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今月のゲスト:廣川玉枝さん@「レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想」展


『理想の"美"を求めて』


高山: 廣川さんはもともと美術部で油絵をやっていらしたんですよね。将来の道を決めるときに、美術かファッションかで迷われた時期もあったとお聞きしたんですが。

廣川: そうなんですよ。高校のときは美術部で、ずっと油絵をやっていました。自分の将来を決めるときに、絵を描くことも好きだったので、服を作ることと迷ったこともあったんですが、ずっと女性の美しさに興味がありましたし、プロダクトを作って誰かに喜んでいただける仕事をしたいという想いもあったので、最終的にファッションの道を選びました。服飾の学校の授業では、人間の筋肉の付き方や動き方を研究するような授業もあって、そこでダ・ヴィンチの名前も出てきたので、それがダ・ヴィンチとの出会いと言えるかもしれません。

宮澤: ダ・ヴィンチと言えば人体解剖も有名ですよね(笑)。実際に死体をじかに見て描いたこともあるそうですよ。まあ画家では結構いますけれどね。

廣川: ダ・ヴィンチのこだわりというか、物事を突き詰める姿勢がすごいですよね。会場の中で流れていた映像の最後にダ・ヴィンチが美の理想について語った言葉があるんですが、近づいたと思うと遠ざかるのが理想と言うものだと。だからこそ彼の探究心は尽きることがなかったのかなと。

高山: ダ・ヴィンチの作品に未完のものが多いのはその作品の出来に満足せずに、次から次へと作っていったからだとも言われています。でもそういう姿勢から生み出されたものだからこそ、永遠の美と言われるように、時代を超えても賞賛される作品に繋がっていったのだと思います。

廣川: 関わったジャンルもすごく幅が広いじゃないですか。昔はそういうジャンル分けがなかったかもしれないので、本人はそういう意識はなかったかもしれませんけれど、建築もやるし科学もやる、好奇心旺盛でまさにクリエイターの鏡。作りたいものは何でも作る、描きたいものは何でも描く。作品作りだけじゃなくて物や人間の内側も知りたい。そんなダ・ヴィンチの作品に触れていると自分なんかまだまだだと思いますね。

宮澤: ただ万能とか天才って言われているけれど、万能はその通りだとしても、天才はちょっと違う気がするんですよ。確かにいろんな方面に秀でているんだけれど、やっぱり努力もしている(笑)。展示されている若い頃に描いた衣紋の習作などをみても、描く努力や実験的な試みが最終的に素晴らしい作品につながるわけで、そういう見方をすると努力の人でもありますよね。

廣川: 非常に純粋な一面もあると思うんです。大人になってから解剖学の若い先生に弟子入りを懇願して断られるエピソードがありましたよね。ある程度の知名度や教養がある人だと、名誉やプライドもあるからそういうことはできませんよね。でもダ・ヴィンチにとってはそういうことより、自分の興味や好奇心が最優先、まさに"美"のために生きていた人なんだろうなって。

宮澤: 今回は"美"がテーマだけれど、展示されているお弟子さんの作品の中にはいいものもそうでないものもあって、"美"だけでなく"醜"もありますよね。だから美醜を比べるみたいなところもこの展覧会のおもしろいところかと思います。

高山: もちろん、お弟子さんの作品がつまらないわけじゃないけれど、比べてみるとさらにダ・ヴィンチの作品のオーラというか、特別な雰囲気を感じますよね。そこの違いというのは、やはりいろんな分野を手がけたり、時には人体解剖をしてしまうような、美の追求のために徹底的にこだわる姿勢から生まれてくるのかもしれませんね。
先日のSOMARTAさんの秋冬コレクションのショーでは、この展覧会で展示されている《レダと白鳥》の女性レダの髪型をヘアメイクで実現してくださったんですよね。すごく感動しました!! これも徹底的にこだわった結果ですよね。

福井: よかった、高山さんはやっぱりわかってくださったんですね(笑)。

廣川: あれは私たちはもちろん、ヘアメイクの方も一生懸命研究してくださった結果です。イメージとしては、ダ・ヴィンチが描いているいろんな女性像を合体させた感じですね。顔の表現についてもいろいろと研究したんですが、目の影の入り方にすごく特徴があることがわかりました。

宮澤: なるほど。そういう視点からすると、今回の目玉の一つでもあるダ・ヴィンチの未完成作じゃないかと言われている《アイルワースのモナ・リザ》はどうでしょう?

廣川: これは残念ながら私はダ・ヴィンチじゃない気がします。表情もそうですが、口と眉毛が違うんですよね。モデルの年齢も若く見えますし、口角があがっていてどこかいきいきとした未来が感じられます。ダ・ヴィンチが描く女性はもっと憂いが感じられるんです。

宮澤: この絵は、ルーヴル美術館にあるダ・ヴィンチの《モナ・リザ》の絵のモデルがもっと若い頃に描かれたんじゃないかって言う説があるんですね。ルーヴルのモナ・リザが33歳で、彼女が23歳のときにこの絵のモデルになったと(笑)。まあモナ・リザも結局誰かって言うのはちゃんとわかっていませんけどね。この人じゃないかって言う程度で。最近またルーヴル美術館の見解として、いつ描かれたという製作年の幅が広がったみたいですし。

廣川: そういう謎の多いところも面白いですよね。それがまたダ・ヴィンチらしい。

高山: 「ダ・ヴィンチ・コード」の映画は日本でも大ヒットしましたけれど、これだけ時が経っても世界中の人たちの注目を集めているわけですからね。SOMARTAさんのファッションもレディ・ガガやマドンナなど、世界のスターからもオファーが来るんですよね。

中根: どちらも女性の"美"の中でも"強さ"を感じさせる"美"ですが、廣川さんにとって"美"とはどういうものでしょうか。

廣川: 私の中では、女性の中の美しさには強さと優しさが両方あって、それが融合したものが一番美しいと思います。どちらか一方だけでは成り立たないし、その中間を表現するのは一番難しいけれど、それがまた一番面白い。特に今の時代には、強さと優しさと両方を含んだ女性の美が求められているんじゃないかと。強さと優しさって反対のようで似ている言葉でもあると思うんです。優しさがないと強さが生まれないし、優しさを追求するためには必ず強さも必要になってくると思います。
私は女性の美しさというものにずっと昔から興味があるんですね。女性ってすごく変われるんです。女性の中には、かっこよさとかかわいらしさとか、いろんな美しさが存在していて、みんなそれぞれの美しさを選んだり演出したりしている。その変化を最も演出できるのがファッションだと思うんです。

福井: 僕は、今、廣川が言ったようなことを目に見える形で表現するのが生業なんですけど、それは無数に散らばっているキーワードから必要なものをピックアップして一つの理想形を作り出す作業なんですね。今日、みなさんとダ・ヴィンチや自分たちの作品についてもいろいろとお話を伺って、今回のコラボレーション作品がしっかりと展覧会のテーマを内包できていて、なおかつ廣川が言ったようなことも表現できていることがあらためて確認できた気がします。

廣川: さっき宮澤さんが直感的にかっこいいと思ったとおっしゃってくださいましたが、作品を作るときは、常に自分たちの想いやテーマに対する意識があるものの、そういうものと関係ないところで「いいね」と言っていただけるのが実は一番嬉しいんです。今回のコラボレーションでも製作中はかなり追い詰められた部分もありましたけれど、そういうお言葉をいただけると、やってよかったと思いますね。ダ・ヴィンチの言葉のように、理想ってたどり着けないから理想なんです。より高いところを目指すから発見や成長がある。ダ・ヴィンチはそれをずっと実践してきた人ですし、私たちも今の時代にファッションを中心とした理想の美を追求していきたいと思います。

  編集後記
 
 

その作品に触れていくうちにダ・ヴィンチという人物にも興味を持ったという廣川さん。クリエイションすることにどこまでも貪欲だった人。同じクリエイターとしてかなり刺激を受けられたご様子でしたが、まさにそんなところを私もSOMARTAのファッションから感じ取っていたのだと思います。
廣川さんの目指す強さと優しさを併せ持つ美。ご本人もダ・ヴィンチと美しさに対するベクトルが一緒のような気がするとおっしゃっていたのですが、だからこそ実現した今回のコラボレーションだったと思えてなりません。これからもそのフューチャリスティックな世界観で、ダ・ヴィンチのように時空を超えて人々を魅了するクリエイションを目指していってほしいと思います。廣川さん、福井さん、素晴らしいコラボレーションをありがとうございました!!そして皆さま、展覧会にお越しいただいたらお忘れなくグッズショップでSOMARTAとのコラボレーショングッズをチェックしてくださいね。

高山(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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