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今月のゲスト:Rie fuさん@語りかける風景


ID_037: Rie fuさん(ミュージシャン、アーティスト)
日 時: 2010年6月22日(火)
参加者: ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)
宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム チーフキュレーター)

PROFILE

1985年東京生まれ。
7歳から10歳までをアメリカ東海岸メリーランド州で過ごし、カ―ペンターズなど洋楽を聴き始める。
高校時代、何気なく弟から借りて弾いてみたギターで作った曲がデビューのきっかけとなり、2004年3月、マキシシングル『Rie who!?』でデビュー。
デビューと同時期に渡英、2003年から2007年まではロンドン芸術大学に通い、日英を往復しながら音楽活動をする。
2007年にロンドン芸術大学油絵科を次席で卒業、卒業制作は大学や現地企業に買い取られて評価を得る。
以後日本でも定期的に個展を行い、画家としての活動も続けている。
2010年、初のセルフプロデュース作品『at Rie Sessions』をリリース。アルバムを引っ提げてのワンマンツアーも大盛況のうちに終了し、今夏、ROCK IN JAPAN FES.2010などに出演予定。

Rie fu公式HP:http://www.riefu.com/


『立体としての風景』


高山: Rie fuさんはミュージシャンとしての音楽活動だけでなく、絵画制作の方でも積極的に活動されていますよね。Rie fuさんのように現代アートのフィールドで画家として活躍されている方が、今回の展覧会で展示されているような古典作品をご覧になって、どういう感想をもたれるか非常に興味があるんです。いかがでしたでしょうか。

Rie fu: 確かに、自分が絵のテーマとして取り上げるのは現代の日常的な風景なんですが、自分が絵を描く時にインスピレーションを受けているのは、まさに今回展示されているような19世紀の風景画なんです。ですから、大好きなモネの作品を始め、この時代の画家の絵は私にとっては“古典”というよりも“クラシック”という感じですね。いつ見ても安心できるし落ち着けます。

高山: ロンドンの美大で勉強なさっていたそうですが、その時は、結構美術館に通われていたりしたんですか?

Rie fu: 学校から歩いて2、3分のところに、ロンドンのナショナル・ギャラリーがあったのでよく行きました。入場料も無料でしたしね。ほとんどの大きな美術館は無料で入れますから、日本と比べるとアートに対しての物価はすごくリーズナブルだと思います。

海老沢: 小さい頃から絵を描かれていらっしゃったともお聞きしたんですが、何かきっかけはあったんでしょうか?

Rie fu: 特にきっかけというほどのことはなくて、気づいたら描いていたという感じですね(笑)。最初は自分が空想した物語をテーマに描いていたんですが、最近は自分の目で見たものを描く方向に変わってきました。絵という表現は自分の中で完結できるので、逆に言うと完全に自分の世界に閉じこもっちゃう危険性もあると思うんですね。今はその対象や興味が外に向かっている感じですね。自分の想像の世界だけじゃなくて、周りの人や環境からたくさん刺激を受けて、自分自身が成長したり、進化したりできればいいなって思います。

高山: ブログを拝見したんですが、Rie fuさんの絵が国立新美術館で展示されたんですよね。

Rie fu: そうなんです。現代美術家協会の『現展』っていう公募展に応募したら入選したんです。それで展示していただきました。それもこのブックに載っているような工事現場を描いた作品です。

宮澤: さっき一緒に会場でユベール・ロベールの橋の絵(《風景》)を見ていたら、「工事現場みたい」っていう発言をなさっていたので(笑)、さすが視点が違うなと思って。今、こういう雰囲気の風景が、絵や写真の対象として流行っているんでしょ。

中根: 工事現場や工場、廃墟というようなシチュエーションは流行っていますね。特に写真を撮る方たちが、被写体として好んで撮っていると思います。そのためのツアーなんかもありますし。いわゆる“工場萌え”とか“廃墟萌え”ですね(笑)。

Rie fu: 私はもともと肖像画とかより風景画が好きなんです。風景画を見ている時って、二次元の絵を見ているというよりも、その絵があることによって空間が彩られると言うか、立体的なものを見ているような不思議な感覚があるんですね。それを初めて味わったのが、ロンドンのナショナル・ギャラリーです。会場の中に八角形の部屋があって、そこに私の好きなターナーの絵が二点と、ターナーがすごく影響を受けたクロード・ロランの絵が二点一緒にあったんです。ターナーがロランと同じ部屋に飾ってくれと遺言を残したそうなんですね。その部屋にいると、飾られている絵だけでなく、二人の画家の息遣いまでもがリアルに感じられる気がして、特に部屋の中心にいるとそれがすごく伝わるんです。本当にその絵に、空間に包まれている気分でした。それ以来、風景画というものの見方が変わりましたね。単なる平面の絵としてではなく、空間として見られるようになりました。
今回の展示も、単に風景を描いた作品が並んでいるんじゃなくて、それぞれの絵に画家の視点が描かれている、風景画がそのまま画家の自画像になっているというコンセプトがすごく響きました。

宮澤: そうおっしゃっていただけると何よりです。今回のタイトルに“語りかける風景”とありますが、語りかけているのは実は風景じゃなくて、作家が風景を通して語りかけているということなんです。

高山: 先日、Rie fuさんのライブを拝見したんですけど、いきなりRie fuさんが絵の具を持って現れてキャンヴァスにライブペインティングを行うというパフォーマンスが始まって驚きました。従来の感覚のライブとはまた違う、非常にアーティスティックでRie fuさんの表現やキャラクターがそのまま伝わってくるライブだったと思います。

海老沢: 私もライブを拝見しましたけれど、本当に、ひとつの空間の中で、歌とペイント、人柄とアートが全部一体となった素晴らしいライブでした。終わった後もとても温かい余韻がありました。渋谷という場所にあるライブハウスの中で、あれだけの一体感が生まれるなんてすごいですね。

Rie fu: ありがとうございます。でも普段絵を描いている時と、ライブで描く時とは、全然違う気持ちなんです。普通に描いている時は人に見られない場所で、自分一人だけで黙々とキャンヴァスと向き合っているんですけど(笑)、ライブでのペインティングは、やっぱり人に見せることそのものに意味があると思うので、描いている時の姿勢とかしぐさとかをそのまま見せて、いろんなことを感じてもらいたいという気持ちがあるんです。

高山: ミュージシャンとアーティストとの活動は、それぞれどれぐらいのバランスでやっていらっしゃるんですか。

Rie fu: もともとは音楽よりも先に絵を描いていたんですけど、ある日、弟が買ってきたギターを弾いていたらなんとなく曲が出来てしまって(笑)、それをデモテープとして送ってみたら、あっという間にデビューまで決まったっていう感じなんです。絵はどちらかというと自分の内面に向かっていく表現ですし、ひとつひとつ一点ものなんですね。音楽は、それよりも外に向かって行く表現ですし、いろんな方に聴いていただいて、その方たちの生活の一部になれる表現だと思うんです。ですから、私にとってはどちらが多くなってもいけなくて、ちょうどいいバランスを自分の中に保っていたいと思います。

中根: でも音楽活動は、ライブとかレコーディングとかの日程が決まっていますけど、絵は自分が描きたいときに描くことができるメディアですよね。そのあたりの違いもあるから両立するのは大変じゃないですか。

Rie fu: そうですね。音楽はレコード会社の方や他にもたくさんの方と一緒に作っていますが、絵の方は個展の日程とかを決めないといつまでも描かなくなりそうなので(笑)、どんどん自主的にスケジュールを決めて進めています。絵は完全に自分一人で創る活動ですから、ギャラリーを見に行って場所を決めるのも、フライヤーをデザインするのも全部自分でやっているんです。音楽と絵は、そういうプロセスも含めて全然違うので、だからこそバランスよくこなすことが大事だと思っています。

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