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今月のゲスト:假屋崎省吾さん@花の画家 ルドゥーテ『美花選』


『ルドゥーテの花でみんなハッピー』


宮澤: 假屋崎さんとルドゥーテとの出会いっていつ頃ですか?ザ・ミュージアムで最初にルドゥーテ展を開催したのが2003年なんですが。

假屋崎: その頃はもちろん知っていたと思います。出会いをはっきり覚えているわけじゃないんだけれど、ヨーロッパには昔からよく行っていて、街のいろんなところで花の絵や版画は沢山売られていたから、おそらくそういう中で見てはいたんでしょうね。

宮澤: 例えば假屋崎さんが、ルドゥーテと同じ時代に生まれていたら、何をなさっていたんでしょうね?

假屋崎: そりゃあやっぱり園芸をやっていたでしょう(笑)。私の父は鹿児島の出身で、母は長野。二人とも自然が豊かなところで育ったので一緒になってから東京に出てきて、都営住宅の小さな家だったけれど、小さな庭に種をまくものや花木など、本当にいろんな種類を植えていました。だから私も小さい頃から花壇に通販で買った種をまいて、自分で育てて楽しんでいました。朝顔の品種改良とかもやったわよ(笑)。今でも家にはたくさんの花を植えていて、毎日お水を上げたり枯れた枝をのぞいたり、一生懸命世話してます。ちょうどこの前咲き終わったのがクリスマスローズ。他にもボタンもあるしモッコウバラもあります。今咲いてきたのはアマリリス。やっぱりもしこの時代に生きていたとしても園芸家ですね。それもルドゥーテさんに絵を描いてもらえるような花を育てる園芸家。そのために一生懸命育てますよ。ジョゼフィーヌさんの邪魔にならない程度にね(笑)。

《キモッコウバラ》

高山: ジョゼフィーヌはナポレオン1世の皇后だったんですが、子供が出来なくて離婚されちゃうんです。それでバラの新種作りにのめりこんで、世界中からいろんな種類を集めたり研究したりしてさまざまなバラを完成させるんですね。それを彼女のお抱え画師としてルドゥーテが描いていたんですよね。

假屋崎: でもジョゼフィーヌさんはルドゥーテが彼女のバラを描いた『バラ図譜』が完成する前に亡くなっちゃったんでしょ。残念。

宮澤: ただこの『バラ図譜』に描かれている花はジョゼフィーヌのマルメゾン庭園で作られたものじゃないんです。そうじゃないということにした、という方が正しいでしょうか。実は、その当時ルドゥーテには新しいパトロンがいたんですね。だからジョゼフィーヌの名前を出すとまずい、というような政治的な理由があったんです。

假屋崎: それもまた因果な話ですね。でも、ルドゥーテの人生はマリー=アントワネットに仕えたり、ナポレオンやジョゼフィーヌの寵愛を受けたり、いろんな人との出会いがあってドラマチックですね。また、彼らとの出会いが無ければルドゥーテの作品も存在していなかったわけでしょうから、本当に不思議な縁。もともと花が好きだったんだと思うんだけれど、そこから絵や植物学を学んでこれだけの作品を歴史に残したわけでしょ。さらに今でもこれだけ多くの人に夢や希望をあたえてくれているわけだから、やっぱり彼は偉大ですよね。作品の量もものすごいでしょ。それぞれの絵はたくさん残っているんですか?

宮澤: 基本的には版画ですから、何枚もありますけれど、そんなにたくさんは無いですね。あとクオリティでいうと、もちろん原画はルドゥーテが描いているんですが、それを版画にする過程で 彫り師が彫って、刷り師が刷るんです。だからその彫り師と刷り師の腕によって最終的な作品の仕上がりに差が出る場合もありますね。

高山: 假屋崎さんも本当にたくさんの方とコラボレーションをなさっていますけれど、ご一緒されて特に心に残っていらっしゃる方はありますか?

假屋崎: フジ子・へミングさんとの共演は印象的でした。フジ子さんとは何度かご一緒させていただいているんだけど、初めてピアノの連弾をさせていただいたときに、彼女の指導法っていうのかな、とにかくいいところを褒めてくださるんです。これもフジ子さんの愛情ですね。一緒にもっと素晴らしい音楽にしていきましょうっていう。褒めていただけるからこちらもとっても幸せな気持ちになって、「よし、がんばっていいものを生み出さなきゃ」って。そういう気持ちにさせていただけました。それがやっぱり心に残っています。フジ子さんも花が大好きなんです。花や音楽は、美というものが持つエネルギーをお互いに共有するということ。そこからまた新たに生み出されるものがあるような気がします。新しい挑戦をして、新しい自分を発見するっていうこと。アーティストってここで完成、ここで終わりって思っちゃうとそこまでなんです。常にまだまだだって思わなくちゃ。自分の殻を破って、新しいものに向かっていく力がとっても大切で、違う分野の方とご一緒するとそういう機会に出会えるし、力も沸いてくる。だからこれからもいろんな方といろんなことをやっていきたいと思いますね。ルドゥーテともやってみたいかも(笑)。時空を越えて(笑)。これだけエネルギーを持っている人だから、きっと面白いものが出来るはず。

宮澤: それは見てみたいです。バーチャルでもいいから何か出来そうな気がしますけどね。次回のルドゥーテ展が実現したらぜひ。

高山: フジ子・ヘミングさんは、ちょうど来週オーチャードホールでソロピアノリサイタルがありますね。とても素敵な方ですよね。最後になりましたが、これから展覧会にいらっしゃる方に一言お願いできますでしょうか。

假屋崎: とにかく自然な気持ちで楽しんでいただきたいです。本や雑誌で見るのもいいけれど、展覧会という空間の中でルドゥーテの描いた作品からあふれ出るオーラに包まれるのは全然違うと思う。今回は240点を越える作品があるわけでしょ。こんな機会は2度と無いわけだから、このチャンスをぜひものにしてください。行こうかな?って思っているだけじゃダメ。決断しなきゃ(笑)。ちゃんとチケットを入手して、一人で行くもよし、お友達を誘うもよし、ご両親を誘って親孝行するもよし、ご夫婦でラブラブで行くもよし(笑)。一人の人は会場で新しい出会いがあるかもしれません(笑)。しかも1回行ったら、2回目3回目も行った方がいいのでは。また違う見方が出来るし発見もあると思う。後、カタログでもグッズでもいいから手元に何か残るものを買うのもいいんじゃない(笑)。とにかく、そうやってこの展覧会からは幸せを感じていただきたいと思います。ルドゥーテの描く世界からエネルギーや優しさ、思いやりなど、いろんなことを感じてハッピーになってくださいね。

※作品はすべて ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ 『美花選』より 銅版画  コノサーズ・コレクション東京

  編集後記
 
 

当館での1回目のルドゥーテ展から展覧会を応援し続けてくださっている假屋崎さん。
今回の展覧会場用のパネルにも素敵なメッセージを寄せてくださいました。
假屋崎さんと直接お会いしたりその作品に触れると、日々お花や植物を通じてチャージされている假屋崎さんの美しいエネルギーやパワーを私たちに惜しみなく与えてくださっているように感じ元気になれます。それはまさにルドゥーテの作品からも感じとれることです。假屋崎さんもおっしゃっているように、皆さんも是非会場に咲く美しい花々や植物の持つ生命力に触れ、心安らぐ一時を過ごしていただけたらと思います。
花を愛す二人のアーティストの時空を超えたコラボレーションも是非いつか実現していただきたいです。

高山(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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