はじめてのモネ
文化芸術への興味が芽生え、まずは耳にしたことがあるアーティストたちの作品に触れてみたいけど、何からどう体験すればいいか分からない──。そんなふうに迷っている方たちが“はじめの一歩”を踏み出すための案内役となる「はじめてシリーズ」。第2回は、印象派を代表する画家として19世紀後半から20世紀前半にかけてフランスで活躍し、2026年に没後100年を迎えるクロード・モネです。日本でも高い人気を誇るモネの特徴と魅力を、彼の生涯や代表作を通じて迫ります。
光と色を繊細に描いた風景画で印象派を代表する画家へ
1840年11月14日にパリで生まれたクロード・モネはフランス北西部のノルマンディー地方の街、ル・アーヴルで育ち、10代から絵を学び始めます。似顔絵や著名人を誇張したカリカチュア(風刺画)を売ってお金を稼いでいたモネは、風景画家のウジェーヌ・ブーダンに絵の才能を見出され、戸外で自然の光を直接捉える制作へと導かれました。19歳になると絵を本格的に学ぶためパリに出て、のちにルノワールやシスレーらと出会い、サロン出展を目指して切磋琢磨。戸外で風景画の練習を重ねながら自然の光の描写を探究し、絵具をパレットで混ぜずに異なる色をキャンバスに並置させることで鮮明な光を表現する“筆触分割”という、印象派に特徴的な技法に至りました。
画家として売れるには、まずサロンの審査に入選してコレクターの目に留まることが不可欠だったため、モネも作品を出品。1865年に初入選を果たしますが、その後は落選することが多く、安定した評価は得られませんでした。当時のフランス美術の世界では芸術アカデミーが教える伝統的な手法や美しさの基準が重視され、歴史画や宗教画と比べて風景画は相対的に評価が低いとされていました。そうした状況の中、モネはサロンに依存せず、1874年にルノワールらと共にのちに第1回印象派展と呼ばれる展覧会を開催。このグループ展には初期の代表作《印象・日の出》も出品され、批評家が同作の題名を揶揄する形で言及したことが、印象派という呼称のきっかけになったと言われています。
その後モネは、同じ場所やモチーフを異なる季節・時間・角度から描く連作に取り組み、〈積みわら〉や〈ルーアン大聖堂〉などのシリーズを発表。なかでも1899年から約30年間にわたって200枚以上も描き続けた連作〈睡蓮〉は、モネが追求した芸術性を象徴する代表作として高く評価されたのです。モネは晩年も精力的に創作に励み、1926年に亡くなるまで油彩画だけでも2000点以上の作品を残しました。
刻一刻と変化する光と色の“印象”をキャンバスに表現
モネの作品の多くは風景画で、庭園をはじめとする緑や水辺の景色が描かれています。では、モネはそれらの創作において、なぜ筆触分割を用いたのでしょうか。モネは自然の風景を描くにあたって、時間が経つにつれて刻々と変化する光や色をキャンバスに定着させるために、その最適な方法として絵具を素早くキャンバスに並置する描き方を用いました。つまり、ある瞬間に自らが体験した光の“印象”をそのまま観賞者に向けて伝えようとしたのです。こうして完成したモネの絵画は、繊細なタッチで表現された光や色を通して、その場に吹く風や空気感、そして自然の雰囲気を感じ取ることが出来ます。
そんなモネの真髄をより濃厚に体感できるのは、何と言っても〈睡蓮〉などの連作です。特に、池に浮かぶ花々を描いた〈睡蓮〉シリーズは、その時々の光の反射や水面の揺らめきも見事に表現されていて、息を呑むような感動を覚えることでしょう。
モネは日本の浮世絵から影響を受けていた
19世紀後半のヨーロッパには日本の製品や美術品が多く輸入され、日本趣味ブームが起きジャポニスムへと発展しました。そして、西洋絵画の伝統的な表現方法からの脱却を模索していたモネは、浮世絵だけでも230点ほどを収集し、その構図の工夫や遠近表現など、視覚的なアイデアを取り入れたとされています。たとえば、ノルマンディー地方のジヴェルニーに移住したモネは、浮世絵や知人の話からインスピレーションを受け、日本庭園を意識した水の庭を自ら造り上げました。その光景を描写した〈睡蓮〉シリーズには太鼓橋が登場しますが、これは歌川広重が亀戸天神の境内の池に架かる太鼓橋を描いた《名所江戸百景 亀戸天神境内》の影響とされています。また、1880年代には日傘をさした女性を描いた複数の作品を手がけていますが、そのモチーフやアングルには喜多川歌麿の《日傘をさす女》などの浮世絵との共通点が見られます。ほかにも、妻カミーユに着物を着せて扇を持たせ、浮世絵が印刷された団扇を背景に配置した《ラ・ジャポネーズ》のように日本的なモチーフを直接取り込んだ作品もあります。
ほかのモネの連作にも、葛飾北斎の〈富嶽三十六景〉や歌川広重の〈名所江戸百景〉など浮世絵で見られる構図や視点の工夫から着想を得た可能性があります。モネは〈富嶽三十六景〉や〈名所江戸百景〉をコレクションしていたことから、こうした視覚的アイデアを自らの連作に応用したと考えられています。
見ているだけで癒やされる美しい光と色の表現から伝わる、自然への温かい眼差し。そして日本の美術と文化から受けた大きな影響──。日本人の心と共鳴するモネの絵画の魅力にぜひ触れてください。
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