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國松孝次さん@アンカー展


ID_026: 國松孝次さん(元スイス大使、元警察庁長官)
日 時: 2007年12月14日(金)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世、渡辺英明)

PROFILE

國松孝次
1937年生まれ。1994~97年警察庁長官。1999~2002年スイス大使を務める。現在はドクターヘリ普及を目指すNPO法人、救急ヘリ病院ネットワーク理事長として活躍中。


『知られざるアンカーの魅力』


國松:今回はBunkamuraさんでこのような企画を実現していただいて、本当にありがたいと思っています。アンカーはスイスでは知らない人がいないほど有名な画家なんですが、なかなか日本で紹介される機会が無くて、名前すら知らない人もいらっしゃるんじゃないでしょうか。ですから、展覧会としてはどれだけの人が見に来てくださるのか不安もあるのですが、とにかくアンカーの絵は一度見ていただければ絶対にその良さがわかっていただけると思うんです。

高山: おっしゃるとおり、今回も会場の出口で来館者の方にアンケートをとらせていただいているのですが、今までのアンケートの中でもダントツにいい評価をいただいています。やはりみなさん絵を見て純粋に評価してくださっているのだと思います。また、来館のきっかけとしては、駅に貼ってあるポスターを見て来てくださったというお客様が多いんですが、やはり絵そのものに人を惹きつける力があるということではないでしょうか。

國松: それは嬉しいですね。僕みたいな素人が言うのも何だけれど、彼の絵はやはり技術的にも上手いですよね。それと、子供たちや老人がよく絵に登場するんですが、みんな生き生きと描かれている。こういういわゆる“癒し系”の雰囲気を持った絵は、人間関係がぎくしゃくしてきた現代に合っているんじゃないかと思いますね。

高山: 美術系の媒体の方々にもいろいろとPRさせていただいているんですが、担当者の方から、「今、現代美術の展覧会が多く開催されている中で、久々に心打たれる展覧会ですね」という嬉しい感想もいただきました。

國松: それも非常に嬉しいですね。でもそういう時代だと思うんですよね。現代美術のようなメッセージ性のあるものもいいですが、純粋にいい絵だな、と思いながらゆったりと見ることができる絵も必要とされていると思うんですよ。

宮澤: 意外に今までの美術史を見ても、こういう作品をこれだけ遺した画家っていないですよね。部分的に子供や老人をテーマにしたり、こういう風景を描いたりした画家はいたけれど、第二のアンカーは?って言われると思い当たらないですよね。
Bunkamuraではフランスの画家と付き合うことが多いんですよね。その中で言うと、日本で知られている画家だと、やはりルノワールあたりになるでしょうか。モネもいるけど結果的に風景画ですからね。

國松: ルノワールは日本人は好きですよね。アンカーとは同じ時代に生きていたと思うんですが、実際に接点はあったんですか?

宮澤: 同じ画塾に通っていましたよね。だから会っている可能性はありますね。たまたま次の展覧会がルノワールで、今、ちょうど家族のことについてのことを訳しているんですが、彼は長男のピエールが生まれたときに個人的な大革命があって、その頃から子供の肖像画を描き始めたんですね。やはりまず家族や生活が充実してきてから、自分の絵の世界を追求していくことが始まっている、そういう部分は共通しているかもしれませんね。

國松: あと、この《静物(アブサン酒)》に描かれているアブサンですが、すごくアルコール度数の強いお酒で、水で割らないと飲めない。それで、水で割るとまさにこういう色になるんですよ。本当によく描けています。

宮澤: 今回、4点静物画が出ているんですが、そのうち2点は上流階級のテーブルで他の2点は農民階級のテーブルなんです。上流階級の方は磁器を使っていて農民階級の方は陶器を使っている、それが一番大きな違いだそうです。

國松: この絵は農民労働者の食卓でしょうね。そもそもアブサンなんて上流階級の人たちは飲みませんし、パリのモンマルトルなんかで芸術家たちが好んで飲んでいたと言われているけれど、彼らはお金が無かったから手っ取り早く酔っ払えるって言うことで飲んでいたわけですから。これを飲むと興奮して暴力沙汰になるとか失明する危険があるとか言われていたことがあって、スイスでは、つい最近までアブサンを飲むことは憲法で禁止されていたんですよ(笑)。スイスはなんでも憲法に書く国なんです(笑)。さすがに近年そういう規定は廃止されて、普通に売っていますけどね。僕も飲んだことがあります(笑)。今のアブサンはわりと高級酒の扱いをされているけれど、当時は日本でいうどぶろくのような感じだったんでしょうね。
アンカーはお父さんがお医者さんですからどちらかというと上流階級ですよね。苦労はなさっているんだろうけど、極貧生活を送っていたわけではないだろうから、画家としては恵まれていたのかもしれませんね。

宮澤: 今回も展示していますが、ファイアンス陶器の絵付けをすることでコンスタントな収入を得ていたっていうこともありますよね。

國松: 僕はいろいろアンカーの絵を見てきたけれど、この陶器はあまり見たことが無かったんですよね。他にも今回の展覧会では、今まであまり目にしなかった水彩や鉛筆で描かれたものもあって非常に興味深かったです。

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