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小山実稚恵さん@ルドンの黒


ID_023: 小山実稚恵さん(ピアニスト)
日 時: 2007年8月17日(金)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

小山実稚恵(こやまみちえ)
1982年チャイコフスキー・コンクール第3位、85年ショパン・コンクール第4位と日本人として初めて二大国際コンクールに入賞し、その後も人気、実力ともに日本を代表するピアニストとして目覚しい活動を続けている。2006年6月からはBunkamuraオーチャードホールにて春・秋年2回ずつ2017年までの壮大なプロジェクト“12年間・24回リサイタルシリーズ「小山実稚恵の世界」~ピアノで綴るロマンの旅”を開始。全24回のプログラムを既に発表し、大きな注目を集めている。この集大成とも言うべきシリーズは、大阪、札幌、仙台、福岡、名古屋でも行っている。
BBC響、モントリオール響、ベルリン響、モスクワ放響、サヴァリッシュ、デュトワ、テミルカーノフ、フェドセーエフなど、世界の第一線で活躍する指揮者、オーケストラと多数共演。レコーディングも活発に行い、ソニーより数多くのCDをリリース。レコード芸術誌特選盤に選ばれるなど、いずれも 高い評価を受けている。2005年度文化庁芸術祭音楽部門の大賞、2005年第7回ホテルオークラ音楽賞を受賞。

Bunkamuraオーチャードホールのリサイタルシリーズ「小山実稚恵の世界」はこちらから


『本質としての黒』


海老沢: 小山さんはルドンがお好きだと伺ったのですが、今回の“黒”の時代に焦点をあてた展覧会はいかがでしたでしょうか。

小山: 今日は『ルドンの黒』展についてのギャザリングということで、黒い服を着ていった方がいいのかなと思ったり、でもあんまり真っ黒でも面白くないかなと思ったり、いろいろ考えてきたんですよ(笑)。
展覧会場に入ってまず気になったのは会場構成ですね。立体感のある模様の壁を使っているところや作品を一列にしていないところなど、いろいろ考えられているんだなと思いました。

海老沢: 今回はシリーズ作品が多かったり、またその中でもひとつだけ額の大きさが違ったりと、意外と展示が難しい部分があったんです。作品数も多いので、会場の壁も黒で統一してしまうと全体的に真っ暗になってしまうんではないかという危惧もありました。なので、単調にならないように作品を2段に重ねて見せるなど、ちょっとアクセントをつけました。通常、版画作品を展示する場合は、途中で変化をつけるために壁の色を工夫するんですが、今回は多くの色を使うわけにはいきませんから、黒とグレーをそれぞれ2色ずつ使って、ボーダーの模様にしました。おかげさまで壁の風合いはすごく好評をいただいています。

宮澤: やっぱり作品数が多いので、他にも順路の中に盛り上がるポイントを作ったり、壁の合間に隙間を作って会場の先が見えるようにしたりしているんですよ。遠くが見えた方が期待感が高まるんです。作品を2段にして展示しているのは、お客様によっていろんなご意見をいただきますが、こういう変化があった方が楽しいと思うんですよね。

小山: 作品が版画ですからサイズも意外に小さなものがあるし、そうかと思えば存在感のある額が使われている作品もあって、いろいろと驚きもありました。

宮澤: 額は結構いろんな形のものが使われていますね。こういうところは展覧会のポスターとか雑誌の紹介記事などではなかなかわからないところなんです。額が違うだけで作品の印象も結構変わりますが、それでも今回の作品は版画と額の間の余白がそれなりにあるので、そんなに邪魔はしていないと思いますよ。

小山: 作品を見た全体的な印象として一番気になったのは、横顔のものが多かったということと、その中でも《光の横顔》のような、左向きの作品が印象的だったっていういことなんです。ルドンの描く人物は、顔が左を向いている場合は被写体の気持ちが動いていないというか、定まっている感じがするんですね。逆に右向き、もしくは正面のときは被写体の意思や感情が少し伝わってくる気がします。そういう意味では、左向きの作品の方がルドンの本質的な部分を伝えているのかなと思いました。

海老沢: 本当にそうですね。今回ポスターに使用した作品は《蜘蛛》なんですが、カタログの表紙は《光の横顔》なんですね。それが理由かどうかはわからないのですが、カタログの売れ行きが好調です。ただ、《蜘蛛》のポスターのインパクトはかなり強かったみたいで、いつもよりポスターを見て来てくださったというお客様が多いんです。ポスターの量にしても「今回はたくさん出していますね」と言われたこともあります。いつもと同じ量なんですが(笑)。

宮澤: お客様に興味を持っていただくためにあるのがポスターで、それは《蜘蛛》でよかったと思うんだけれど、展覧会をご覧になった方はルドンのもっと深い部分に触れるわけですよね。そういう奥深い世界の象徴として考えると、全体の雰囲気といい、目の閉じ方といい、表紙はやはりこの《光の横顔》がいいのかなと。

小山: 私はルドンでは色彩豊かな後期の作品の方が好きなんですが、今回展覧会を見て、ある種本質は黒の世界だったのかなって思いました。ただ、人間の本質はそんなに変わりませんから、彼の表現の仕方が年齢や時代によって、どういう方向に出たかということなんでしょうね。そもそも黒の時代の作品を見る機会が少なかったということもあるかもしれませんが。

高山: 美術の教科書に登場するのはやはりパステルで描かれた作品ですし、ルドンを好きな方でもこういう黒の時代があるということをご存じない方も多いですよね。私もルドンでは色彩のある作品の方が好きなんですが、確かにこの黒の世界だからこそ見えてくることもあると思います。もちろん、どちらがいいということではないですよね。

海老沢: 最初は会場の最後にあるパステルの作品を無しにして、黒だけの展示にしようかという話もあったんです。ただ、やはりこの黒があっての色彩の世界なので、その流れも見ていただきたいですね。

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