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浅岡三恵さん@「薔薇空間」展


ID_028: 浅岡三恵さん(「アトリエ染花」総括)
日 時: 2008年6月11日(水)
参加者: 大島祥子さん(「アトリエ染花」広報)
宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

浅岡三恵 (あさおかみえ) (「アトリエ染花」総括)
1981年の設立以来、”時と共に色褪せ朽ちてもますます愛される花飾り”をモットーに装いの花から空間を飾る花まで独自に開発したオリジナルの花飾りを製作する、あるジャンル、テクニックに特化したアトリエ。造花というひとつの分野に片付けられるのではなく、コスチュームアクセサリーとして、オリジナルコレクション、ファッションブランドとのコラボレーション、テレビCMや舞台衣装、映画の美術・衣装など、活動の場を広げている。2年後に30周年作品展を開催予定。

http://www.atelier-senka.com/


『花飾りが伝える想い』


高山: 今回の展覧会では、このカフェ「ドゥ マゴ パリ」のオープンスペースにもバラを飾るなど、いろんな方とのコラボレーションによってバラの美しさを演出しているんですが、中でもアトリエ染花さんにご担当いただいた会場入り口のタイトル文字の装飾が、ご来館のお客様に大変評判なんですよ。入り口で立ち止まられるお客様もいらっしゃいますし、アンケートにもアトリエ染花さんの作品がすばらしいというコメントをたくさんいただいています。本当にありがとうございました。

浅岡: こちらこそ感謝しています。実はうちにはルドゥーテが好きなスタッフも多いんですよ。それにもともとアンティーク感覚は私たちのテーマの根底にあるものなので、このような形で展覧会のをお手伝いをさせていただけたということはすばらしい経験でした。入り口という重要な場所も与えていただけたのも大変嬉しかったですね。

海老沢: 基本的に館内は撮影禁止なんですが、お客様から「これ(アトリエ染花さんの作品)だけは撮らせてもらえないか」っていうお申し出もいただいたことがあります(笑)。こういうのは今までの展覧会では無かったですね。

高山: ルドゥーテの作品をモチーフに、葉のカーブの具合や花びら一枚一枚の佇まいまで正確に再現してくださっているだけでも驚きなのに、それでいてちゃんとアトリエ染花さんの作品として存在しているところがすごいですよね。

浅岡: 私たちの中でも、ルドゥーテの絵にただ近づけるということではなくて、いかに自分たちの想いを込めることができるかというのが大きなテーマでした。色の微妙さや形の繊細さなどを精密に表現するだけではなくて、自分たちの中に取り込んで、自分たちが感じた想いや気持ちを作品に落とし込むという作業を大切にするということですね。単なる平面作品を立体にするだけはないからこそ、見てくださるお客様もそこから何か感じてくださったのではないかと思います。

高山: ルドゥーテも本物の花をただ模写したわけではなくて、実はもっとたくさん葉が付いているのにあえて数を減らしたり、大きさを変えたりしています。だからこそ、いわゆる単なる植物画の枠を超えたアートとしての素晴らしさがあるんですね。

浅岡: それは私たちも作品を作っていく過程で感じました。葉の付き方や数、角度など、花が最も美しく見えるように計算されて描かれているんだろうなと。

中根: 僕は仕事柄モノ作りをされる方とよくお会いするんですけど、今回のような企画は自由なフィールドを与えられてオリジナルを作るよりも難しい部分があると思うんですよね。全く同じように作るだけでも大変だと思うんですが、それだけじゃなくてその人でないと作れないものに仕上げないといけないという。

浅岡: そうですね。でも、こういったお仕事に関わらせていただくことによって、私たちもいろんな発見がありましたし、これをきっかけにまたいろんな膨らみやつながりが生まれていけばいいなと思います。

高山: ルドゥーテは『バラ図譜』において、スティップル・エングレーヴィング(点刻彫版法)という手法を使って、輪郭線を描かずに、点の集合だけで陰影をつけ最後には手で彩色を加えるという表現をしているのですが、彫り師や刷り師は別にいるんですね。アトリエ染花さんの作品もやはりそういう風に分業されているんでしょうか。

浅岡: 通常の業務としては、まさにそういう形で作っていくケースが多いのですが、それとは別にメンバーそれぞれが個別に作品製作を行うケースもあります。その場合は最初のデザイン画から最後の仕上げまで、すべてひとりで作業します。ただ私たちが作るお花は基本的にモードの中に存在するものなので、お花を作るという作業自体はうちの役割なんですが、それ以外に洋服デザイナーさんがいて、その方が作ったお洋服があったり、またそれらをコーディネートする人がいたり、いろんな人との交わりの中での作業になります。ですから、花を作ってそれをすべてだと思って見てくださいということではなくて、お洋服についたときの素材感とか完成度とか、そういう視点も必要になりますね。
今回もまさにそうですが、私たちの作るものが、他の何かと融合してどう存在するかということが大事なんです。モードとしての飾り方や、空間の中での飾り方などいろいろありますから。作っているものはお花というシンプルなテーマなんですが、もっといろんな角度から見ていただけるような作品作りが出来ればと思っています。

高山: アトリエ染花さんでは、コサージュのことを“花飾り”とおっしゃっていますよね。それにはどういう想いが込められているんですか。

浅岡: “コサージュ”だと、装うためだけの花になってしまうと思うんです。同じお花でも、今回のように空間に飾れば華やぎの花になるし、服に飾ればコサージュになる。“花”であるということ、そして“飾る”ということ、この基本的な2つの要素を合わせて“花飾り”と呼んでいます。
例えばファッションじゃなくて、もっと抽象的な世界とか、アートの世界に近づこうとした場合、“花”という言葉がついていることが違和感につながってしまうんじゃないかと思ったときもありましたし、どうしても“布のお花”という部分で、誤解されてしまうこともありました。最初から出来上がった作品があって、それを元にお話を進められれば分かりやすいと思うんですが、そうじゃありませんしね。
だからこそ私たちは“花飾り”という作品にここまで考えて、ここまで想いを込めて作っているんです、ということをこれからもちゃんと伝えていきたい。ですから“花飾り”の前に自分たちの名前“アトリエ染花”をつけて“アトリエ染花の花飾り”ということで、みなさんに覚えていただいたり感じていただいたりしてければと思っています。

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