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今月のゲスト:曽我部 俊典さん@モネ、ルノワールと印象派展(2)


『時代の流れの中で』


海老沢: 曽我部シェフは、もう何度もフランスに行かれていると思いますが、やはりフランスでも印象派の作品をご覧になられたことはあるんですか?

曽我部: もちろんフランスに滞在しているときは、やはり美術館に入りますので、あちこちで目にはしていましたね。それだけではなくて、僕は東京に来る前は名古屋にいたんですが、名古屋のボストン美術館にも何度か足を運んでいて、そこでもモネやルノワールは見ていました。ただ、今回のように“印象派”というテーマで見たことはなかったです。だから、今回新たな気持ちでいろんな視点や角度で見ることが出来たのは勉強になりましたね。
印象派だから、と言うわけではありませんが、あらためて本物を見る大切さも感じました。展覧会の画集も合わせて拝見したのですが、これだと大きさが実感としてわからないんですよ。本物を観ると、自分が漠然と想像しているよりも大きかったり小さかったりするじゃないですか。絵って近くで見るのと離れてみるのとでは全然印象が違うんです。だから、あらためてモネの大きな「睡蓮」を見ると、「きっとこのぐらいの距離から、こういう感じで見せたかったんだろうな」みたいなことが肌で感じられましたね。

高山: さすが、絵と料理というフィールドの違いこそあれ、一線でご活躍される方のご意見ですね。さきほどお料理の世界でも、フランスと日本で影響しあっているところがあるとのことでしたが、印象派の画家たちも結構日本の文化に影響されていますし、日本では印象派の作品がすごく人気があるんですよ。曽我部さんは印象派の魅力ってどういうところにあると感じられましたか。

曽我部: やはり最初に感じた“光”の表現の部分が大きいですが、絵画の歴史を変えたというところもすごいと思いますね。印象派の作品を見ていると、時代の流れみたいなモノを感じるんですよ。というのも、今、料理界自体が過渡期と言いますか、すごいスピードで動いているんですね。印象派の人たちが19世紀に新しいスタイルを確立したように、料理界もまた新たな時代に突入している感じがするんですよ。

宮澤: 1970年代のフランスでは、バターや生クリームを減らした軽いソースや、新鮮な素材を短時間で加熱調理する等の軽い料理を志向した「ヌーヴェル・キュイジーヌ(=新しい料理)」みたいな運動もありましたよね。

曽我部: そうですね。でもヌーヴェル・キュイジーヌも今は全く過去のものですね。今でもフランス料理が世界の高級料理の原点であるのは間違いないと思います。今のアメリカン・キュイジーヌだとかカリフォルニア料理だとかも、日本人がフランスで修業するようにアメリカ人がみんなヨーロッパに入って、それを持ち帰って現地で創り出したものなんですね。だからフランスに行くと日本人のシェフはもちろん、いろんな国のシェフたちがいますよ。そういう意味ではフランス料理はやはり最高峰として認められている。しかし、今の時代は料理そのものがすごいスピードで進化していますし、世界の料理が融合と言いますか、和も洋も中華もないというぐらいグローバル化しているんです。そしてその流れはどんどん進む一方なんですね。そういう状況下で、料理人としての自分の位置をどこに置くかということが、難しい時代になってきていると思うんです。
だから、大事なのは自分の感性をしっかり表現することだと思うんですよ。ルノワールは人間を対象にしていますけれど、目の前に立っている人は同じでも、描く人によって絵は変わってくるわけでしょ。それはつまり、描く側が感じていることが違うということだと思うんです。もちろん技術的な違いもあるでしょう。料理で言えば使っている素材の違いもあるかもしれません。しかし、人によって感性は違うわけだから、それが絵であれ料理であれ、要するに自分の感性を表現したものなんだと。そういうことがあらためてよくわかりましたね。


  編集後記
 
 

「モネ、ルノワールと印象派展」では、皆さんに、印象派絵画をより深く、より身近に感じていただけるようにと、“五感で楽しむ印象派”と題し、展覧会会期中に様々なイベントを開催しています。
 その味覚のパートで、プロヴァンス料理によって、見事に印象派の世界をお皿の上に表現してくださった曽我部シェフ。お話を伺って、料理の味、素材、色等に対するそのこだわりは、キャンヴァスを前にした画家の姿勢と共通するものを多く感じました。そして、“創作、表現するということの原点“を、“五感で感じることの大切さ”をあらためて認識させられました。
お客さまからも大好評のタイアップメニュー。是非、今後もこのようなコラボレーションを実現させていきたいです。

(高山)

 

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