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第18回「つ」

クラシック音楽、演劇、アートなどには独特の専門用語が使われていて、知っておくと文化芸術をもっと楽しめるようになるものがたくさんあります。そうした用語の数々を、誰かに話したくなるようなトリビアを交えて解説する「Bunka Dictionary Bunka辞典」。第18回は「つ」です。

【ツィクルス】Zyklus/音楽/ドイツ語

「ツィクルス」とは“循環”や“周期的な反復”を意味するドイツ語。クラシック音楽の世界では「ベートーヴェン・ツィクルス」というふうに、一人の作曲家の作品を連続して演奏するシリーズ企画を表す用語として用いられています。

ツィクルスは交響曲、室内楽、歌曲など特定のジャンルに絞ることが多く、たとえばベートーヴェン・ツィクルスであればベートーヴェンの交響曲全9曲や弦楽四重奏曲全16曲を、複数の演奏会に分けて毎日または毎月など定期的なペースで連続上演します。演奏する側にとってはまとめて演奏することによって作曲家および作品の特徴や魅力を伝えやすく、観客にとっても連続鑑賞することによって作曲家の全体像や作風の変化、さらに個々の作品が持つ意味を感じやすくなります。

【ツケ】つけ/歌舞伎/日本語

歌舞伎で役者が演技の途中にポーズを作って静止する「見得(みえ)」の瞬間、舞台上手の端に座っている人がツケ木で木の板を打ち、「バタバタ」「バッタリ」と大きな効果音を鳴らします。こうした演出方法を「ツケ」、ツケを打つ人を「ツケ打ち」と呼び、東京では大道具方が、関西では舞台進行を務める狂言方が受け持ちます。ちなみに公演の幕開きに2本の拍子木を「チョン、チョン…」と打ち合わせる「柝(き)」とは別物です。

歌舞伎では見得の瞬間だけでなく、何かが落ちる物音だったり、立ち回りや駆け足など役者の活発な動作に対してもタイミングよくツケが打たれ、印象的な芝居や場面をいっそう強調する役割を果たしています。ツケは用途や登場人物によって打つ音の大きさやタイミングが変わるので、その違いにも注目して鑑賞すると良いでしょう。

【突転】つっころばし/歌舞伎/日本語

歌舞伎にはさまざまなタイプの役があり、若くて容姿が美しい二枚目の優男でありながら、気が小さくてなよなよとした頼りない男性のことを「突転」と呼びます。ちょっと肩を突いたらすぐ転びそうな軟弱さを備えた役柄であることが名称の由来で、「つっころばし」と読みます。

突転は、江戸時代に初代市川團十郎が創始した「荒事(あらごと)」という豪快で力強い演技様式とは対照的に、上方歌舞伎で初代坂田藤十郎が完成させた「和事(わごと)」という柔らかみのある演技様式に特徴的な役柄です。なよなよと言ってもその立ち居振る舞いには男の色気も感じさせる必要があり、その上でとぼけたおかしみも求められるため、とても難しい役なのです。『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』に登場する商家の若旦那・山崎屋与五郎などが典型的な突転の例です。

【面】つら/演劇/日本語

演劇やコンサートにおいて舞台上の位置を示す用語として、客席から見て舞台の右側を「上手(かみて)」、左側を「下手(しもて)」と呼びますが、それ以外にも客席に近い前方を「面(つら)」、後方を「奥」と呼び分けています。演出家が舞台上の役者に指示を出す時に使われることが多く、たとえば舞台前方へと一歩進んでほしい場合は「一歩面へ」と言います。

ところで、なぜ左右や前方・後方という方向ではなく、わざわざ「上手・下手」「面・奥」と呼ぶのでしょう? それは、舞台上で役者がどこを向いているかによって、左右や前方・後方という方向の認識が変わってしまうから。誰もがどんな状況でも舞台上の位置や向きを同じ場所として認識できるよう、あえて統一した用語を使っているのです。