ミュージアム開放宣言ミュージアム・ギャザリング ― ミュージアムに出かけよう。ミュージアムで発見しよう。ミュージアムで楽しもう。

今月のゲスト:木下 和也さん@グッゲンハイム美術館展(2)


『経験できる“場”の強さ』


中根: 木下さんは本や音楽等のコンテンツ制作・プロデュースを中心に活動されていらっしゃるけれど、同時にカフェも運営されていますよね。そこが面白いですね。このギャザリングもそうなんですが、要するに“実際に会って話をする”っていうことを重要視されているんじゃないかなと。

木下: そうですね。もちろん出会いの場でありそこが面白いんですが、カフェという空間はそれ自体がメディアであり、コンテンツであり、ソフトウェアでもあると思っています。出版や音楽の制作の仕事って事務所があればできちゃう類のものなんですね、だから作ったものが実際に使われる空間を作ることによって、リアルを自分たちの中に取り込みたかったんです。また、お客様という他人が自分の中に入ってくる感じみたいなものを感じてもみたかった。僕らの会社の1Fと2Fはお客様にきて頂く空間にしています。1Fと2Fでは空間の作り方を変えてみました。人に来て頂く以上人がどう感じるかを考えながら、1Fのカフェはデザインして作り、2Fのイベントスペースはスタイリングで作りました。デザインはある種「緊張」を導入するので、カフェはデザインしながらどれだけユルクできるかをやってみたかった。人間ってあんまりユルユルな空間だと飽きちゃって楽しみが持続しない。2階は基本的にはイベントスペースなので飽きない「緊張」はイベントの主人公が持ってきてくれればいいのでスタイリングでいこうと。やっぱり空間は面白いです。人の五感を集約しますから。

中根: やはり昔に比べたら個人でも簡単にメディアをリリースできるようになってきていて、本にしろCDにしろ、それを作っただけで自分の表現欲が満たされたり、完結したりするっていうことはなくなってきていると思うんです。だからもっと今までとちがう強度のあるメディア作らないといけないんですけど、それはもう少なくとも現存のメディアでは難しいかもしれませんよね。現実の“場”も含めてもっといろんな可能性がある気がします。

木下: 基本的にはやっぱり統合的でなきゃだめだと思いますね。空間って経験できる絶対性があるじゃないですか。強度っていう意味では「経験」って何事にも代えがたい強いものだと思います。経験する場と情報を得るメディアとは機能も役割もちがう。しかしこれらを合わせて使いこなす発想が必要でしょうね。そうでないと、充実したコンテンツを人に提供することというのはできないんじゃないかと思ってます。

宮澤: 例えば今回も何点か出ているモンドリアンの絵もそうなんですよね。彼の絵で特に有名な格子のモチーフの作品がありますよね。あの作品もパッと見た感じが幾何学的な模様が描いてあるだけなんだけれど、彼はあれを油絵で描いているんですよね。で、近くでよく見ると微妙なブレなんかもあるんです。主張や美学じゃなくて、そういう視点から見る面白さもあるわけですよ。こういう事ってなかなか展覧会のカタログなんかには書いてないですよね(笑)。つまり目の前で見て、体験しないとわからない面白さがあるってことなんです。

海老沢: 今回の展覧会では、他にもマグリットなんかがそうですよね。あれを全部手で描いている凄さっていうのも実際に見ると感じますよね。凄い絵こそやっぱり目の前で見てほしいです。

鷲尾: そして、そういう経験的なところから生まれる言葉というのは、それが正しいとか間違っているとかいうことを越えたところで人を引きつけますよね。よく見たら“油絵だった”、とか“線の揺れを感じた”という発見の言葉は解説や論説じゃない。解説や論説ではなく、自分自身が見つけた経験の方がやっぱりその人にとってとてつもない価値があるし、僕はそこから生まれた言葉しか信じられない気がしています。

木下: アーティストの作品っていうのは、間に入って翻訳する人によって全然違うものになってしまう、非常に微妙な対象物だと思うんですよね。でも誰かがそれをアナウンスしなければ皆に伝わらないし、残らないこともある。僕らの仕事は音楽でいうとPA、パブリック・アドレス。間に入る拡声器みたいなものかもしれないとときどき思います。

中根: そういう意味では、素晴らしいとか楽しいとかはもちろん、発見を経験ができる“場”なんだ、ということをうまく伝えられれば、ザ・ミュージアムってメディアとしても強度があるっていうことだと思うんですよ。

木下: そうですね。実はこんなに贅沢に「人」を感じられる空間は美術館をおいて他にないのかもしれないです。やはり「人」を経験をする場所という存在として、美術館って凄く重要な場所だと思います。こうした場で得られる発見と五感の体験を、他の多くの人とシェアできるといいですね。機会やメディアを上手に使ってそこができればいい。美術館がそんなことをやるステーションになってもらえたらきっととてつもなく楽しいですね。

  編集後記
 
 

以前からマーブルブックスシリーズの大ファンだったということもあり、今回の木下社長とのギャザリングを個人的にもとても楽しみにしていました。お忙しいスケジュールの合間を縫って参加してくださったのですが、お話しはそのお仕事内容と同様に多岐にわたり、大変濃い時間となりました。
そして改めて、経験できる“場”の一つとしてのBunkamuraザ・ミュージアムにおいて、これからどんなことをしていけるかということについて積極的に考えていきたいと感じました。
皆さんも、こんなことができたらより美術館が楽しくなるのではといったアイデアや、こんなイベントがあれば是非参加したいなどのリクエストがありましたら、是非ご意見お聞かせください!!

(高山)

 

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