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今月のゲスト:篠原 俊之さん@写真展 地球を生きる子どもたち


ID_012: 篠原 俊之さん(写真ギャラリーオーナー)
日 時: 2005年2月16日(水)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(鷲尾和彦、中根大輔、海老沢典世)

PROFILE

篠原 俊之(しのはら としゆき)
フォトディレクター/ルーニィ・247フォトグラフィー代表。

1972年

東京生まれ
大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業。在学中より写真展を開催し作品発表をスタート

1996年より

東京写真文化館の設立に参画し、2004年の閉館までディレクターを担当

2005年 新宿区四谷にギャラリー「ルーニィ・247フォトグラフィー」を設立。
(社)日本写真協会会員 バンタンデザイン研究所講師、京都造形芸術大学非常勤講師

Roonee HP


『写真家の視点』


鷲尾:篠原さんはご自身も写真ギャラリーを運営されている立場なので、いろんな視点をお持ちだと思うんですが、まずざっとご覧になった率直な感想をお聞きしたいと思います。

篠原:今回は子供という視点で撮っている写真ばかりですけど、それにしても膨大な量ですよね。写真ってその場に行かないと写せないじゃないですか。それがこれだけの場所にこれだけの人が行って、全部写真という形になって残っている。これを一観客として受けとめるというのはなかなかエネルギーが要りますよね。そういう意味ではテーマごとにブースが分かれていたり、途中にイスが置いてあったりするのはとてもよい配慮だと思いました。写真は他のメディアと比べてサイズが小さいので、他のメディアの展覧会と比べるとどうしても作品数が多くなるんですよね。しかし、ご覧になっているお客さんは若い人が多いように感じたのですが。

海老沢: 今回は若いお客様が圧倒的に多いです。こういう写真展では、あまり日本人の写真家の写真が出てないんじゃないかと言われることがあるんですが、今回は違いますね。特に日本の戦後を写したものだったり、それが今活躍している写真家に繋がっていくところだったり、そういう部分を面白いと再認識される若い方が多いようです。

鷲尾: 篠原さん、今回はじめて見つけた写真ってありました?

篠原: これはいい写真だ、と思ったのが、宮武東洋さんという日系アメリカ人のカメラマンが撮ったマンザナー強制収容所の集合写真(「収容所のグラマー・スクール(初等中学)の記念写真」)ですね。僕、初めて本物を見たんですよ。これは確か1942年頃だと思うんですが、ルーズベルトが真珠湾攻撃直後に、アメリカ中に住んでいる日系人・日本人を強制的にマンザナーという収容所に収めたときの写真ですよね。宮武東洋さんという人は当時ロスのリトルトーキョーで写真館を営んでたらしいんです。収容所の施設の中にカメラを持ち込むことはできないんですが、カメラはダメでもレンズならいいだろう、といってレンズを1本忍ばせて中に入ったんですよ。カメラ本体は板を使って作ればいいと。すごく頭のいい人ですね。この写真のバックに写っているのは家なんですが、コールタール塗っただけのすごく粗末なバラックです。こういう状況はまずいんじゃないの?ということで、アメリカ人のジャーナリストなんかも取材に行っているし、アメリカ人のカメラマンが同じように家をバックに撮った集合写真も多いんです。けれどもそこでは誰も笑っていないんですね。すごく過酷な条件の中でつらい生活をしていたらからなんでしょう。でも、宮武さんが撮った写真は唯一子供たちの表情が緩んでいる。希望を感じさせる明るさがあるんです。

海老沢: 確かにそういう背景を知らない人が見ると、いい意味で“普通の写真”ですよね。

宮澤: でもそれは比較する視点とか、背景や歴史抜きでは伝わってこないですよね。普通の人がこれだけ見てもわからないと思うんですよ。まあ、それは写真に限ったことではないけれど。

鷲尾: 確かにそれはそうかもしれませんね。今の話も篠原さんが写真について知識があったから発見されたというところもあると思います。でも、同時にそんな知識が関係ないのも写真だと思います。目の前にまさに写しだされているわけで、素直に見ればいいだけだと思います。その1枚1枚の写真がそれぞれの時間の流れや背景を持っていて、それはその中に写し取られています。それぞれにある固有の物語を自分の眼で見ていけばいいのだと思います。今回は「こども」がテーマの写真が集められていますので、同じ「こども」を写した写真でもそれぞれにどんな物語があるのかを見比べてみると気付くことが沢山あると思います。

篠原: その意味では、ロバート・キャパの写真が撮った「こども」の写真はやはり強かったですね。数点しか展示されてなかったと思いますが、同じ時期に同じ場所にカメラマンたくさんいたはずなのに、彼の写真はすごく際立っていますよね。彼の写真に写っている子供の表情を見ていてもわかるじゃないですか。そんなにやさしそうな顔をしていないですけどね、あの人は(笑)。でも子供の顔の表情は自然に緩んでいるというんですかね、小さい子の心の中にふっと入り込めるというか、それは彼の才能なんだろうな、と思いながら見ていました。それから、荒木さんと森山さんの写真も好対照で面白かったですね。子供が好きな人と子供の嫌いな人の視点がよく出ていたと思います(笑)。

鷲尾: 「さっちん」の中のあの1枚が選ばれているのはびっくりしました。とてもいい写真ですね。キャパ以外にも、セバスチャン・サルガド、ユージン・スミス、ドロシア・ラング等、名の知れた写真家の写真も沢山ありますが、みんな子供に対する距離の取り方、接し方が違っていて面白いですね。

篠原: そうですね。展示会のテーマから、もちろんドキュメンタリーとして見ることもできると思うんですが、カメラマンがどういう風に子供を見ているのか、というのが歴然として違うんですよね。その辺が見ていて感じたし、面白かったですね。

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