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今月のゲスト:近藤 康弘さん@ポンペイの輝き


『遺されるもの、伝えられること』


海老沢: 近藤さんは建築を設計されるときに、古代の建築物を参考にされたり、そういうものからインスピレーションやアイデアを得たりされることはあるんですか。

近藤: ヨーロッパの歴史的な建築物っていうのは僕らも大学で勉強するんですが、例えばポンペイの住宅にもあったペリスチュリウムと呼ばれる回廊の中庭みたいな仕組みや天窓があるアトリウム等、いろんな事を学んだり、大事にしたりしたいと思っています。ただ、現実的には日本とヨーロッパでは考え方が違う部分ももちろんありますから、必ずしもヨーロッパの歴史的な建築の様式や街作りがそのままもって来られるわけではありません。ですから、そこはパラレルに考えなければいけないと思います。

海老沢: 近藤さんはイタリアでも仕事をされていると伺いましたが。

近藤: トレントだとか、ナポリだとか、いろんなところでやっていますね。ミラノ工科大学の設計もやりました。僕がイタリアが好きだっていうこともあると思うんですが、イタリアでの仕事は本当に楽しい思い出ですね。
最近、日本では都市部だけではなくて、地方でも近隣との人間関係が希薄になっているってニュースを読んだんですが、ポンペイの街の人たちは噴火の時に、例えば妊婦の人がいると、一族が一緒になって行動して、結局みんな逃げ遅れてしまったというような、家族や共同体としてのつながりの強さを感じさせる話がありますよね。設計においても、コミュニティやコミュニケーションっていうのが、改めて大きなテーマになって来ているんですね。街作りでも、その中にある建物に比べると、広場や道路っていうのはそう簡単に変えられるものではないですよね。だから今、ランドスケープじゃなくてストリートスケープって言っているんですけど、自分の権利のある土地のことだけ考えるんじゃなくて、街を、道を、どう作っていくかということを考えていこうと。建物っていうのは、その時代の宗教や権力の影響を受けますし、壊されたり継ぎ足されたりしますから、必ずしも純粋に残るわけではないですよね。

中根: なるほど。ポンペイも噴火があったから残ったけど、それがなかったら建物なんかは時代と共にどんどん形を変えていった可能性があるということですね。

近藤: 展覧会を見て、人は亡くなって灰になってしまっても、金の装飾品や銀の食器、剣等の物品、それと住宅や街の構造なんかは残るんだなあと思いました。だからこそ人間は金や銀に執着するのかなと。普通は政治や体制が変わると塗り替えられるわけじゃないですか。今回はそういうのが残っているからすごいわけで。もちろん今回も上から塗られているものもありますけどね。

宮澤: ヨーロッパの文化って上塗りの文化だなあって言うのはつくづく感じますよね。上塗りってこういうことかと。ペンキの層なんてすごく厚いですよ。上に上にって重ねてきたのが分かる。

近藤: 今の時代は、建築においても新しく作るというより、いかに再生するかとか、何を残すかって言うことがテーマになってきていますよね。

中根: でも、そうやって何かを“残す”仕事が出来るってうらやましいですね。今、東京が何らかの形で埋もれてしまったら、2000年後に掘り出された時に何が出てくるんでしょうか。

宮澤: 今の東京なんて、とにかく作っては壊しているから、残るとか残すとかっていうこととはもう別の次元のような気がするよね。

近藤: そういう意味ではBunkamuraはすばらしいですよ(笑)。ちょうどBunkamuraの建物の裏にアートギャラリーの敷地があるんですね。そこに学生たちを連れていって、渋谷という街をどう読み解くかを考えるんです。このあたりは、松濤という街と渋谷という街の境界面みたいなところにあって、いずれの顔も持っているんです。ある意味特殊な場所ですよね。だからその両方併せ持った場所に何を作るかということを学生たちと話し合う。

宮澤: 普通、渋谷っていうと文化村通りの方から入ってくるのが“表”なわけですけど、今日はたまたま井の頭線の神泉駅から来たんですね。そうすると、やっぱりちょっと違いますよね。やっぱり“裏”だなと。百貨店に立っている旗も全部反対向いているんですよね。それでも、電線がごちゃっとしていたり、いろんなお店があったり、ある種のパワーを感じますよ。

近藤: Bunkamuraのカフェ・ドゥマゴにしても、クリエーターの人たちがよく使ってますよ。こんないい場所ほかに無いってね。例え渋谷の街が廃墟になったとしても、Bunkamuraの骨格や跡みたいなものは残ると思うんです。僕らが仕事をしていく上で、そういう部分で後世に何かを伝えられることもあるだろうし、そこで何を伝えるのかを考えることもとても大事なことだと思います。

  編集後記
 
 

近藤さんは、Bunkamuraの建設に携わっていただいたBunkamuraという建物の産みの親的な存在の方で、オープンから20年近くたった現在でもBunkamuraをあたたかく見守ってくださっています。今回のポンペイ展はミュージアム初の古代モノ。いつもの「美術品鑑賞」とは違う展覧会なので、都市・社会・文化・歴史といった要素と強く結びついた建築デザインという視点からポンペイ展を見てもらったら面白いのではないかと思って、半ば強引に(!)お声がけさせてもらいました。 ギャザリングの前にポンペイや古代ローマの文献や資料で予習してきてくださり、かえって私たちが教えてもらうことの方が多く、その知識欲や探究心がより時代にあった建築デザインの源になっているんだなと感服させられました。

海老沢典世(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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