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第6回「か」

クラシック音楽、演劇、アートなどには独特の専門用語が使われていて、知っておくと文化芸術をもっと楽しめるようになるものがたくさんあります。そうした用語の数々を、誰かに話したくなるようなトリビアを交えて解説する「Bunka Dictionary Bunka辞典」。第6回は「か」です。

【鏡板】かがみいた/能楽/日本語

能楽堂に足を踏み入れて舞台に目を向けると、舞台正面の大きな羽目板に描かれた老松(長い年月を経た松の木)の絵が飛び込んできます。この老松は、春日大明神が降りて舞を舞ったと伝えられる奈良・春日大社の「影向(ようごう)の松」がモデルと考えられています。 「い」の「一の松」でも解説したように、1年を通じて枯れることのない松は「芸能の神の依代(よりしろ)」と言われています。役者と向かい合う観客席の側には春日明神の化身である松が存在するとされ、それを鏡のように映したものが羽目板の絵なのです。こうした考え方から、老松が描かれた羽目板を「鏡板」と呼びます。ちなみに、能舞台には客席から向かって右側にも羽目板があり「脇の鏡板」と呼ばれています。こちらは松ではなく、多くの場合、若竹が描かれています。

【書割】かきわり/音楽・演劇・ミュージカル・映画/日本語

演劇やミュージカルなどの舞台において、パネルや板に紙や布を張って物語の背景を描いた大道具を「書割」と呼びます。もともとは歌舞伎で使われていた用語で、板を組み合わせて書いた物をいくつかに割って持ち運べることが名前の由来となっています。 書割に描かれる背景は、家具が配置された家の室内、街に並ぶ建物、海や山といった自然の風景などさまざま。こうした複数の書割を使い分けることによって、一瞬で場面転換が可能となります。なお、遠くの景色を描いたものは「遠見(とおみ)」と呼ばれ、厳密には書割と区別されることもあります。

【楽劇】がくげき/音楽/日本語

19世紀ドイツの作曲家ワーグナーは、荒唐無稽な台本や歌手の声を聞かせるためのアリアにあふれた大衆娯楽としてのオペラ(歌劇)を否定し、音楽・文学・舞踊・造形芸術などを高度に融合した総合芸術を追求。そして『ニーベルングの指環』『マイスタージンガー』など数々の傑作を生み出しました。こうしたワーグナーの総合芸術論に基づいて作られた作品は、一般的なオペラと区別する形で「楽劇」と呼ばれています。 楽劇の音楽的な特徴としては、アリア(旋律的な独唱)とレチタティーヴォ(話すような独唱)の区別を曖昧にし、1幕を通じて音楽が途切れることなく続く無限旋律が挙げられます。また、特定の登場人物や物事をメロディに結び付けて繰り返し展開する「ライトモチーフ」という技法も印象的に用いられています。

【上手・下手】かみて・しもて/音楽・演劇・歌舞伎・ミュージカル/日本語

「上手・下手」とは、演劇やコンサートなどにおいて演者の入退場や位置取り、あるいはセットの配置などを指示する際に、舞台上の位置を明確に示すために用いられる用語。客席から舞台に向かって右側を上手、左側を下手と呼びます。逆に欧米では舞台に立つ俳優目線から区別し、客席に向かって左をステージレフト、右をステージライトと呼びます。 ところで、舞台上の位置を左右で区別しているのに、なぜ日本は「上・下」で呼び分けるのでしょう? その理由として、左右という言葉で指示を出したときに、演者と観客どちらからの視点になるかで左右が逆になるので混乱の元につながりやすいためと言われています。 語源には諸説ありますが、中国古来の思想で天子(天皇)が南を向いて座り、その前に座る臣下たちは太陽が昇る東側(天子から見て左)から位の高い人が配置されたとすることから天子から見て左を上としたということが影響していると考えられています。 この発想は日本の伝統芸能にも見られるもので、能や狂言ではシテ(主役)が上手に座ることが多く、歌舞伎では役者が登場・退場する花道が下手側に配置されることが一般的です。

【ガラ】Gala/音楽・バレエ・ミュージカル/スペイン語

クラシックやオペラの公演では1つの作品を最初から最後まで通しで上演することが一般的。一方、精鋭のソリストや歌手たちが集って協奏曲の単独楽章やオペラのアリアなど異なる作品の短い演目をいくつも演奏したり、一流のバレエダンサーたちがバレエ作品の有名な一場面だけをいくつも踊るというプログラムもあります。こうした演奏会は「ガラ・コンサート」「ガラ公演」と呼ばれています。 ガラ・コンサートの「ガラ」は、スペイン語で祝祭や式典を意味する「Gala」が由来で、大晦日の風物詩「東急ジルベスターコンサート」のように年末年始や祝祭などに合わせて行われることが一般的です。つまり、何かを記念したり祝賀するための催しとして、有名作や人気作のハイライトを特別にアラカルトで披露しているのです。