
ミュージカル音楽で開花した作曲家バーンスタインの才能(踊るクラシック!ここから始める舞曲入門⑤)
オーチャードホールと横浜みなとみらいホールの2拠点からの“東横シリーズ”として、2024年11月からスタートした『N響オーチャード定期2024/2025』。<Dance Dance!>をテーマに、舞曲を中心に心躍る名曲の数々を演奏するシリーズをより楽しむためのポイントを、全5回に分けて掘り下げています。最終回では、世界的指揮者にして作曲でも才能を発揮したレナード・バーンスタインをクローズアップ。名作ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』などの代表曲を通じて、作曲家バーンスタインの真価に迫ります。
天才音楽家の情熱と才能は指揮だけに収まらない!
クラシック音楽愛好家にとって、レナード・バーンスタインの指揮者としての華々しい活躍はもはや語るまでもないかもしれません。1943年にブルーノ・ワルターの代役で急遽ニューヨーク・フィルを指揮したことをきっかけに一躍脚光を浴び、1953年にはアメリカ出身指揮者として初めてミラノ・スカラ座に登場。その後もニューヨーク・フィル音楽監督を務めながらウィーン・フィルやバイエルン放送響などの名門オーケストラとも共演を重ね、飛び跳ねるようなエネルギッシュな指揮で世界中を魅了しました。
このようにアメリカで生まれ育った史上初の大指揮者として名声を集める一方、バーンスタインの音楽への情熱は作曲活動にも注がれました。指揮者デビューを果たした翌1944年には自作の交響曲第1番を初演し、バレエ『ファンシー・フリー』と同作をミュージカルへと発展させた作品『オン・ザ・タウン』の音楽も担当。本人はシリアスなクラシック音楽で評価されたかったそうですが、ジャズ、ロック、ラテン音楽など幅広い音楽に精通するバーンスタインはさまざまな音楽的エッセンスを巧みに融合し、映画界やブロードウェイを舞台に硬軟自在かつ多彩な音楽を創作していったのです。
カーティス音楽院で音楽を学んだバーンスタインは、卒業後にニューヨーク・フィルの副指揮者に就任。そして1943年11月14日の公演当日、急病によって指揮できなくなったワルターの代役に抜擢されました。ドイツ・ロマン派から近代にかけての多彩な作品が並ぶ難易度の高いプログラムを、バーンスタインは鮮やかに振り分けて聴衆の喝采を浴びたのでした。
オーケストラ用に編曲して輝きを増した『ウエスト・サイド・ストーリー』
そんなバーンスタインの才能が存分に発揮され、またずば抜けて多くの人々に愛された作品が、ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』です。自らのバックボーンであるクラシック音楽を土台に、物語の背景にあるヨーロッパ系vsプエルトリコ系という人種間の対立を際立たせるためにマンボなどラテン音楽の要素を多く取り入れ、「トゥナイト」「サムホエア」「マンボ」などエネルギッシュかつ美しいメロディに彩られた珠玉のミュージカルナンバーを仕上げました。
さらに1957年の舞台初演から4年後、バーンスタインは劇中のダンスナンバーをオーケストラの演奏会用に編曲した組曲『シンフォニック・ダンス』(N響オーチャード定期第133回で演奏)を発表。物語の進行やオーケストラピットの収容人数などミュージカル公演での制限を取り払い、オーケストレーションにも手を加えて自らの構想に忠実な音楽を実現。プロローグのフィンガースナップや「マンボ!」の掛け声など、ミュージカルの名シーンを演奏家たちが再現する演出もユニーク! この組曲は20世紀のクラシック音楽を代表する名曲として、今でもコンサートで頻繁に演奏されています。
『ウエスト・サイド・ストーリー』の振付家ジェローム・ロビンスとバーンスタインは、ロビンスが初めて振付を行った作品『ファンシー・フリー』から何度もタッグを組んでいる盟友。バーンスタインはロビンスの振付が舞台映えする音楽のほか、バルコニーの名シーンで流れる「トゥナイト」のように甘くロマンティックな曲も作り、物語をドラマティックに彩りました。
“ミュージカル作曲家”だけではない評価を求めて
ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』は後に映画化され、作曲家バーンスタインの才能はさらに広く知られていきますが、皮肉にもそれはミュージカル作曲家としてのイメージを強めることになります。生前のバーンスタインは「『ウエスト・サイド・ストーリー』のバーンスタインと言われるのが嫌だ」と語っていたそうですが、裏を返せばそれくらい本作が世界中の人々の心を揺さぶる傑作だったということ。その後もバーンスタインは、作曲にあてられる時間が限られていたものの、交響曲や大規模なミサ曲など精力的に創作に励み、クラシック作曲家としての活躍と名声を追い求めたのでした。
尽きることのない音楽への愛と情熱を、指揮と作曲それぞれの分野にたっぷり注いだバーンスタイン。彼が残した名曲の演奏に触れることで、その色あせない偉業を実感してみませんか。
文:上村真徹

〈公演情報〉
N響オーチャード定期2024/2025
東横シリーズ 渋谷⇔横浜
<Dance Dance!>
第130回 2024/11/3(日・祝)15:30開演 会場:横浜みなとみらいホール
第131回 2025/1/11(土)15:30開演 会場:横浜みなとみらいホール
第132回 2025/4/20(日)15:30開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール
第133回 2025/7/6(日)15:30開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール