擬闘の仕事(栗原直樹)
文化芸術を支える“裏方の役割”にスポットライトを当てる「Behind Bunka」。今回は、演劇や映画の立ち回りやファイトシーンをつくる擬闘の仕事です。迫力ある闘いの動きだけでなく、登場人物のちょっとした仕草から心情や状況を表現することも、大切な役割のひとつ。数々の舞台や映像作品で擬闘を手掛けてきた栗原直樹さんにお話を伺いました。
身体表現で「関係性」を見せる
「擬闘」という表現はあまり耳慣れないかもしれませんが、「殺陣師(立師)」「アクション・コーディネーター」「ファイト・コレオグラファー」など、人によって呼称もさまざまです。演劇や映画の立ち回りやファイトシーンの動きを付けるだけではなく、登場人物のちょっとした動作で心情や状況を表現する、大切な役割を担います。
栗原さんは当初、時代劇に参加する際には「殺陣」、現代劇では「擬闘」を肩書きにしていましたが、「アクションも殴る・蹴る・斬るもない芝居に呼ばれることが多くなって、“殺陣”を使うのをやめようと」、現在の「擬闘」に落ち着いたそう。10月に開幕するミュージカル『獅子 THE LION-BEAT』では、俳優たちがボクサーの日常的な練習や体の使い方を身につけられるように、下地作りから稽古に参加しています。

「取り組みのスタンスはどの現場でも一緒です。舞台でも映像と同じように“カット割り”を意識して動きをつくり、観客の目線を誘導します。演出家や照明スタッフともフォーカスしてほしい場所を共有しつつ、どこを見るかはお客さんの自由です」
「そうした基礎的な稽古もしますし、殴り合いの中にももう一つドラマを作りたいと思えば、ずっと台本と睨めっこです。台本にサインがあると思って読むので、チャンバラでも台本がなかったら一手も浮かばないですね。例えば振り向き方一つで緊張感を表現したり、暴力的に抱く、物を強く倒す、自分の体を痛めつけるというように、台本のト書きには書かれていない行間に何か動きが欲しい場合もある。パントマイムとは違いますけど、身体表現で関係性を見せる提案をします」
鍛えられた演出家たちとの仕事
ミュージカルからストレートプレイまで、また宝塚歌劇団や劇団四季のような大人数のカンパニーから小劇場まで幅広い作品に携わる栗原さんは、小学生の頃からスタントマンに憧れていました。
「18歳からJAC(ジャパンアクションクラブ)に3年間いました。その後殺陣師の國井正廣さんに出会い、國井さんのもとでプレーヤーとして蜷川幸雄さんの舞台などに出演するうち、國井さんに代わって殺陣師としてドラマに関わるようになったんです。ストーリーもわからないままロケ先に行ってその場で殺陣を付けるので、瞬発力の勝負でした」
そしてプレーヤーから擬闘専業に転じ、蜷川作品や鄭義信作・演出作品など数多くの舞台に携わるようになっていきます。
「蜷川さん、鄭さんとはそれぞれ40本くらい一緒に仕事をしています。抽象的作品と世話物と、両極端の世界で鍛えられましたね。蜷川さんの場合は、まず僕と俳優さんとで稽古場で作った場面を蜷川さんに見せる。すると笑顔でこう(手でバッテン)されるから腹が立ちましたよ(笑)。どこが足りないのか、逆に削ぎ落とす方がいいのかを自分で考えて、また見せることの繰り返し。蜷川さんの作品は海外公演も多かったので、言葉が通じない分、身体表現で的確に伝える必要もありました。鄭さんが求めていることは全部台本に書かれているので、とにかく台本を読みます」


「蜷川さんの作品では、三面・四面の客席に対応しなければならないこともありました。どの方向のお客さんにも同じように伝わることを意識しながら、一つひとつの俳優の動きに意味を持たせられるよう、探りながらつくっていきます」
緊張感を持ってコンタクトを取る
立ち回りや殺陣と聞くと、往年の時代劇のように「主人公がバッタバッタと敵を斬っていく」痛快さを思い浮かべる人も多いかもしれません。栗原さんはそうしたショーアップされた“見せ場”よりも、「人が死ぬとは何か、たとえ斬られても生きていたいという執念などを、描写として見せることにチャレンジしたい」と語ります。
昨今、表現の現場では殺人や戦争などの悲惨なシーンは直接見せない方向になりつつあるだけに、栗原さんには「暴力的なシーンもちゃんと見せなければ、ドラマが動かないと思うんです。もちろん見せ方にもよりますが、言葉で説明しなくても、俯瞰して伝わるものがあるはず」という信念があります。
「よりリアルに、でも怪我はさせず、安全に。数十回のステージで毎回同じパフォーマンスができるように、緊張感を持って互いにコンタクトを取り、その時にできる最高のパフォーマンスをしてもらう。劇場というアナログな空間で、擬闘を体現する生身の俳優さんたちを見てもらえたら嬉しいです」

取材・文:市川安紀
〈プロフィール〉
殺陣師・國井正廣のもとで経験を積み、2005年独立。WGK代表。殺陣、擬闘に関わった作品に『ムサシ』『NINAGAWA・マクベス』『あゝ荒野』『ハムレット』(蜷川幸雄演出)、『焼肉ドラゴン』『泣くロミオと怒るジュリエット』『パラサイト』(鄭義信演出)、『十二夜』『芙蓉咲く路地のサーガ ~熊野にありし男の物語~』『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』『かなかぬち』『応天の門』(青木豪演出)、『シダの群れ』シリーズ『空ばかり見ていた』(岩松了演出)、『祈りと怪物 ~ウィルヴィルの三姉妹~』『8月の家族たち』『百年の秘密』(ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出)、『1789 -バスティーユの恋人たち-』『レイディ・ベス』『るろうに剣心『ニュージーズ』(小池修一郎演出)、『ヘンリー五世』『ジョン王』『マクベス』(吉田鋼太郎演出)、『渦が森団地の眠れない子たち』『広島ジャンゴ 2022』(蓬莱竜太演出)、『CITY』(藤田貴大演出)、『ザ・ビューティフル・ゲーム』『ラグタイム』『リア王の悲劇』『うま』(藤田俊太郎演出)、『えんとつ町のプペル』(吉原光夫演出)、『ハムレット』(デヴィッド・ルヴォー演出)、他作品には『ドン・ジュアン』『キングアーサー』『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』『ミス・サイゴン』等。他に宝塚歌劇団、椿組・花園神社野外劇、黒テント、こんにゃく座、流山児事務所等。劇団四季では『バケモノの子』『ゴースト&レディ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『恋におちたシェイクスピア』など。

〈公演情報〉
Bunkamura Production 2026
ミュージカル『獅子 THE LION-BEAT』
2026/10/4(日)~10/20(火)
会場:THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
