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今月のゲスト:結城昌子さん@ピカソとモディリアーニの時代


ID_019: 結城昌子さん(グラフィックデザイナー、アートエッセイスト)
日 時: 2006年9月27日(水)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

結城昌子(ゆうき まさこ)
グラフィックデザイナー、アートエッセイスト。アートとの楽しいコミュニケーションを提案する書籍を多数、企画執筆。現在、『朝日小学生新聞』紙上に「遊んでアーティスト」を連載中。「名画に挑戦」と銘打ったオリジナルのワークショップ、講演などを展開している。著書は、最新刊『ミロの絵本 うっかり地球へ』などの「小学生あーとぶっくシリーズ」全13巻、朝日小学生新聞で連載していたコーナーをまとめた『ひらめき美術館』全3冊、『原寸美術館』など。
ファンサイト:http://www.geocities.jp/artbook_jp/


『子どもはアーティスト』


高山: 結城さんは「朝日小学生新聞」上で『遊んでアーティスト』という子供たちがアートにふれあい、楽しむための企画を連載されていらっしゃいますが、その中で本展を紹介してくださっていたのを拝見して、ぜひ今回ギャザリングのゲストにいらしていただきたいと思ったんです。

結城: ありがとうございます。『遊んでアーティスト』は子どもたちに作品を送ってもらう参加型の企画で、本当にたくさんの子どもたちが見てくれていて、いつも作品がいっぱい届くんです。どれも面白いですよ。例えば『名画に挑戦』っていうコーナーがあって、ピカソやゴッホなどが描いた作品に挑戦するっていう内容で、この前は「ムンクに挑戦!」だったのね。ムンクの『叫び』という作品の人物だけが描いてある絵があって、その背景を描いてみようという設定なの。そうすると一番多かったのが、あの頭がはげている人物は実は“かつら”で、その“かつら”が取れちゃった~ていう作品(笑)。取れた理由にもいろいろあって、風で飛んじゃったり、泥棒が持って行っちゃったり、猫がくわえていったり(笑)。ムンクの絵って実存的な絵なのに、それをそういう風に笑い飛ばすのって子供らしいなって。

高山: 本当に発想が自由ですね(笑)。そうやって作品を送ってくれた子どもたちに何かお返事はされるんですか?

結城: 紙面に掲載した作品には必ず全部コメントを書いています。多い時は月に500通ぐらいになるから大変なんですよ。送られてくる絵は絵の具とか色鉛筆とかいろんなもので描かれているから、アイデアに対してコメントするだけじゃなくて、絵の描き方や色の使い方にも一言、言ってあげたいんです。ただ、数が多いから段々こっちのボキャブラリーも尽きてくるのね(笑)。だからいつも一生懸命考えながらやっています。コメントを書くのも連載が始まってからずっとやっているので、もう11年間続けているんですよ。自分でもよくがんばっているなって思います(笑)。

高山: 私は結城さんの絵本や企画が大好きなんですが、小学館から出版されている「小学館あーとぶっくシリーズ」もすごく分かりやすくて楽しいですね。

中根: 今回初めて「あーとぶっく」を拝見したんですけど、すごく面白かったですね。特にモディリアーニの号は勉強になりました。僕はモディリアーニって温かさと冷たさが同居している感じがして、嫌いじゃないけれど、よく分からない、みたいなところがあるんです。だけど、結城さんの絵本に、“あえてよかった”っていう手書きの文字が繰り返し使われていて、何か彼の人に対する優しい視点や姿勢を感じて、今まで以上に好きになりました。

結城: 「あーとぶっく」はもともと自分が子供の頃に絵画に出会ったときの感触を追っかけるような感じで始めたんです。だから子ども向けというよりも、大人になっても子供の心を持っている人たちを対象にしていたところがあるの。絵本の中の言葉も私自身が感じた言葉を載せていて、モディリアーニに関しては、私も彼の作品に“あえてよかった”って思ったんです。シリーズの最初はゴッホだったんだけど、その時に使った言葉は“うずまきぐるぐる”(笑)。神聖なるゴッホに対してうずまきぐるぐるとは何たることか、という人もいて、その気持ちも分かるんだけど、自分が子供の頃にゴッホの作品を見たときにはうずまきぐるぐるしか見えなかったのね(笑)。でも、いざ出版するととても大きな反響があって、実際には小さなお子さんたちもたくさん読んでくれているっていうのを聞いて嬉しかった。

高山: 結城さんはそういう出版物だけじゃなくて、ワークショップも行って子どもたちと触れ合っていらっしゃいますよね。

結城: そうですね。実際にワークショップをやるとわかるんですが、子供たちのパワーはやっぱりすごいですよ。容赦しないし、手加減もないですから(笑)。ワークショップをやっている間はこっちもテンションが上がるので相手をしていられるんだけど、家に帰るともう3日間ぐらい何も出来ません(笑)。でも大変なこともあるけれど、もちろん、毎回子供たちから教わることや考えさせられることもたくさんあって楽しいですね。
ただ、最近気になるのは子供たちが多様化しているっていうこと。絵を見ることに関しても驚くほど詳しいお子さんも増えていて、それ自体は悪いことではないと思うんですが、そういった絵に対する知識や経験の差がどんどん激しくなっている気がするんです。やっぱり子供たちには友達みたいに絵に接して欲しいっていう気持ちもありますしね。
今日も会場で子供たちを見かけたけれど、こちらの美術館にいらっしゃるお子さんたちはいかがですか?

海老沢: おっしゃる通り、もう本当にいろいろですね。やっぱりこういう場所に慣れているかどうかでも全然違いますし、大人しくしてちゃんと見てくれるお子さんも多い反面、逆に大人の方がよくなかったりする場合もあります(笑)。

結城:昔、パリのピカソ美術館を借り切ってインターナショナルな子供たちとワークショップやったことがあったのね。その時に子供たちが美術館の中を走り回るんですよ。でも例え一点でも壊したら大変なことでしょ。だけど、子供たちに単純に走っちゃダメって言っても通じないから、どうしたらわからせることが出来るんだろうって、一晩考えに考え抜いたの。それで見つけたのが「この絵は世界にたったひとつしかない絵なのよ」って言葉。これが壊れちゃったら、私たち人類が見ることの出来る絵が無くなるのよって。その時はちゃんとわかってもらえました。そうやってちゃんと伝わると、こちらもやってよかったって思うし、また元気をもらえますね。

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