ミュージアム開放宣言ミュージアム・ギャザリング ― ミュージアムに出かけよう。ミュージアムで発見しよう。ミュージアムで楽しもう。

今月のゲスト:秋元信宏さん@ティアラ展


『帽子という文化』


中根: 前回のミュージアム・ギャザリングで、ゲストの欄子さんがおっしゃっていたんですが、着物って裏地にすごくこだわるらしいんですね。基本的には見えない部分なんだけれど、何かの動作の拍子に見えるかもしれない。そのあるかどうかわからない瞬間のために、裏地の絵柄にこだわるのが“粋”なんだと。今回のティアラの魅力って、何かそういったものの対極にあるような気がしたんですが、帽子でもそういう部分ってあるんでしょうか。

秋元: それは帽子でもありますよ。帽子をかぶる時って一瞬で、それこそ見えるか見えないかぐらいですよね。ちょっと大げさかもしれないけれど、その一瞬を盛り上げるのが裏地なんです。僕たちもそこにはこだわっていて、裏地専用の生地を使う場合もあります。海外のブランドなんかは結構凝った裏地を使っているものが多いですよ。

海老沢: 今回のティアラ展はやはり女性のお客様が多いんですが、CA4LAのお店にいらっしゃるお客様の男女比率はいかがですか?

秋元: 場所にもよりますけど、男女比率は半々ですね。世代的には以前は学生さんが多かったんですが、僕がディレクターになってからは大人向けにシフトしています。できれば大人の層の人たちにかぶってもらいたいというのもありますし、大人に向けて発信していれば若い人でもおしゃれに敏感な人たちはちゃんと理解してくれますから。今は、結構幅広い層の方がお店に来てくださって、本当に帽子の魅力って世代に関係なく共通なんだなと思います。もちろん、ファッション業界にいる以上、流行の先端でいなきゃならない部分もあるんですけど、例えば、お年寄りの方が普通に買っていってくださるのを見ると嬉しいですね。

海老沢: 帽子やアクセサリーだと、かなり高価なものでも日常生活の中でつけられますが、ティアラの場合は例えば結婚式だからこそつけられるというような非日常性がありますよね。それも他のアイテムにはないティアラの面白いところだと思います。ただ、最近は若い人もパーティなんかでつけるらしいですが。

中根: それこそ渋谷にいる若い人たちなんかは、クオリティはさておき、手の届く値段のティアラが売られたら、普段からティアラをつけて遊ぶなんてことがありえる気はしますけどね(笑)。最近の若い人のファッションって何でもありになっている気がするし、いかに人と違うかを競い合っている気もします。

秋元: 何でもありですね(笑)。帽子でも、例えばニット帽は寒い時期にかぶるイメージがありますが、今の若い人たちには全然季節は関係ないです。自由です。また、我々もニット帽でも糸をコットンにしたり、汗を吸収する素材にしたりして、季節に合わせた商品開発を行っていますから。

宮澤: 今回展示されていた《マラカイトのカメオ付パリュール》は、携帯して持ち運べるんですね。“ウィークエンド・ティアラ”って呼ばれていて、つまり週末用なんです。当時の高貴な人たちはお食事やパーティーに招かれた時にティアラをつける習慣があったので、いざという時のためだったんでしょうね。それだけ身分をはっきり示すアイテムだったということですね。

秋元: 帽子も状況によって使い分ける場合がありますね。ニット帽は気張らなくてカジュアルだけど、つばのあるものは少し身が引き締まる感じがします。僕は前から面白いなって思っていることがあって、日本のアニメでも昭和を背景とした作品では、お父さんがスーツで会社に行くときにちゃんとそれなりの帽子をあわせてかぶるんですよ、で、会社には帽子掛けがある(笑)。これって文化だなと。仕事でスーツを着るのはフォーマルという考え方の時代だったんですね。でも、今の時代背景だとスーツに帽子はかぶらない。はっきりとはわからないけれど、いつからか帽子をかぶることがカジュアルになった。だから僕はカジュアルな方向性を志向しながらも、またスーツにちゃんと帽子を合わせてかぶるような時代が来ればいいなと思っているんです。

高山: でも帽子を専門に取り扱うお店というのは、まだまだ少ないんじゃないですか?

CA4LAプレスの篠さんと
秋元: CA4LAは今年10年目なんですね。今でこそ帽子を専門に扱うお店がそれなりに増えましたけれど、当時はほとんどなかったですね。それこそ皇室で使われるような本当に高級なものか、もしくはすごく安いものの両極端しかなかった。デザインも良くてクオリティが高くて、なおかつ若い人たちが買えるクラスのものがなかったんですね。今年の2月にロンドン店『CA4LA LONDON』をオープンしたんですが、今、ロンドンが全くそういう状況なんです。高いか安いかしかない。もともと帽子の発祥の地なんですけどね。ニューヨークはハリウッドスターやセレブたちが結構帽子をかぶるのでそれなりにポピュラーなんですが、ヨーロッパではちゃんとしたフォーマルな帽子をかぶっているのはお年寄りだけですね。そうでなければ防寒のためにかぶっているだけ。ヨーロッパはあまり傘を差さないですからね。

宮澤: 今回のコラボレーションは“頭につける”っていう共通項がありましたけど、例えばこれからザ・ミュージアムで予定されている展示で17世紀のルーベンスやブリューゲルとか、ヴェネツィアの絵画、さらにはルドンのような特異な画家をテーマにした帽子なんていうと、どういうのが出来上がるのか、想像するだけで楽しいですね。

秋元:ぜひやりたいですね。個人的にはチャンレンジという意味では、冠婚葬祭にかぶっていける帽子をデザインできないかと考えているんですよ。特にお葬式(笑)。デザインや素材によっては可能だと思うんですよね。もちろん、黒が基調になるでしょうし、あんまり派手には出来ないですけど(笑)。

  編集後記
 
 

個人的にも大好きな帽子。たまたま出かけた展示会で秋元さんとお会いできたことから生まれた素敵なコラボレーション。“帽子”という日常的に身につけることの出来るアイテムでこんなに素晴らしいクリエーションができるということに驚かされました。ちなみに現在はパリでの展示会中とのこと。日本が誇る世界の『CA4LA』として世界中の人々から愛される帽子屋さんになるのも間近ですね。また、次回『モディリアーニと妻ジャンヌの物語展』での「ザ・ミュージアム」×「CA4LA」の第3弾コラボ帽子も着々と準備中です。みなさま、お楽しみに!!

高山(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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