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今月のゲスト:篠原 俊之さん@写真展 地球を生きる子どもたち


『写真を見せるということ』


鷲尾: 今回は「地球を生きる子どもたち」というタイトルですが、「地球」や「子ども」というタイトルで、行くか行かないかを決めてしまう人って結構多そうですね。写真展はタイトルを考えるのがとても大変ですよね。

篠原: 確かに最初、子供の笑顔が写っているポスターを見た時に、ピュアな子供の笑顔なんかが盛りだくさんの展覧会なのかな?というイメージはありましたね。実際はもっと骨太でしたが。例えば僕のギャラリーで企画展をやる時にも、写真家とこちら側とでフライヤーに使うイメージが微妙に異なるっていうのはよくあるんです。写真家の側は、プロモーションの段階からしっかりとイメージを打ち出していきたいと思うし、我々の方は本編の内容はちゃんと会場に来ていただいてからという考えがある。そのバランスの取り方はやっぱり難しいですよ。

海老沢: それは今回も本当に悩んだところなんです(笑)。先ほどの収容所の写真のように希望を感じさせる作品もありますから、決して悲惨な情景を写したものばかりではないんです。しかし、ポスターに使う写真によっては重い内容だけを連想させてしまう結果になる。今回ポスターに二つのバージョンがあるというのはそういうことなんです。

篠原: そういうことも含めて、写真展って本当に難しい興行なんですよね。いろんな縛りも多いですしね。映画みたいにすべったから2週間で打ち切るとかができない。2ヶ月と決めたら入らなくてもひたすらやり続けないといけないんです(笑)。 東京って写真ギャラリーが多いところなんですよ。カメラメーカーとかフィルム会社が運営しているところも含めると80箇所くらいあるんじゃないですかね。写真プリントの販売ってビッグネームの作家さんの作品でもせいぜい数十万円程度なんですね。相対的に他の美術品と比べると安いんですよ。今、ギャラリーのレンタルの方では、しっかりと若いアーティストたちに最低限必要なビジネス感覚とか、プロのアーティストとしてやっていくためのスキルみたいなものを身に付けてもらって、一緒に仕事をしていきたいですね。

中根: 最近、20代の若い人たちが、写真にしても映画にしてもドキュメンタリーを好む傾向があるような気がするんですよ。僕は80年代に青春を送ってきましたけれど、その頃に比べると、身近に戦争があるしメディアもやらせばっかりで、そんな中で育つうちに、ひょっとしたら現実と虚構の境界線がわからなくなってきているんじゃないかと。だから、写真でも映画でも「これは現実なんだよ、本当なんだよ」って提供されるものしか自分がいる世界のこととして認識できない。現実がほしい、みたいな。もしそうだとすれば本当に心配なんですよ。まあ、ドキュメンタリーが真実かどうかはまた別問題ですが。

宮澤: 真実を見たいというのはあるかもしれないね。この写真展に関して思うのは、これを見ている僕とここで写っている子供とでは同じだということなのね。つまり彼らは自分が置かれている状況がわからないのよ、多分。銃や戦車が怖い、っていうのはわかるけれど状況は把握できていない。写真を見れば貧乏なのはわかるけれど、子供たちは自分を貧乏だと思っていないし、貧乏がどういうことかもわからないでしょ。だから情報があまりにも少なくて、見ている僕とここに写っている子供とは、結局同じ土俵というか世界にいるんじゃないかな。だからこの写真展の持っているメッセージには強い独特なものがあるんじゃないかなと思いますね。

鷲尾: 僕はやっぱり写真って強い存在だなと改めて思いました。その強さゆえかもしれないけれど、それこそ見たくないという人もいれば避けて通る人もいる。しかしその反面、受け取る人の数だけ受けとめ方もあるし。不思議な存在ですよね。僕自身も写真を撮りますが、未だにわからないことがいっぱいあります(笑)。 だから面白いんですが。

篠原: 僕はあえて写真というメディアについて定義づけしない方がいいと思っていますね。おっしゃるように写真はあまりにもいろんな形をしていて、利用のされ方もまちまちですよね。写真を見る方もそれを送り出す方も、全方位的に全部付き合っていったら体がもたないわけで。 だから僕のように小さなギャラリーという場所で写真を扱うからには、自分が面白いと思うもの、自分のイメージしている写真というものを根っこからひっくり返されるようなもの、そういう驚きを提供してくれるものを、僕はこの辺がいいなと思うんだけどどうかな?という風に切り取って見せていければいいんじゃないかと思いますね。

  編集後記
 
 

Bunkamuraザ・ミュージアムでは1~2年に一度くらいの頻度で写真展を開催しているので、美術展が続く中でたまに写真展を行うことでなおさら写真というメディアの特異性を実感させられることが多いのですが、今回の展覧会は特に、“強さ”を強烈に感じさせるものでした。篠原さんとお話していて、その“強さ”の理由や、写真の背景を知ることで増す写真鑑賞の深みなどを知ることができ、とても有意義でした。今回の展覧会は、ビックリするくらい若いお客様が多く、会場の出口で書いていただいているアンケートにも熱い感想をたくさん寄せていただきました。中には「はじめて美術館に来た」「はじめて写真展を見た」という方も多く、これをきっかけに写真のこと、美術館のことに興味を持っていただければうれしいですね。

海老沢(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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