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中鉢聡さん@ヴェネツィア絵画のきらめき


『ミュージアム・コンサート』


高山: 今回中鉢さんには10/3の閉館後の館内で行う『ヴェネツィア絵画のきらめき』展 開催記念企画コンサートにご出演いただくのですが、先程会場下見をしていただいた際に、コルナーロ家の統領たちの絵が展示されている前のスペースが会場になるので、「ちょうどあの大きな3枚の絵が反響板になりますね」なんていうお話をしていたのですよね。

中鉢: あれいいですよね。僕も美術館の中で歌うということは初めてなんですが、あの反響板、じゃなくて絵ですね(笑)、あれがあるのと無いのとではずいぶん音の響き方が違うと思いますよ。

宮澤: もともとあの場所は音の響きを考えたわけじゃなくて、今回はコンサート会場にもなるということで、お客様がいらっしゃるためのスペースのことを考えて設営したんですが、そう言っていただけると嬉しいですね。
この前、展覧会に関してある英字新聞にインタビューを受けたときに、この展覧会のキーワードとしてあげたのが“BOLD”。大胆とか、太いとか、思い切り、みたいな意味ですね。ただ派手だっていうだけじゃなくて、強く押し出すというようなニュアンスもあるんじゃないかなと。そういう意味では、今回の会場は思ったよりも華やかに仕上がったと思います。

中根: 商業的な繁栄や経済的な発展を背景にした、“こってり”とした感じは僕も感じましたね。アーティストの技量や精神性だけじゃない勢いというか。それもある種の強さなんでしょうね。

宮澤: 作品としては肖像画が多いんですが、ほとんど男なんですよね(笑)。だから華やかさを演出するために背景の色も基本的にピンクを使いました。それも結構成功したんじゃないかと思います。

中鉢: ヴェネツィアのカラーというとピンクや赤、それと鮮やかな青色っていうイメージですね。青色というよりサン・マルコ広場の時計台のような少し濃い目の水色という感じかな。今回の作品を見て驚いたのは、カナレットの風景画ですね。300年前と今とまったく変わっていない。船の素材が木なだけで(笑)。少なくとも日本ではこれだけの年数を経てそのままであり続ける場所なんてないでしょう。ヴェネツィアは今でも夜にホテルを出て一人で歩くと怖いですよね(笑)。人がいないし自分の足音が響きますから。暗いオレンジ色の街灯しかないし。

高山: 私はヴェネツィアに行くと、よく迷子になってホテルになかなか戻れなくて困ってしまいます(笑)。そういうご経験はありませんか?

中鉢: なりますけど、案外迷子になるのが好きなんですね。あえて小道に入ったり、細い道を選んだり(笑)。

高山: やはり留学もされていたし、今でもよく行ってらっしゃるのでお詳しいんでしょうね。

中鉢: 留学先はミラノだったんですが、当時はヴェネツィアも好きでよく遊びに行きましたね。そう言えばすごく記憶に残っていることがあって、ヴェネツィア郊外にあるブラーノ島というところに水上バスで遊びにいった時に、連れの女性がトイレに行きたいと言い出したんですね。と言っても途中に何も無いのでどうしようかと思って、結局ヴェネツィアの本当に一番端のただの民家しかない所に降りたんですよ。で、実際お店も何も無いので困っていたら、近くの部屋からかなり大音量でドアーズの音楽が聞こえてきたんです。あっ、ここは絶対若い人が住んでいるなと(笑)。それでトイレを貸してもらって一安心。本当に普通の家でしたけどね。あのエピソードはなぜか今でもよく覚えていますね(笑)。いったい何の話をしてんだろ(笑)。

高山: 中鉢さんはお話がお上手ですから、ぜひコンサートの中でもそういう楽しいトークをいれていただきながらお願いしたいですね(笑)。

中鉢: まあ、曲目解説とか音楽についての説明は最小限にして、雑談も入れながら楽しくやれればと思います。

宮澤: ザ・ミュージアムで今年の6月から7月にかけて『プラハ国立美術館展』をやったんですが、このときはフランドル絵画なんですよね。ルーベンスとかだとかなり派手なんだけれど、やっぱり違いますでしょ。フランドルにもブルージュという町があって、“北のヴェネツィア”と言われているんだけれど、もっと静かな雰囲気で、楽器で言うと古楽器みたいな感じなんですよね。

中鉢: オペラはもともとフィレンツェで1600年ぐらいに始まって、ナポリ派とヴェネツィア派に分かれるんですね。ナポリの方は音楽的に装飾をつけるんですが、ヴェネツィアの方は、やっぱりお金持ちの町だからセットや舞台装置がものすごく派手なんですよ。途中で火が燃え上がるような仕掛けを用意したりして、歌い手の技量だけではなくて、エンターテイメントとしてお客様を楽しませようという商業的な成功を目指したものなんです。ただ、あまりに大衆に作品が寄りすぎてしまって、現在残っているものはほとんど無いですけどね。要するに流行で終わってしまったんでしょうね。

宮澤: ヴィバルディもヴェネツィアですよね。

中鉢: ヴィバルディも実はたくさんオペラを書いているんですけど、ほとんど残っていないんですよ。このごろバロック・オペラが見直されている傾向がありますけど、それでもあまり聞かないですよね。絵画と違ってその時代の音のスタイルや当時どんな演奏をされていたかは、言葉として文献で残っていても、正確にわからないところが多すぎるということもあるのかもしれません。

宮澤: 今回はヴェネツィア派の絵画が飾られた展覧会場の中で歌っていただくと言うことで、何か昔の劇場の雰囲気やノリも入って楽しそうですね。

中鉢: 昔の雰囲気も再現したいですね。ただ、今回ピアノの伴奏を入れていただくんですが、もともとピアノ伴奏ではなくて、リュートとかビオラとかで演奏されていた曲を歌おうと思っているんですね。ですから、そのあたりの雰囲気をどれだけ出せるかどうか。でも、そういうのを細かく解説してしまうとレクチャーコンサートのようになってしまいますし、やはり僕はそういうのはあまり好きではないので、とにかくいらっしゃった皆さんには、インスピレーションを働かせていただいて、オープンに楽しく過ごしていただけるようなコンサートにしたいですね。

  編集後記
 
 

今回は展覧会の開催記念企画として行う「珠玉のイタリアオペラ・歌曲の夕べ」と題したコンサートにご出演いただくということでゲストに中鉢さんをお招きしました。これまでの華やかな経歴やお写真から受ける印象とは異なり、とてもフランクでユニークな方でギャザリング中も皆ずっと笑いが絶えませんでした。中鉢さん人気はそんな彼のパーソナリティにもあるのだなあと実感しました。そんなトークも楽しみな、会期中の一夜限り、閉館後のヴェネツィア絵画に囲まれた空間での限定人数でのコンサートということで、10月3日はまさにプレミアムな夜になりそうです♪

高山(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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