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天野 薫ピアニスト

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、小学6年生にして輝かしいコンクール受賞歴や国内外でのリサイタル、オーケストラとの共演経験をもつ天才ピアニスト、天野薫さんをフィーチャーします。

本番で普段は弾いていない表現をすることも

2025年6月に開催された、第9回仙台国際音楽コンクールピアノ部門にて、第3位および聴衆賞を受賞した天野薫さん。ファイナルで矢代秋雄(現代日本の作曲家)のピアノ協奏曲を表現力豊かに演奏した小学6年生に、驚愕した音楽ファンも多いことでしょう。

「仙台のコンクールは、ジュニア部門ではなく、大人と同じ部門で受けたはじめての国際コンクールでした。緊張しましたが、ほかのコンテスタントの皆さんが声をかけてくださったり、ボランティアの方々もあたたかくサポートしてくださって、とてもうれしかったです。矢代秋雄さんのピアノ協奏曲は、怪しげな雰囲気のところもあれば、オーケストラと一緒に盛り上がるところもあって、いろいろな表現が集まっている曲だなと思いました。オーケストラと演奏するのはすごく楽しいです」

2026年1月3日に開催される東京フィルハーモニー交響楽団の『ニューイヤーコンサート2026』では、天野さんが同コンクールのセミファイナルで演奏したモーツァルトのピアノ協奏曲第17番 ト長調 K453を披露します。

「第17番は明るくて優しい曲ですが、第3楽章のフィナーレは勢いがあって、新春にふさわしい曲だなと思います」

好きな作曲家は? と尋ねると「いろいろいますが、モーツァルト」という答えが返ってきました。

「モーツァルトの曲は、音がキラキラしているところが魅力だと思います。短調の曲も素敵ですね。モーツァルトは聴く人を楽しませたり驚かせたりするのが好きだったと思うので、私も楽譜に書かれたフォルテやピアノといった指示をちょっと大げさにやってみたりすることもあります。本番のときに、普段は弾いていない表現をしてみたりすることも」

天野さんのピアノは、「こう表現したい」という気持ちが内側からあふれ出てくるところが魅力

先生とのレッスンがなにより楽しみ

2013年、東京に生まれた天野さんがピアノをはじめたのは4歳のころ。9歳でデビューリサイタルを開催、第48回ピティナ・ピアノコンペティションPre特級銅賞、第12回ヨーロッパ国際ピアノコンクール in Japanグランプリなど数々のコンクールで入賞を果たし、海外のコンサートにも出演してきた輝かしい活躍の背景には、松嶋知香先生と二人三脚でひたむきに歩んできた研鑽の道があります。

「ピアノをはじめた頃から、先生と一緒にレッスンをするのがなにより楽しみでした。先生は面白いことをおっしゃって、いつも楽しくレッスンしてくださいますし、本番前に舞台袖から励ましてくださると落ち着きます。先生からよくかけられる言葉は、その曲に合った表現をしましょうということ。たとえばモーツァルトだったらキラキラとした音色を大切に弾いたり、バッハだったら壮大な、広い気持ちをもって演奏したり。作曲家や作品ごとに違うイメージを楽譜を見ながら考えて、演奏につなげられるよう心がけています」

大人と比べると、手の大きさもまだ小さい天野さん。普段の生活では小学生らしい一面もあって、いたずらっぽい笑顔も印象的でした。

「どうしても弾けないところは先生とも相談して、指遣いを変えたり、左手で右手の音をとったりして工夫しています。練習時間は、平日は3〜4時間、休日は5時間ぐらい。学校から帰ってきてから練習するのは大変ですが、学校の友だちは塾で何時間も勉強している子も多いので、忙しいのは私だけではないと思います。とはいえ練習がイヤになっちゃうこともあって……そういうときはこっそりゲームをやって、あとで母に怒られたりも。好きなゲームはスプラトゥーンです」

好きな教科は家庭科で、学校の授業で習ったミシンを使った縫いものが楽しかったとのこと

どんなピアニストになりたいですか? という質問には、こんな答えが。

「いろいろな人に素敵な音楽を届けられるピアニストになるために勉強しています。目標とするピアニストは、アンドラーシュ・シフさんと藤田真央さん。シフさんはバッハの演奏がとくに好きで、堂々とした音や壮大なスケールに惹かれます。藤田さんは本当に音がきれいなところが好きです」

最近はバッハの「ゴルトベルク変奏曲」全曲に挑戦中とのこと。来年は中学生になる天野さん、これからも目覚ましい進化と深化を遂げていくのでしょう。

「中学生に向けて、いろいろな曲にチャレンジしていきたいと思っています。オーケストラとの協奏曲も含めて、幅広い作曲家の曲を弾いていきたいです」

取材・文:原典子


〈プロフィール〉

2013年生まれ、東京都渋谷区出身。故杉谷昭子、松嶋知香の各氏に師事。2023年5月すみだトリフォニーホールにて「天野薫 9歳デビュー ピアノ・リサイタル」を開催。以後、演奏活動を開始する。仙台国際音楽コンクールピアノ部門第3位及び聴衆賞。第48回ピティナ・ピアノコンペティションPre特級銅賞。第2回Japan Jazz Pop Piano Competitionジャズ部門グランプリ・サンフォニックス賞。第12回ヨーロッパ国際ピアノコンクールin Japanグランプリ・特別コース中学高校の部金賞・杉谷昭子賞。褒賞としてスイスにてソロリサイタル、イタリアにてオーケストラと共演。 X


〈公演情報〉

東京フィルハーモニー交響楽団
ニューイヤーコンサート2026
~どこかで出会った、あのメロディ~

2026/1/2(金)、3(土) ※1/3出演
Bunkamuraオーチャードホール

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