ミュージアム開放宣言ミュージアム・ギャザリング ― ミュージアムに出かけよう。ミュージアムで発見しよう。ミュージアムで楽しもう。

今月のゲスト:假屋崎省吾さん@花の画家 ルドゥーテ『美花選』


ID_041: 假屋崎省吾さん(華道家)
日 時: 2011年5月20日(金)
参加者: ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世、橋爪優子)
宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム チーフキュレーター)

PROFILE

假屋崎省吾(かりやざきしょうご)
華道家。假屋崎省吾 花・ブーケ教室主宰。美輪明宏氏より「美をつむぎ出す手を持つ人」と評され、繊細かつ大胆な作風と独特の色彩感覚には定評がある。日仏交流150周年フランス広報大使、オランダ チューリップ大使を務めるなど、内外のVIPからも高い評価を得ている。近年では新たな取り組みとして、着物のデザインおよびプロデュースをはじめ、花と建造物のコラボレートとなる個展"歴史的建造物に挑む"シリーズも開催。
これまでに、徳島県美馬市「吉田家住宅」、福岡県飯塚市「旧伊藤伝右衞門邸」、福岡県福岡市「聖福寺」、佐賀県鹿島市「肥前浜宿 酒蔵通り」、大分県日田市「重要文化財 草野本家」、島根県松江市「日本庭園 由志園」、京都府京都市「長楽館」、奈良県奈良市「大本山 霊山寺」、長野県軽井沢町「軽井沢タリアセン内 旧朝吹登水子邸 睡鳩荘」などにて行われ好評を博している。ライフワークとなっている目黒雅叙園百段階段での個展「華道家 假屋崎省吾の世界-花の絆-」および「假屋崎省吾 花・ブーケ教室展」は10月27日から11月13日まで開催決定。また、オランダ キューケンホフ公園での個展、中国 上海万博でのフラワーパフォーマンス、イタリア ローマ国際映画祭でのフラワーインスタレーション、フランス パリのプティ・パレ宮殿にて個展を開催するなど国際的にも高い評価を得、国内はもとより海外でも目覚ましく活躍している。
假屋崎省吾 花・ブーケ教室:http://www.kariyazaki.jp/
假屋崎省吾 公式携帯サイト:http://kariyazakimobile.jp


『ルドゥーテに選ばれた美しい花たち』


高山: 今回のミュージアム・ギャザリングのゲストは華道家の假屋崎省吾さんです。あらためてルドゥーテの版画集『美花選』をご覧いただきながら、いろいろお話を伺いたいと思います。今回の展覧会の作品いかがでしたでしょうか。

《ヨウラクユリ》

假屋崎: どの花を見ても、よくこんなに素敵に描けるなって思いますよね。このヨウラクユリもとってもきれい。ルドゥーテの作品は特に曲線が素晴らしい。いろんな方向に曲がっているんだけれどそれがちゃんと一枚の絵に収まっています。栽培した花って真っ直ぐなんだけれど、実は自然に咲いている花は本当にこういう感じなんです。ちょっと折れていたり、下に曲がってからまた上に上っていたり。そのあたりがすごくリアリティがあると思います。この前オランダに行って来ましたが、キューケンホフ公園にはたくさんヨウラクユリが咲いていました。でもキューケンホフ公園でも見なかった種類もたくさんありますね。今回展示されている花は、今でも全部あるんですか。

宮澤: 実際にあった花を見て描いているはずなんですが、そのあたりはなんとも言えませんね。例えばヒアシンスなんて今はあんまり種類が無いでしょ。でも昔は2,000種類ぐらいあったそうなんですね。今では無くなってしまった種類もあるんじゃないでしょうか。

假屋崎: なるほどね。この前のオランダでは、ゴッホという名前がつけられた新しいチューリップが開発されて、その命名式の2日後にオランダに着きアムステルダムのゴッホ美術館でこのチューリップをいけるフラワーパフォーマンスをしてきました。世界で最初にそのチューリップをいけさせていただいた。ゴッホっていうとひまわりが有名だし、黄色ってイメージがあるじゃない?でもそのチューリップはきれいな紫色だった。

高山: それは素敵なイベントでしたね。そのチューリップもそれをいけた作品も拝見したいです。そういえばルドゥーテっていう名前のバラもあるんですよ。1回目のルドゥーテ展をザ・ミュージアムで開催した時に、千葉県の京成バラ園さんが寄贈してくださったんです。

假屋崎: そうなんですか。実は京成バラ園さんで品種改良された私の名前が付くバラが、この秋、目黒雅叙園での私の個展の時に発表されるんですよ。とってもきれいなピンク色で、花びらがこれでもかっていう位たくさんあるんです。

高山: それもすごく興味あります。ぜひ見てみたいです。

《キンレンカ》

假屋崎: 作品の中では、このキンレンカもきれいですね。このキンレンカって結構大きくなるんですよ。ジヴェルニーにあるモネの庭に行くと、家の目の前に大きな通りがあって、そこにたくさん咲いていました。
ルドゥーテの絵って、自然な雰囲気なのに、配置や余白のとり方がしっかり考えられていて、ちゃんと一枚の絵として完成されているのがすごいですね。で、たまに昆虫が描かれているのがあって面白い(笑)。いろんなところに突然現れるんだけれど、遊び心が感じられていいですね。

高山: 例えばこの中から好きな作品を一枚選ぶとしたらどれでしょう。

《イトシャジン》

假屋崎: どれも素晴らしいから一枚っていうのは難しいですね(笑)。この黄色のモッコウバラもきれいだし、青いイトシャジンなんかもすごく素敵。特にこのイトシャジンは、まずこの淡い色使いがいい。割とピンクとか黄色とか鮮やかな色や濃い色が多い中で、どちらかというとちょっと印象が薄いような感じだけれど、とっても繊細さが伝わってきます。茎の曲がり具合とか、葉っぱの微妙な空間の間も素敵でしょ。実際に外にこういう花があると、一瞬ふっと風が吹いたときとか、まさにこういう感じの曲線になるんですよ。そういう微妙な瞬間が捉えられていて、絵なんだけれども、生きているっていう生命感に溢れている。私のように、花という素材を使って新しい美を築き上げる行為を行っている人間からすると、こういう自然のままを切り取ったさりげない表現の中に、しっかり自分の主張が込められているっていうのは、作者であるルドゥーテの植物に対する愛情、そしてその愛情の深さを感じますね。絵を描く高い技術は持っているわけだから、いくらでも派手に美しく描くことは出来ると思うんだけれど、これだけそこはかとない美しさというものを描いたと言う意味では、ちょっと言いすぎかもしれないけれど、長年にわたって習得してきた彼の集大成と言えるかもしれない。また、この絵は一種類だけ描いているところもいいですね。いろんな花をあわせたり、ブーケにしたりしたものもいいけれど、自己主張しないはかない美しさというものは、やはりルドゥーテでなければ描けなかったんじゃないかと思います。

宮澤: ルドゥーテが植物を描く画家としてある意味ラッキーだったのは、植物学との出会いだったと思うんですね。植物学の範疇での絵としては、あまり演出しないで出来るだけ自然に描いた方がいいわけです。だから、バラとかカーネーションとか、そういう華やかなものだけじゃなくて、地味ではかないものもちゃんと描いていたというのは、ルドゥーテに与えられたチャンスだったのかもしれませんね。

假屋崎: この絵は特にデザイン的な美しさを持っているし、重なりあっている曲線に全然いやらしさがない。しかも地味だけれど決して内に閉じているんじゃなくて、それぞれの葉や花が広がって外につながっていく感じ。未来を感じさせてくれるような気持ちいい絵ですよね。

宮澤: やはりそれはお花をやっていらっしゃる方の感性、絵の見方だなと思います。

假屋崎: いえ、そういうの一切関係ないと思う。だって、花をやっていなくてもそういう感性がちゃんとある人もいるし、花をやっていてもそういうのが全然わからない人もいるもの(笑)。あと、この絵でいうと、青色って風水学的に希望の色なんです。やっぱり日本が今こういう状況でしょ。だからこういう絵はみんなに見てもらいたいですね。
この前、被災地に花を送らせていただいたんです。いろんな色がいっぱいある鹿児島のスプレー菊を5千本。多くの人が被災地支援をする中で、自分たちも何か出来ないかって思って。実際被災地って自然の美しい色がほとんど無くなっちゃったじゃない。瓦礫とかゴミとか、生命体からは程遠いものばかり。それに亡くなった方のお弔いといっても花も何もないわけでしょ。5千本って手入れや管理が大変だったんだけれど、ボランティアの人にも手伝っていただいてね。手向ける花が無かったから本当に嬉しいといった言葉もたくさんいただきましたが、これ全部花が持つエネルギーですよね。

《キバナズイセン》

高山: やっぱりお花って人を幸せにしてくれるし、いろんな力も与えてくれますよね。今回の展覧会でも復興支援を行うんですよ。ルドゥーテの傑作集『美花選』にもたくさん登場する"スイセン"をモチーフに缶バッジを作ったんです。スイセンの花言葉には"希望"という意味もあるんです。その売上げを東日本大震災の義援金として寄付させていただこうと。デザインしてくださったのはクリエイターの青木むすびさんとデザイナーの植原亮輔さんの"SUNDAYS"というユニットです。

《パンジー》

假屋崎: みなさん熱い思いでなさっていらっしゃいますね。この黄色のスイセンとてもかわいい。黄色はエネルギーの色ですよ。金運アップにもつながるっていいますしね。
後、このパンジーもキレイですね。一輪一輪がとっても繊細でいいですね。パンジーってさまざまな組み合わせがあって、今咲いているのはピンクが多いけれど、すみれ色って春を呼ぶ感じがあるし、みんなに幸せを運んでくれる気がする。この一輪一輪が顔に見えない?しかも笑っているように見えます。

宮澤: パンジーってもともとフランス語でパンセっていうんですけど、"思う"っていう意味なんです。だから、あえて訳すとすると"思い草"なんですよ。要するに顔なんです。顔があって、何かに思いをはせているってことなんですよね。

假屋崎: それ素敵な話ですね。私は昔っから園芸少年だったんですね。パンジーも種からまいて育てていたんです。花壇に種をまいて、芽がでてきたらある程度間引いて、少し育ったぐらいで植え替えたりして。咲いている時期が長いので12月ぐらいから少し咲いて、それが6月ぐらいまで咲き続けるんです。この絵はすごく花つきがいいですね。本当にそれぞれが顔みたい。楽しそうでいいですね。いろんな顔があって、みんなで手をつないでいるように見える。一人で生きているじゃないよっていう感じが伝わってくるし、どんどん咲いてくるエネルギーも感じられます。将来の日本もこうなればいいですね。

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