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若木信吾さん@ルノワール+ルノワール展


ID_027: 若木信吾さん(フォトグラファー/映画監督)
日 時: 2008年4月4日(金)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

若木信吾(わかぎしんご)
1971年3月26日静岡県浜松市生まれ。
ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真課卒業後、The New York Times Magazine, Newsweek, Switch, coyoteをはじめ、雑誌・広告・音楽媒体など、幅広い分野で活躍中。2008年6月に雑誌「youngtreepress No.9」発売予定、第一回監督映画『星影のワルツ』が2008年ロッテルダム国際映画祭タイガー賞にノミネートされた。

http://www.shingowakagi.net


『絵画と映画のコラボレーション』


海老沢: 今回は絵画と映像による展覧会ということで、ご自身でも映画を製作していらっしゃる若木さんにゲストに来ていただきました。『ルノワール+ルノワール展』はいかがでしたでしょうか。

若木: まず、ちゃんとプロジェクターを使って映像を流しているところがすごいですよね。普通はモニターを使う方が簡単だしコストも安いと思うんだけど。さらに歩いて回れる会場で、絵と映像の両方がちゃんと見られるように照明が調整されているのも驚きました。相当苦労されたんじゃないですか(笑)。

宮澤: プロジェクターに関してはやはりモニターを用意する案もあったんですよ。ただ、オルセー美術館のルモワンヌ館長がそこだけは譲れないと。つまり彼にとって映画とは、“投影するもの”だっていうことなんです。その点はとてもこだわっていましたね。ただ、流している映像はさすがにフィルムではなくて、DVDというところが今時という感じなんですが(笑)。でもプロジェクターを使うことによる大変さもあって、画面の台形修正も大変だったし、もちろん会場の明るさも気を使いました。最初パリでやった時は、会場が映画博物館だったので、どちらかというと映画が中心だったんです。だから館内が暗くて絵が見えづらいのが多かった。そのあたりを修正できたという意味では、さらにいい展覧会になっていると思います。

若木: 今回は展示の仕方や照明がうまくいっていますよね。絵と映像が横に並べられている展示が多いけど、両方ともちゃんと見られるわけですから。

海老沢: 絵を見る時間と映像を見る時間って全然違いますし、距離も違いますよね。絵はかなり近づいてみることもありますけど、逆に映像はある程度距離を置かないと見えません。ですからお客様が絵と、そして映像とどういう距離で対峙されるのか、その動線を想定するのがすごく難しかったです。

高山: 若木さんはジャン・ルノワールの映画はご覧になったことはあるんですか。

若木: 数年前にジャン・ルノワールのDVDが出てき始めたと思うんですけど、その頃『ゲームの規則』とか『ピクニック』とか、いくつか見ましたね。特にこの2作は単純にすごいって思って、その後ジャン・ルノワールの自伝も本で読んだんですが、それも面白かった記憶があります。

宮澤: 『ピクニック』に神父姿でチラッと出てくるのが、写真家のアンリ・カルティエ=ブレッソンでしょ、ルキノ・ヴィスコンティも助監督を務めていたわけで、ジャンの周辺の人たちもすごいよね。

若木: そもそもブレッソンって、ジャン・ルノワールのアシスタントをしているときに、ライカを買ってもらったのが最初なんですよ。それまで写真ってずっとプレートで撮っていて、ロールフィルムになったのはライカからです。ライカって映画のカメラを改良して作ったんですよね。ジャンがブレッソンにライカを買ってあげて、そこからブレッソンは映画じゃなくて写真の世界に行っちゃった。そう考えるとこの時期にすごいことが起こっていたんだなと(笑)。

中根: それは知りませんでした。でも残念ながらジャン・ルノワールは日本ではあまり知られてないですよね。ひょっとしたらブレッソンよりも知名度は低いかもしれない。映画を好きな人でも、ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーらによる“ヌーヴェル・ヴァーグ”を知って、そこからさかのぼっていった人が多いような気がします。もちろんジャンの熱烈なファンもたくさんいると思いますが。そういう意味では展覧会はお父さんとのとのつながりがテーマになっていますが、ジャンを知るいい機会にもなっていると思いました。

若木: 今回は画家のルノワールの絵とジャン・ルノワールの映像がいくつも比較して見れる。そこで思ったんですけど、第三者が客観的に見て似ているものを並べたものが多いのか、それとも実際にジャンが絵からインスピレーションを受けて映画を作ったものが多いのか。そのあたり非常に興味があります。

宮澤: それは「これだけ偉大な父に影響を受けないわけはない」ってどこかでジャン自身も語っていますよね。映画に登場する人物がお父さんの絵と同じ服を着ている場面も実際ありますから。

若木: 逆に俺が思ったのは、画家のルノワールの絵って、静止画なんだけれど、そこからものすごくたくさんの物語を引き出せる一瞬を捉えていると思うんですよ。だから、一枚の絵から一本の映画を作るって言うのもありえるんじゃないかと。もし、実際にジャンがそういう方法を用いていたとしたら、ネタとしては無限大ですよね。

宮澤: それはあるかもしれませんね。《ぶらんこ》の絵もすごく物語性が感じられますよね。これは、画家のルノワールがモンマルトルの家の庭での風景を描いたものですが、近くに住んでいる女性が遊びに来ていて、男性と一緒に戯れている。確かに映画的なストーリーが見えてきますよね。

若木: そこがルノワールっていう画家と他の画家との違いのような気がするんですよ。一枚の絵に込められた状況や登場人物の表情からストーリーが出てくる。もともとレンズを通した写真のような絵だと思うんですよね。

宮澤: 印象派の絵ってそういうものかもね。光とか大気をテーマにしたものが多いけれど、人間の顔の表情やしぐさも一瞬のものだから、そういう瞬間を捉えるのがうまいのかもしれない。

若木: ジャンが延々と森ばっかり写しているシーンのコーナーがありました。今でこそ、ひとつの対象を長く写すっていうのは手法としてあるけれど、そういう表現方法をあの時代にやったっていうのも結構すごいことですよね。映画のストーリーからいくと、あそこまで森を何度も写す必要はないわけじゃないですか(笑)。でも、お父さんの森を描いた一連の絵を見ていたからこそ、あれだけいろんなアングルから撮らなきゃダメなんだって思ったのかなと。ジャンはどこか父親の絵を絵コンテ的に見ていて部分もあるんでしょうね。だからジャンの映画っていうのは画家的手法を使っていると言えるかもしれないですね。

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