飼ったり、動物図鑑を見ながら絵を描いたりしていました。私の地元も母の実家も自然が豊かで、そういう場所で生まれ育ったのもすごく大きいと思います。今でも忘れられないのは、長野に住んでいる祖父と山菜を採りに山へ入った時の経験です。苔やシダに覆われた場所で、カモシカと偶然遭遇したんです。その姿はまるで宮崎駿監督の映画『もののけ姫』の世界そのままでしたね」
自分が描いた絵をお母様にほめられる体験を重ねるうちに美術が好きになったという瀬戸さんが、芸術の世界に進もうと決意したのは意外に遅く高校2年生の時のこと。大学の進路を決めるにあたって、美術の先生から「美術大学という道もある」と教えられたのがきっかけでした。「好きなことをして進学できるなら絶対それがいい」と喜んだ瀬戸さんは、受験に必要な基礎を学ぶため美術予備校へ通い、同級生の彫刻作品を見て『こんなものを作れるんだ』と衝撃を受けたことから東京藝術大学美術学部彫刻科に入学。しかし、大学生活は想像と少し違っていました。
「美術予備校でデッサンや粘土の訓練など基礎を学んでから受験したのですが、美術史や作家のことを一切知らないまま入学したものだから周りの仲間の話にまったく付いていけず、すごく恥ずかしい思いをしました。そこで1年生の間は毎日図書室に通い、片っ端から美術書を読んで勉強しました」

「カラス」2015年制作

悔しさをバネにさまざまなエッセンスを吸収し、芸術家としての下地を築いていった瀬戸さん。その一方、学内外で彫刻作品を自由に制作する環境になかなか恵まれず、家で毎日スケッチを描いて日課としてX(旧Twitter)に載せ始めたところ、フォロワーから「スケッチを買わせてください」と頼まれ、大学2年生の頃には彫刻作品も売れるようになりました。
「頼まれた作品に自分で値付けして販売することを繰り返していくうちに、当時働いていたラーメン屋のバイト代ぐらい稼げるようになり、そこから自然な形で作家になっていきました。ちなみに初めて売った彫刻作品はフクロウの木彫です」
さらに瀬戸さんは、クラウドファンディングで制作活動の支援を募り、そのリターンとして作品を贈るというパトロンプロジェクトにもチャレンジ。そこには、スケッチからアートを好きになってくれたファンを彫刻の世界に誘いたいという思いもありました。
「当時、スケッチを描くのを辞めて彫刻で生計を立てるようになったら、スケッチのファンたちを切り捨てることになるんじゃないかという罪悪感がありました。彫刻作品になかなか手が届かない方にも僕が作ったものを届けたくて、こういう仕組みだったら買えるかなと考えて始めたんです」

SNSでスケッチを発表し始めた時の心境を「大学の同級生よりも下手なスケッチをみんなに見られると思うと、めちゃくちゃ恥ずかしかったです。でも、一度乗り越えたら怖いものがなくなり、どんどん作品を作って発表すればいいんだと吹っ切れることができました」と振り返る瀬戸さん。まさに芸術家としてのターニングポイントとなりました。

「瀬戸優にしか作れない彫刻」を追求して独自のスタイルを確立

こうしてプロの彫刻家としてキャリアを切り開いた瀬戸さんは、「これなら手が止まることはない」という確信の元、大好きな野生動物をモチーフに創作に没頭。そして、テラコッタ*を素材とし、粘土に直接触れることで指先の痕跡を残し、野生に生きる動物たちの存在や生命の気配を表現するという独自のスタイルを確立しました。そこには「自分にしかできないものを作りたい」という強い思いがありました。
「動物をモチーフにした作家は他にもいますが、野生動物を選ぶ人はあまりいませんでした。もともと自然科学が大好きだったことが出発点ですが、自分にしかできないことをやらなきゃと思って野生動物の作品を増やしていきました。また、動物の毛並みの表現もいろいろありますが、粘土の柔らかさを生かして指で造形するという方法を他の作家は取り入れていなかったので、自分の特徴にしようと考えたんです」
瀬戸さんがテラコッタを素材に選んだのは、こうした表現スタイルに適していることはもちろん、頭に思い描いた造形をすぐ形にできるという素材の特徴も大きな理由だそうです。
「もし素材が石だったら制作に数日かかり、その間に別のことを考えてしまうと思いますが、テラコッタなら頭に思い描いた造形をすぐ形にできます。それこそ、思いついたアイデアをその日のうちに作品に仕上げることもあります。僕の精神的な領域と制作にかける時間とのバランスが、テラコッタにすごく合ってるんです」

*テラコッタ:「焼いた土」を意味するイタリア語。粘土を高温で素焼きにして作った陶器や塑像の総称

驚くほどに多作で創作精神も旺盛な瀬戸さんですが、そのモチベーションはどこから湧いてくるのでしょう?
「実は自分が納得いく作品をなかなか作れていなくて、自分にとって『これが100点』と納得できる作品を見たいという思いがあります。あと、僕は実物大の野生動物を作っていますが、動物園を除くと実際に会ったことはほとんどありません。『野生の世界のどこかで生きていて、こういう顔をしてるのかな』と考えながら制作し、完成した作品に触れて野生動物たちと“出会える”ことも大きなモチベーションですね」
こうしたモチベーションに導かれて次々と新作に挑んできた瀬戸さんは、今年7月に札幌芸術の森美術館で開催された特別展で《52Hzのクジラ》を発表。本作は水面から顔を出したクジラの頭部を造形したもので、全長なんと約3m。瀬戸さんがこれまで手がけてきた作品で最大の規模ですが、その労力の大変さ以上に深い思い入れのある作品となりました。

「52Hzのクジラ」

「52Hzのクジラは他のクジラと異なる周波数で鳴くため、仲間に声が届かない“世界で一番孤独なクジラ”と呼ばれています。しかも、音声が検出されているだけで実際の姿を見た人は誰もいないそうです。僕がモチーフにしている野生動物は厳しい環境で孤独に生きつつ、その厳しさや孤独をものともしない強い目を持っている。そうした“孤独の中にある強さ”に野生動物の魅力を改めて感じ、これから始まる30代の芸術家のあり方の指針にしようと思ったんです。そこで、今年に制作拠点を地元の神奈川県小田原市へ移すにあたって、新しいスタジオを『52Hz STUDIO』と名付けました」
たとえ誰にも声が届かなくても鳴き続けるクジラのように、周りの評価に左右されて制作活動を辞めることなく発信し続ける――。その覚悟が今の瀬戸さんの軸となっています。

駆け出しの頃は「彫刻をやってます」と言うと毎回のように「じゃあ木を彫ってるんですか?」という話の流れになり、「縄文土器や土偶と同じです」と説明してようやく理解してもらえたそうです。こうした経験も相まって瀬戸さんは「彫刻というものがもっと日本に浸透してほしい」と願っています。

動物の命を表現する作家として向き合うべき「生命の循環」

こうして芸術家として新たな境地に達した瀬戸さんは、これからどんな世界を目指すのでしょうか?
「これまではどんどん大きいものを作っていこうと挑戦し続けてきましたが、《52Hzのクジラ》が1つのゴールになったので、今後は大きさや外見の向こう側にこだわっていこうと思います。たとえば、この動物はどんな境遇にあり、どんなことを思ってるんだろうという部分を掘り下げ、作品に奥行きを持たせていきたいですね」
その言葉通り、2026年10月23日からBunkamura Gallery 8/で開催する個展『CIRCULATION 2』では、死と再生が織りなす生命の循環という深いテーマの下、「存在」「野生」「循環」「再生」の4つの場面をたどりながら約40点の作品で表現します。
「動物の命を表現している作家として『生命についてどう考えているのか』をどこかで提示しておかなければいけないという気持ちがずっとありました。4年前にBunkamura Galleryで開催した個展『CIRCULATION』では食物連鎖の捕食シーンを表現した作品が多く、循環の『再生』までたどり着いていなかったことに対して『もっといい見せ方ができたんじゃないかな』と思っていたんです。そこで今回は、再生の希望を感じられるような作品を多く用意します。たとえば、野生動物の子どもなど新しい命を感じさせる作品を取り入れ、死の次にある命の芽吹きを感じていただこうと思っています」
自らの作品を通じて「見た人がただ可愛いとかカッコイイという感想で終わらず、もう少し深いところまで想像を巡らせ、自然について考えるきっかけになってほしい」と願い、さらにその先に「動物彫刻家といえば瀬戸優、もっと言うと、彫刻家といえば瀬戸優と思われるくらい有名になりたい」と目標を掲げる瀬戸さん。その独自のスタイルによって生み出された動物彫刻を通じて、作品に宿った生命と存在をぜひ感じてみてください。

取材・文:上村真徹(ダン)


〈プロフィール〉

1994年神奈川県生まれ。2014年に東京藝術大学美術学部彫刻科に入学し、2020年に同大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程を修了。在学中から彫刻家として活動し、自然科学の考察に基づきながら野生動物をモチーフとした彫刻作品を制作している。国内外のギャラリーやアートフェアで発表を重ねるほか、2026年には札幌芸術の森美術館で作品を発表するなど活動の場を広げている。藝大アーツイン丸の内賞(GAM賞)、KENZAN roidworksgallery賞、東京医科歯科大学 奨励賞などを受賞。

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〈展覧会情報〉

Yu Seto Exhibition
CIRCULATION 2

2026/10/23(金)~11/8(日)
会場:Bunkamura Gallery 8/(渋谷ヒカリエ8F)

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