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今月のゲスト:結城昌子さん@ピカソとモディリアーニの時代


『モディリアーニのいたパリ』


高山: 今回の『ピカソとモディリアーニの時代展』はいかがでしたでしょうか?

結城: いろいろ見せ方が工夫されていましたよね。最初に目に付いたのは、入り口にあった画家の言葉を書いたボードの書体。結構くせのある書体を使ってらっしゃったでしょ。見ていて違和感はなかったけれど、もっと画家ごとに書体を変えるとか、派手にやれば面白いかもと思いました。ブラックの言葉はゴシック体で書くとかね。そういう風に思うのは私がもともとグラフィックをやっていたからでしょうね。
今回、アンリ・ロランスの彫刻がよかったですね。3つ並んで展示されていた《部屋着の女》《女と鳥》《女の頭》がとても素敵でした。というのも、最近ちょうどフランスに出来た美術館「ケ・ブランリ」でアジア・オセアニア・アフリカ・アメリカの美術を見てきたところなんです。例えば、アジアにある土偶みたいなものとそっくりな像がアフリカとかメキシコにもあるのね。それぞれ宗教とか呪術とか、人間の根源的な祈りのようなものを感じさせるんだけれど、そういう風に同じような形をしたものが世界のあちらこちらで出てきているのがすごく面白かったんですよ。キュビスムが黒人彫刻から影響を受けたっていうことは、言葉ではよく聞くけれど、「ケ・ブランリ」でリアルに体感したところだったので、特にロランスの彫刻が印象的でした。

宮澤: ただ、今回は一応キュビスムから始まってそれなりに網羅していますが、そういう意味ではマチスもいないしシャガールもいないんですよね。そのあたりが個人コレクションの難しいところなんですよ。

結城: 確かにピカソも少ないと感じたけれど、最初に出てきたブラックの《水差しと魚》の水差しなんてとてもおしゃれでいいと思ったし、全体的にはバラエティに富んでいてよかったです。
モディリアーニのコーナーでバックに水色を使っていらっしゃったのもすごく合っていました。額縁の外にもう一枚ボードを立てていたのも、空間的な奥行きが出るいい演出だと思いました。

海老沢: そう言っていただけると嬉しいです。実はモディリアーニのコーナーで使っていた水色に関しては、お客様から賛否両論の感想を頂いています(笑)。どちらかというと好意的な方が多いようなのでホッとしているんですが。

結城: モディリアーニの絵は清楚な雰囲気と淫靡な雰囲気と両方を併せ持っていて、原画を生で見るとゾクっとするほど肉感的ですよね。印刷物を否定するわけではないけれど、特にモディリアーニみたいな作家は印刷だとフォルムが強調されちゃうじゃない。だけど、生で見ると今回展示されているヌードの絵なんて、色といい質感といい、かなり“いやらしい”ですよね(笑)。

高山: 体温まで伝わってくるかのようですよね。

宮澤: モディリアーニは色使いとかタッチとか、作風そのものがイラストレーションっていう感じですよね。

結城: エコール・ド・パリあたりから絵画が“デザイン”的になっていくと思うんですが、モディリアーニはその走りかもしれませんね。マチスも同じ絵をたくさん描いているじゃないですか。それでクライアントを呼んできて見せて選ばせる。現代のデザイナーがプレゼンやるとの同じ感覚ですよね。受け手が見えているし、それを意識して描いている。そういうところがデザイン的ですよね。ゴッホなんかとは全然違う。

宮澤: そういう意味ではゴッホとかは前近代的ですよね。もちろん彼らよりさらに遡るとまたクライアントを意識しているんだけど。少なくともこの時代の画家だったら売れないとやっぱりつらいでしょう(笑)。

結城: モディリアーニはもっとデザイニングが成熟した時代に出てきたらいいデザイナーになったのかもしれないなって思います。それでも彼はパリの実存的な空気をちゃんと表現していて、みんなどこかで彼の絵を見て20世紀のパリっていうものを感じている部分もあるんじゃないでしょうか。モディリアーニって、その前にゴッホとかゴーギャンとかがいて、彼らのようにデカダンな生活を送るのがアーティストだって勘違いしちゃった若者の悲劇性も持っていると思うんだけど、やっぱりこの時代に彼がいなかったら寂しかったと思う。

宮澤: よく不遇の画家って言われるけれど、そういう生活を送っていたからこそ出てきた作品なのかなという気もするし、早く亡くなってしまったけれど、だからこそいろんな神話が生まれた部分もあると思うんですよね。言い方は悪いかもしれないけれど、彼の送った生活や身に起こった出来事っていうのは、結果的にはよかったのかもしれない。

結城: モディリアーニを見た後にもう一度戻ってレジェを見たんだけれど、とても良かったですね。レジェの作品がこれだけ見られるのも貴重だと思いました。特にモディリアーニの後に見ると、レジェが妙に牧歌的な雰囲気に感じられたんです。だから今回、もし一枚もらえるとしたらこれだなって(笑)。私は展覧会を見るとき、必ずそれを考えるんですよ。仕事柄、いろんな美術館に足を運びますが、全体に良いっていう展覧会よりも、全体としてはバラバラだけど、一枚だけとびきり素敵な作品に出会えた展覧会の方が心に残っている気がします。
よく「どういう絵がいい絵ですか?」って聞かれることがあるんだけれど、私はこう答えているんです。好きだなと思う絵があったらトイレでもどこでもいいから飾っておいて、毎日見てごらんなさいって。毎日毎日、繰り返し見ていると、その都度感じ方や捉え方も違ってくるはず。それでも一ヶ月見ていて飽きなかったら、きっとそれはあなたにとっていい絵なのよって。

  編集後記
 
 

今回、結城さんから朝日小学生新聞での連載が11年も続いているコーナーだとうかがって驚きましたが、それだけ子供たちから熱く支持されているんですね。『遊んでアーティスト』をきっかけにアートに興味を持った子供たちはたくさんいて、本物の作品に会いにきっと美術館にも足を運んでくれているのだろうと思います。我々も常に10年後、20年後のお客さんのことも考えた活動をしていかなければならないと日頃から思っていますが、今日のお話しからは、そのための大切なヒントをたくさん与えていただけたように思います。

高山(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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