ミュージアム開放宣言ミュージアム・ギャザリング ― ミュージアムに出かけよう。ミュージアムで発見しよう。ミュージアムで楽しもう。

今月のゲスト:西岡 文彦さん@モネ、ルノワールと印象派展(3)


ID_005: 西岡 文彦(版画家、美術評論家、多摩美術大学助教授)
日 時: 2004年4月7日(水)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

西岡 文彦(にしおか ふみひこ)
1952年生まれ。
日本の民芸運動の始祖、柳宗悦門下の版画家、森義利に入門、徒弟修業により古来の伝統技法
「合羽刷」を修得。日本で数少ない伝承者となる。日本版画協会および、国展で新人賞を受賞した
後、広告出版の分野でも活動。ジャパネスク等のコンセプトを発案。
近年は、専門用語を使わない、わかりやすい美術解説のための出版・放送企画を多く手がける。
主な著書「絵画の読み方」(宝島社)「二時間のモナリザ」(河出書房新社)「五感で恋する名画鑑
賞術」(講談社」等。「新日曜美術館」「芸術に恋して」「誰でもピカソ」等の美術番組でナビゲー
ター役をつとめる。


『みんなが欲しがる印象派絵画』


高山: 西岡先生は印象派の魅力をまとめた「二時間の印象派」という本も出版されていらっしゃいますが、今回の印象派展はいかがでしたでしょうか。

西岡: 思ったよりいい作品が揃っているので驚きました。特に睡蓮がいいですね。睡蓮のシリーズは数が多いので、お客さんの期待に応えるのが難しいと思うんですよ。「私の好きなのが無い」とか「もっといいのがあるでしょ」とかね(笑)。でも今回はなかなか充実していると思いますよ。あと、スーラの作品に感動しましたね。スーラって全部“点”に還元しちゃうんで、ともすればちょっと冷たい感じを受ける場合があるんですが、これくらい肉筆のタッチが残っているといいですよね。もちろんルノワールが描いた一連の子供の絵なんかも「よく集めたなー」っていう感じで、見ごたえがありました。

宮澤: 例えばひとつの美術館のコレクションをまとめて持ってくるようなやり方だと、必要の無いものまで入ってくる可能性があるんですが、今回はちゃんと選んでいますからね。ルノワールに関しては、個人コレクションから集めたものが多いからということもあるかもしれません。やはり家に飾る絵としては、子供を描いたものが人気があるんだと思います。

西岡: “みんなが欲しくなるような絵が集まっている”、という意味では、来館者の方々にも喜んでいただけるんじゃないですか。全体的な作品の量も日本人にはちょうどいい感じだと思いますよ。だから、最近観た印象派の展覧会では一番バランスが取れていて充実しているんじゃないかな。

宮澤: 量的には結構人間工学的に考えているんですよ。例えば音声ガイドもそうなんですね。大体30分で終わるようにしているんです。作品1点につき1分ぐらいの説明で、25~27点程度聞いていただく感じですね。それで他の作品の鑑賞も含めて、全部で1時間ちょっとみたいなのが、一番疲れないんじゃないかと。外国の美術館だと結構量が多いところありますよね。最初は意気込んで観ているんだけれども、最後の方のデッサンなんかになるとちょっと辛くなる。

西岡:メトロポリタン美術館なんてホント嫌になるほど巨大ですもんね(笑)。ルーブル美術館なんかだと区画がはっきりしているから、今回はこれを見るっていうのが出来るけれど。そういえば、今回、目に留まったのが、このロートレックの『バティニョールにて』に使われているホワイトの混じったグリーン。これは印象派以前のヨーロッパ絵画ではあまり見られない貴重な色なんです。明らかにジャポニズムの影響ですよね。白緑(びゃくろく)という名前の色なんですよ。ヨーロッパの人はこういう色は苦手で、青が好きでしょ。青は多分位の高い色なんだと思いますよ。日本人が赤とか金に持っているイメージに近いんじゃないかな。ゴッホもそうですよね。どんな絵の具にもホワイトを混ぜて塗るというのは、基本的にジャポニズムの影響を受けていると思いますよ。

宮澤: 白って言ってもそれこそいろんな種類があるじゃないですか。シルバーホワイトとかジンクホワイトとか。ここで使われているのはどういうものなんですか?

西岡: ゴッホが使っていたのは確かジンクホワイトだったと思いますよ。ジンクホワイトのほうが安いんですよ。まあ、印象派の人たちに限らないけれど、基本的にみんなお金無いですからね。モネとか自殺しかかっていますから。ルノワールだって晩年こそ絵が売れましたけど、最初はやっぱりお金が無いから、当時付き合っていた女の子と別れているでしょう。その女の子って、確か建築家と結婚しちゃうんですよ。だけど、ルノワールはまだぜんぜん売れていないから引き止められない。何か他人事と思えないなあ(笑)。で、その子を描いてる時代の彼のヌードって割とスレンダーなんですよね。対照的に彼女と別れた後に描いている女性はどんどん太めになっているような気がする。なにかトラウマになっているんでしょうかね(笑)。

中根: ルノワールっていろんな女性を描き続けたみたいですが、やはり最初の女性っていうのは忘れられないものなんですかね。それにしても建築家っていつの時代も人気があるんですね

西岡: やっぱり仕事をするスケールが違うと思うんですよ、桁が。ただ、モネなんかは売れるようになってから、昔、自分を冷遇した人たちに対して多少復讐めいたことをしたみたいですけどね。有名なのは、確かオペラ歌手を相手にした話ですよね。オペラ歌手があるモネの絵を「これは真っ白じゃないか」と言って買わなかったらしいんですね。その後、何年か経ってモネが有名になってから再びそのオペラ歌手が買いに来て、同じ絵を「これがいい」、と言ったら、「それは白すぎる」とか何とか言って売らなかったんだと思います。まあでもルノワールもモネも生きている間に経済的に恵まれたわけですから、それだけでも幸せなんですけどね。

次へ


ページトップへ
Presented by The Bunkamura Museum of Art / Copyright (C) TOKYU BUNKAMURA, Inc. All Rights Reserved.