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人形に命を吹き込む人形遣いとは?
〜人形浄瑠璃文楽を深掘りする〜

人形浄瑠璃文楽は、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている日本の伝統芸能のひとつです。物語を語る太夫と三味線の音楽、そして人形芝居が一体となった文楽のルーツは、江戸時代の大坂に遡ります。当時は、操り人形芝居と浄瑠璃(語りもの)が合体した人形浄瑠璃が各地で上演されていましたが、貞享元年(一六八四)に義太夫節を発案した竹本義太夫が大坂・道頓堀に竹本座という人形芝居の小屋を建て、これが現在の文楽へ繋がります。竹本座では、義太夫の人気に相まって、義太夫と同世代の近松門左衛門の作品を上演したことで、人形浄瑠璃は不動の地位を獲得し、その後、紆余曲折ありながらも、現代まで脈々と受け継がれています。今回は人形浄瑠璃文楽の人形遣いの吉田玉助さんに文楽の魅力を伺いながら、8月29日から9月6日まで上演される「マルコス浄瑠璃『金閣寺』」の見どころを語っていただきました。

主遣いは、まるで指揮者のようにサインを送る!

玉助さんから見た文楽の魅力を教えてください。
「文楽は、三人の人形遣い(主遣い、左遣い、足遣い)によって一体の人形を表現しますが、その際、太夫さんの語りと三味線の音にのりながら、三業(太夫・三味線・人形遣い)が揃って初めて成立するというのが特徴で、これはとても珍しい演劇様式だと思います」

平成31年初春文楽公演『冥途の飛脚』封印切の段 国立文楽劇場蔵

令和8年4月文楽公演『菅原伝授手習鑑』車曳の段 国立文楽劇場蔵

三人で一体の人形を遣うというのも、世界中の人形劇を見渡してもなかなかないと思うのですが、それぞれの役割はどういうものなのでしょうか?
「人形遣いは、最初は後見や足遣いからスタートします。足遣いは、人形の両足を担当しますが、およそ10~15年ぐらい修業します。足遣いを覚えてきたら、今度は人形の左手を担当する左遣いにあがります。その左遣いを、やはり10~15年ほど経験しながら、最終的には、人形の首(かしら/人形の顔のこと)と右手を担当しながら人形全体を遣う主遣いを目指します。主遣いになるまで、大変時間がかかり、また、それぞれ勉強することが多く、とても難しい世界だと言えます」

どういう点が難しいのでしょうか?
「難しさは、主遣い、左遣い、足遣いとそれぞれの段階で違います。まずは三人で息を合わせることは大前提。僕たちは舞台上で声を出すことはないですが、代わりに主遣いが“ズ”と呼ばれる合図を出して、それを足遣いや左遣いがキャッチして動きます。足遣いになったばかりの時は、様々な振りや形の中に無数のサインが散りばめられていますから、そのサインをマスターしていきます。そして足を遣いながら、主遣いの息に合わせることが大切です。次に、左遣いは人形の左斜め後方部に控えていて、主遣いからのズが直接的にはわからないので、常に神経を研ぎ澄ませています。人形遣いは、瞬発力が問われる仕事です。鈍臭いと咄嗟のことに対応できませんからね(笑)。そして、左遣いも主遣いの息に合わせます。逆に主遣いは、左遣いや足遣いが仕事をやりやすいように、的確なズを出してあげる。つまり、主遣いとは指揮者のようなものなのですよね」

主遣いの息に左遣いと足遣いが合わせるというのは、具体的にどういうことなのでしょうか。
「息を合わせるというのは、間合いのことですね。僕は若い頃に日本舞踊を習っていましたが、踊りのお師匠さんから、振りと振りの間に息を抜いてしまったらあかんねん、と教えていただいて。人形も同じで、間が大切。どこで息を吸って吐くかで、同じ人形でも遣い手さんによって表現が変わるものです。主遣いの息遣い(間合い)に、足遣いと左遣いも合わせて、人形に命を吹き込むのが理想です」

主遣いは、体幹を鍛えながら、役の性根を表現!

人形の表現というお話がありましたが、主遣いはズを出すと同時に、芝居もしなければなりませんが、人形を遣う際に心得ていることを教えてください。
「それは役の性根を掴むということですね。主遣いは、自分が遣う役がどういう人物なのかを、何度も台本を読みながら追求します。太夫さんが語る言葉は、昔の言葉で書かれていますから、わからない言葉も全部調べて、頭に入れていきます。そして、先人たちの映像を観て、型の確認をしながら役のイメージを膨らませていきます。映像は文楽のものだけでなく、歌舞伎も観ますよ。どんな人物なのかを把握するために、いろいろな映像を観て、自分だったらどう表現したいのかを組み立てていきます」

ちなみに人形遣いのお稽古は、三人が揃う舞台稽古の一日だけと聞きますが、普段はどうやってお稽古をされているのでしょうか。
「家では、台本に書き込みを入れながら、映像の音だけにして、リモコンを胴串(どぐし/人形の顔の下についている木の棒で、主遣いはこの棒を操作しながら人形の首を遣う)に見立てて、人形を遣う気分で自主練しています。リモコンだったら、いつでも映像を止められますからね(笑)。そうやって家で散々稽古をしても、いざ三人で揃って遣うと、六割ぐらいしかできませんから、舞台稽古の時に調整します」

舞台では、主遣いは特殊な舞台下駄を履きます。これは、それぞれ大きさが異なる人形の足の高さを手すり(舞台にある黒い板)に合わせるために、主遣いが舞台下駄を履いて調整するのです。舞台下駄は、高さが20〜50センチほどのものがいくつも用意されています。また、主遣いが舞台下駄を履くことで、足遣いのスペースを確保することもできます。
「舞台下駄は、履き慣れないと難しいものですが、逆に舞台下駄を履くことで、足の運びが制限されます。そのことによって人形遣いはどっしりと構えていられるという利点もあります。そして、人形遣いにとって基礎的な体幹も鍛えられます。体幹がないと、人形がぶれてしまいますから。人形を軸にして動かすためにも、体幹は大切なのです」

人形遣いは、コンテンポラリーダンサー?!

今回のマルコス浄瑠璃『金閣寺』では、歌舞伎俳優さんやダンサーさんたちの中に人形が交じって舞台を創ります。
「これがね、難しいんですよ。僕は、コンテンポラリーダンスはやったことがないですから、それにどこまで対応できるかな……と思っています。歌舞伎舞踊の中に人形振りという振りがありますよね。これは、役者さんが人形に近づけていくという方向性ですし、ある程度、コンテンポラリーに近いものもあるのかもしれませんが、僕たちはその逆で、人形が人間らしく見えなければならないですから、考え方が真逆なのですよね。人形のコンテンポラリーダンスってどういうことなのかな?と、今は不安ですが、必死にマルコスに食らいついていきたいと思っています。ただね、僕たち人形遣いの動きって、実はコンテンポラリーダンスなのですよ!例えば、人形を持たずにエアーでやってみると、主遣いと左遣い、足遣いの関係はコンテンポラリーです(笑)。ですからね、そのコンテンポラリーの精神で、よりよいものをお届けできるように頑張りたいですね」

きっと今までに観たことがないような舞台になりそうですね。
「観たことがないと言えば、今回、僕たちの衣裳もお楽しみいただきたいですね。文楽人形にも新たに衣裳を作っていますし、僕たち人形遣いも普段の裃や黒衣ではなく、作っていただいた衣裳を着ます。今回は三人出遣いで、僕のイメージではね、『アルプスの少女ハイジ』のような衣裳を着ています」

『アルプスの少女ハイジ』のような衣裳!を着た人形遣いさんたちが文楽人形をコンテンポラリーに遣うだけでも、もはやこちらの想像を超えていますが、そこへダンサーさんや歌舞伎俳優さんたちが加わることで、どんな『金閣寺』が立ち現れるのでしょうか。ぜひ劇場で目撃したいと思います。

取材・文:田中綾乃

公演特集ページでは舞台美術、衣裳デザインを公開中!
https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/26_marcos/notes/11214.html


〈プロフィール〉

祖父は昭和20年代、30年代、大立役で活躍した文楽人形遣い三代目吉田玉助
父は文楽人形遣い吉田玉幸(四代目吉田玉助を追贈)
平成30年に五代日吉田玉助を襲名。
大きな体を活かし、立役として主役の人形を遣う。
また、本公演以外にも大阪民放テレビ局五局主催の「うめだ文楽」では若手のリーダとして一座を取りまとめ、公演を成功させる。
令和元年10月には杉本文楽ニューヨーク公演にも出演し、その他、初音ミクのボーカロイドとのコラボなど、新しい客層の取り入れにも積極的に取り組む。
NHKの古典芸能番組、ラジオやテレビ等メディアにも多数出演し幅広く活躍。
文楽を様々な世代の人に広める活動をしている。
令和六年国立劇場主催のアニメーションと文楽のコラボレーション『曽根崎心中』で座頭として出演。アメリカ公演ではニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンなど5都市9公演を上演し、大盛況で終える。


〈公演情報〉

Bunkamura Produce 2026
マルコス浄瑠璃『金閣寺』

2026/8/29(土)~9/6(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス

詳細はこちら

 

 

 

 

 

 


〈吉田玉助さん公演情報〉

令和8年9月文楽鑑賞教室
2026/9/10(木)~2026/9/20(日)
会場:江東区文化センター ホール(東京)
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_s/2026/0809/

令和8年錦秋文楽公演
2026/10/31(土)~2026/11/23(月)
会場:国立文楽劇場(大阪)
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/bunraku/2026/2026bunraku11/

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