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2024.07.03 UP
演出家ジョナサン・マンビィが語る作品の魅力
『A Number—数』
キャリル・チャーチルは現存する英国最高の劇作家であり、『A NUMBER(ア・ナンバー)』はチャーチルの傑作戯曲です。2002年の初演以来、本作品はヨーロッパにおける現代古典のレパートリーに加わりました。このダークで、時にコミカルで、複雑に交錯する道徳の物語において、チャーチルは「人間のクローンをつくること」を出発点に父と息子の関係を探求し、氏か育ちか(人間は遺伝子によって決まるのかそれとも育った環境で決まるのか)という議論に真っ向から立ち向かっています。そして何が私たちを私たちたらしめているのか、という問いに。
戯曲の構成も非常に見事です。1人の俳優(瀬戸康史さん)が同じ遺伝子を持つ人間の複数のバージョンを演じ、父親(堤真一さん)は過去の苦しみと向き合い、自分の行動がもたらした結果を受け入れることを余儀なくされます。この1時間ほどの、唯一無二とも呼べる戯曲の中で、チャーチルは人間の存在を肯定的にも悲観的にもとらえ、ある種の人間には悲劇的とも呼べる不変性があり、その一方で遺伝子決定論から逃れることができる人間もいることを示唆しているのです。
『What If If Only—もしも もしせめて』
この短い戯曲は、キャリル・チャーチルの最新の「フルレングス戯曲」です。スリリングでアドレナリン全開の20分、短くも爆発的な戯曲に人間としての経験が凝縮されていて、それは観客を刺激し、楽しませ、笑わせ、泣かせることになります。2021年にロンドンで初演されたとき、この作品は観客に大きな衝撃を与え、チャーチルが劇作で到達したことのあまりの凄さに驚愕しました。作品の中心となるのは、愛する人を失い悲しみに打ちひしがれる孤独な人物(大東駿介さん)。そして、どこからともなく、まるで彼の強い想いが呼び起こしたかのように、とある人物(浅野和之さん)が現れ、世界の軸がずれていきます。このユニークなゴースト・ストーリーは、失うことの傷み、そして多元宇宙の可能性という不条理な世界へ深く飛び込んでいく物語です。
キャリル・チャーチルからのお墨付きのもと、初めて一緒に上演されることになるこの2本の戯曲は、死、悲しみそして未知なる未来への希望について、非常に興味深い視点を私たちにもたらしてくれるでしょう。
※コメント内の上演時間は、イギリスで英語上演した際の上演時間です。本公演の上演時間は決まり次第公式HPにてお知らせいたします。