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今月のゲスト:近藤 康弘さん@ポンペイの輝き


ID_017: 近藤 康弘さん(建築家)
日 時: 2006年6月13日(火)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、海老沢典世)

PROFILE

近藤 康弘(こんどう やすひろ)
一級建築士/石本建築事務所プロジェクト推進室設計・監理部長
日本大学理工学部建築学科非常勤講師
代表作:Bunkamura、ミラノ工科大学ボビーサキャンパス《イタリア》、海南島国際展示場《中国》、
Shinevill Luxury Resort 《計画中:済州島:韓国》、TINIAN島 MATUA-BAY CASINO & GOLF RESORT《計画中:北マリアナ諸島》、医学書院新本社ビル《建設中:文京区本郷》
WEBサイト:http://www.ishimoto.co.jp/


『ポンペイの繁栄と悲運』


海老沢: 今回の「ポンペイの輝き」展、いかがでしたでしょうか。

近藤: ローマ帝国やポンペイの遺跡についての興味って、一般的な視点と専門的な視点と両方あると思うんですね。今回こういう機会をいただいてまず思ったのが、たくさんの方が展覧会を観ていらっしゃるんだけれども、皆さんどういう興味でご覧になっているのかなということなんです。
蛇形の金の腕輪とか、装身具にもすばらしいものが多いのですが、そういったものの美しさを純粋に鑑賞されているのか、考古学的な視点を持って当時の暮らしぶりを想像したり現代と比較したりされているのか。

宮澤: 今回難しかったのは、ポンペイの“輝き”と“最期”の両面をどう見せるかということなんです。実は最初は綺麗に見せようとしたんですよ。ポスターの中の写真も石像や壁画だけで。ただ、ポンペイと言えばやはり遺体の型取りが重要じゃないかというような意見もあって、第2弾としてのポスターの中にはそういうものも入れたんです。だから実際には、両方ともちゃんと観ていただいているんじゃないかと思うんですが。

中根: 僕はどちらかというと知識が少ないところで見ているからかもしれませんが、単純に装飾品の美しさ、完成度には目を奪われましたね。金の指輪にきれいな石をはめ込んだり、ガラスの中に彫刻を施したり、その技術の細かさ、繊細さは現代のアクセサリーと比較しても何ら遜色ないと思うぐらいでした。

海老沢: 2000年という時が経っているにもかかわらず、あまり違和感無く自分たちの生活と比較出来てしまうところは面白いですよね。お客様からも、そういうご意見をいくつかいただきました。今の日本は豊かだから、同じように天罰(?)が下るんじゃないか、というお声も(笑)。

近藤: 今回、ギャザリングに参加するにあたって、いろいろとポンペイについての資料や書籍をあらためて読み直してみたんですが、ポンペイにローマよりも古い闘技場があって、それも儀式的な要素で存在していたとか、住宅に庭園を造る、いわゆるガーデニングか大変重要な要素だったとか、入り口の二つの空間をゲストハウスとして開放する構造だとか、もちろん大学時代にも教わっていたんだけれど、そういった部分は仕事柄興味深かったですね。

海老沢: さすがに私たちはそういう視点でポンペイを捉えたことは無かったですね。やはり視点が違うといいますか。

近藤: ローマ市民になることによるメリットを与えて移住を促したり、市民の不満を解消するために闘技場や劇場を作ったり、そうやって社会のシステムを維持する仕組みがすでにこの時代に作られていたって言うのは驚きです。日本だと弥生時代のあたりですよね。噴火する前って、争いがなくて平和な時代で、貧富の差はあるけれど、ほとんどの人が“今日さえ良ければ”っていう考え方だったと思うんですが、それでも寝そべって食事したり、吐くまで食べ物を食べたり、そういう行動もちょっと信じられないですよね。そこまで人間って堕落するのかなと(笑)。

宮澤: やっぱりそれだけこの時代が豊かだった、ってことなんでしょうね(笑)。

近藤:ちょっと残念だったのは、いろんなところでポンペイの遺産が公開される中で、今回はここが特別なんだっていうのがもう少し伝わってくればよかったかなと。壁画にしても、ポンペイの赤って言われているように、色がすごく鮮やかですよね。2000年前のものとは思えない。そういう興味のきっかけをもっと与えてくれると展覧会としてもさらに面白いものになるのにと思いました。

宮澤: 確かに壁画って今回の目玉ですよね。実際壁画は保存も展示も大変ですから。

近藤: 船倉庫内の遺体の型取りでは、たくさんの骸骨があったようですが、あれは本物ですか、それとも復元されたもの?

宮澤: あれも基本的には型取り(復元)ですね。それぞれがパーツに分かれていて、それを最終的に組み合わせるんです。

近藤: 実は、そういった遺体の型取りを自分の中でどういう風に受け止めたらいいのか、正直わからない部分があったんですよ。ある意味では災害現場の遺体を復活して再現して見せているのと同じですよね。装身具もそうですよね。亡くなった誰かが身に着けていたわけで。

宮澤: もちろんこういう展示に関しては最初にお祓いをするんですが、それでも、やはりね。

近藤: だから資料や本をいろいろ読んだということもあるんです。それで、ポンペイの遺した物が本当に様々なことを伝えているんだっていうことをちゃんと理解して、であればこういう風に展示して当時の暮らしぶりを見せることが意味のあることなんだと納得したんです。展覧会の冒頭にもそういうことが書いてあるのも同じ理由だと思うんですが。

中根: 僕なんかは、遺体や骸骨に驚きながらも、こういうちゃんとした美術館に展示されているだけで、歴史的価値のあるものだという前提で見てしまいますが、おっしゃるような感覚を持つことはやっぱり大事ですよね。

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