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浅岡三恵さん@「薔薇空間」展


『バラの魅力、人の歴史』


高山: 私は今回の展覧会に関わって、バラには本当にさまざまな種類があるということにあらためて気づかされたんですね。しかも、連日これだけ多くのバラファンの方々が会場に来て下さっている。これほどいろんな表現が出来て、人々をとりこにするバラの魅力って一体何なんだろうと。

浅岡: 確かに。もちろん私たちもそうですし、例えば洋服のデザイナーさんの中にも熱狂的なファンの方はいらっしゃいます。色・形・香りと、長年にわたって品種改良がなされ、ものすごい数のバリエーションが存在しますよね。

高山: ちょうどルドゥーテが活躍した時代と、バラの研究や品種改良が始まった時代とがリンクしているんです。それからさまざまな人々が関わることによって広がり、今や何万種類と言われています。

浅岡: まさに、そうやってたくさんの人々が自分の想いを託してきた花、ということがバラの魅力なのかもしれませんね。お洋服にしても、もっとこういう形のものが欲しいとか、違う形のものが欲しいとか、いろんな人の欲求から広がりが生まれた気がするんですね。ですからバラもその人の想いが形や色や香りにそのまま反映されてきた部分もあるんじゃないでしょうか。四季咲きの種類が作られたのも、一年中自分の周りにバラが欲しいという欲求から生まれたのかも。
私たちが布でいろんなお花を作っているのも同じだと思いました。その時の依頼に応じていろんな色や形を作りだす作業というのは、どこか品種改良に似ている気がします。

高山: ルドゥーテはバラを手がけるまでは他の花や植物の絵も描いていたんですね。当時、ナポレオン妃のジョゼフィーヌが世界中から集められる限りのバラを集めていて、ルドゥーテにとっては自分のパトロンですし、彼女に捧げるという意味もあったようですが、それでもバラに対してよほどの愛情やパッションがないとここまで極められなかったんじゃないかと思います。やはりそれだけバラに魅力があったと言うことなんでしょうね。
バラ以外だとユリも歴史がありますし、品種改良もされたりしているようですが、さらに“香り”という要素も考えるとバラは圧倒的です。

宮澤:女性はバラの香りが好きだから、例えば男性用のガムの香料としてバラの香りが使われたりするらしいですよ。

高山:ルドゥーテが唯一表現できなかったのが香りだと言われているんですよね。

浅岡: それはうちもよく言われます(笑)。でも香りがあるというのは、本物であるということ、生きている証拠だと思うんですね。私たちが目指しているのは本物の花を作るということではないんです。だからあえて香りはつけない。むしろ、見た目や存在から匂いを感じ取っていただけるようなものを作りたいと思っています。

宮澤: 作ったお花は洋服につけることが多いわけでしょ。そうすると、服にあわせて自分の好きな香水を使いたいということもあるだろうから、お花自体には必ずしも香りがなくてもいいんでしょうね。

中根: 今回の展覧会は、その“香り”まで楽しめる演出といい、会場の最後を彩る写真作品といい、本当にバラを楽しむための空間として考え抜かれていますよね。

浅岡: やはり個人的な想い入れがあるからかもしれませんが、壁面の色が変化していったり、額装にこだわっていたり、最初はルドゥーテのコーナーの印象が強かったんですが、全体を通してみるといろんなことに気づかされました。例えば、チャイナ系のバラって西欧系と比べると艶やかな感じがするんですね。同じ赤でもみずみずしさがあるんです。西欧系は少し乾燥しているように見えました。ひょっとしたら人間の肌と同じような違いがあるのかもしれないなと。

高山: ルドゥーテの作品はバラのポートレートととも言えますからね。今回の各作品の説明は、NPOバラ文化研究所の野村和子先生に園芸的な観点から書いていただいて、宮澤さんには美術史的な観点から書いていただいたんですが、宮澤さんの、“うつむいたシャイな少女のような”とか、“ほっそりとした女性のような”とか、まさにポートレートとして捉えたコメントが評判なんですよ。

中根: 園芸的なコメントも勉強になりましたが、宮澤さんのコメントもさすがでしたね。おかげさまで、それぞれのバラを一枚の絵として楽しめました。

宮澤: いわゆる派手で色鮮やかなバラっていうのは誰が見ても綺麗なんだけど、一重のバラなんかでもよく見るとそれなりに美しいんだよね。そういう魅力を感じてもらえればなと。どうしてもルドゥーテのような絵の場合、園芸的な説明が多くなってしまうので、そうじゃない側面から書くことが必要だと思ったんです。それはそれですごく大変だったけれど(笑)。

浅岡: ルドゥーテの絵は単なる精密画ではなくて、そこにクリエイティブな力が加えられているからこそ、これだけ魅力があると思うんです。それは、私たちも同じで、花を作り出す過程でクリエイティブな力を加えることによって感動していただける要素をプラスできる。そうでないと、ただ言われたとおりに花を作るだけの会社になってしまいます。そこをしっかり考えているということがうちの一番大事なところですし、これからもそういう気持ちで作品を作り続けたいとあらためて思いました。

  編集後記
 
 

様々なコラボレーションを生んだ「薔薇空間」展。中でもアトリエ染花さんとのコラボレーションは、会場の中でどんなことができるかしらというアイデア出しからスタートし、スタッフの皆さんたちに実際にルドゥーテの作品をみていただいてから制作にとりかかっていただく、会場デザインの打合せ時にはサンプルに合わせて壁紙の色をセレクト、とその過程もエキサイティングなものでした。そして最終的にはどんなものができてくるのかとドキドキしながらお待ちしていましたが、それは素晴らしいテクニックに、アートとしてのオリジナリティを兼ね備えたそして何よりも作品に込められたパッションが伝わる本当に素晴らしい薔薇たちでした。
展覧会をつくっていく中で生まれた新たな美に出会うことができた瞬間でした。
アトリエ染花の皆さま、そして会場でその美に触れていただいた皆さまありがとうございました。

高山(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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